アメリカに自社商品を輸出して、新たなビジネスチャンスをつかみたいと思っている食品事業者もいるでしょう。
そのための第一歩として、米国医薬局(FDA)の登録に奮闘している事業者もいるかもしれません。
しかしながら、米国食品安全強化法(FSMA)で求められているのはFDAへの登録だけではありません。
輸出する商品の食品安全計画を作成し、実施する必要があります。
この記事では、FSMAの第103条で求められている食品安全計画の作成方法をわかりやすく解説します。
アメリカへ自社商品を輸出したいと考えている食品事業者はぜひご覧ください。
食品安全計画の概要
アメリカに日本で製造した商品を輸出するには、米国食品安全強化法(FSMA)の第103条に基づいた食品安全計画を作成する必要があります。
食品安全計画は、PCHF(ヒト向け食品に対する予防コントロール)規則のサブパートCにあたるもので、各食品事業者で衛生管理計画を策定するよう義務付けられています。
そして、作成した食品安全計画に基づいて、食品を製造・保管・流通する必要があるのです。
そのため、FDAの査察の通知が来てから作成するのでは、遅すぎます。
アメリカに日本で製造した食品を輸出する予定があるのであれば、輸出する前に食品安全計画を作成しなければなりません。
そしてアメリカに商品を輸出する際には、作成した食品安全計画に従いモニタリングを実施し、日々記録をつけていきます。
もし食品安全計画を作成していない、もしくは作成していてもモニタリングを実施していなければ、FSMAに則った食品製造をしていないとされ最悪の場合、輸出禁止になる恐れもあるので注意が必要です。
食品安全計画の構成
食品安全計画は次の4つのパートから構成されています。
食品安全計画の構成
- step1:チームの編成と基礎資料の準備
- step2:危害分析表の作成
- step3:予防管理表の作成
- step4:リコールプランの作成
食品安全計画の内容は、2021年6月に日本で義務化されたHACCPがベースとなっています。
既に作成したHACCPで商品を製造していて、アメリカへの輸出を検討している場合、HACCPをそのまま使用し、不足事項を補う形で食品安全計画を作成しても問題ありません。
なお、FDAが公開している企業向けのガイダンスによると、食品安全計画の策定と構築にかかる期間の目安は次の通りです。
- 既存のHACCPシステムなしで1から構築…約6カ月
- 既存のHACCPシステムありで構築…約3か月
いずれも食品安全計画の管理や運用を定着化するため、さらに数か月は必要となります。
このように食品安全計画はすぐに作成・運用できるわけではないので、早めの準備が必要です。
次の章からは、食品安全計画の詳細を見ていきましょう。
step1:チームの編成と基礎資料の準備
食品安全計画を作成するために、まずは対応するチームメンバーを決める必要があります。
HACCP7原則12手順の導入手順1と同じです。
ただ食品安全計画のチームでは、予防管理適格者(PCQI)を決めなければなりません。
予防管理適格者(PCQI)の決定
予防管理適格者(PCQI)はチームメンバーのリーダーとして、食品安全計画の策定や危害の予防管理の妥当性チェック、食品安全計画が適切に実施されているかの検証をおこないます。
予防管理適格者(PCQI)には、学歴・経験・資格などの基準は設けられていませんが、以下の要件を満たす者が望ましいとされています。
PCQIの要件食品安全計画作成ガイド│日本貿易振興機構(ジェトロ)
- FDAによって適切と認識されている標準化されたカリキュラムに基づく研修の修了者、当該カリキュラムと少なくとも同等な、リスクに応じた予防管理の開発と適用に関する研修を問題なく修了している適格な個人
- 実務経験によって食品安全システムの開発と適用と行う職務上の経験があり適格とされている個人
予防管理適格者(PCQI)は、社内でも外部の人でも可能ですが、食品計画書をスムーズに作成するためにも、最初は外部のコンサルティングを入れるのがおすすめです。
そこで必要な知識や手順を指導してもらい、最終的には社内でPCQIを選出するのが理想でしょう。
基礎資料
予防管理適格者(PCQI)が決定したら、食品安全計画を策定するための基礎資料を準備する必要があります。
基礎資料はFDAの査察時に提出の必要はありませんが、準備しておくことが強く推奨されています。
基礎資料は新しく作成する必要はありません。
HACCPなどで作成した次の資料をそのまま流用できます。
!基礎資料として流用できるもの
- 会社概要
- 製品説明書
- 製造工程図
step2:危害分析表の作成
製造する商品の原材料及び製造工程で発生する可能性のある危害を全て洗い出し、危害分析表にまとめます。
危害の種類は次の通りです。
危害の種類
- 生物的危害
- 化学的危害
- 物理的危害
危害分析表の作成は、HACCP7原則12手順の導入手順6「危害要因分析」とほぼ同じです。
ただ、食品安全計画の危害分析表では、危害を「重篤性」「発生頻度」の2つに分けて分析するので覚えておきましょう。
- 重篤性:疾病・傷害の重症度や起こりうる二次被害(後遺症など)
- 発生頻度:予防管理を実施しなかったときに事故が起こりうる可能性、過去の食中毒事故のデータ、類似製品のリコール例
たとえば、毛髪や汚れ昆虫片などはクレームの元となり、品質上好ましい状態ではありません。
しかしこれらの異物は、予防管理が必要な危害の対象とされないこともあります。
step3:予防管理表の作成
予防管理とは、step2の作業で特定した危害を最小限化または予防するための管理手順をチームで決定し、実施することです。
予防管理の種類は次の通りです。
予防管理表の種類
- プロセス管理
- アレルゲン管理
- 衛生管理
- サプライチェーン管理
予防管理は4つの種類がありますが、いずれもモニタリング・是正措置・検証の一連の流れで実施します。
また業種業態によって注意すべき点や手順が異なるため注意が必要です。
そして、予防管理の種類によってそれぞれ表や手順書にまとめられます。
step4:リコールプランの作成
出荷後に商品に重大な問題が発覚し、リコールする可能性はゼロではありません。
アメリカではリコールを次の3つに分類しています。
リコールの種類
- クラスⅠ:最も重大で重篤な健康被害や疾病、死亡発生の可能性の高いリコール
- クラスⅡ:健康被害や疾病が生じるものの治療により完全回復が可能とされるリコール。重篤な健康被害や死亡発生の可能性が低い。
- クラスⅢ:疾病を引き起こす可能性が低いが、食品ラベル表示の欠損など法規違反に当たるリコール
アメリカに輸出した商品にクラスⅠのリコールが生じた場合は、24時間以内にFDAや購入した消費者に報告する必要があります。
しかしながら、何も準備ができていないままリコールが発生してしまうと、対応が遅れて消費者に重篤な被害が及ぶかもしれません。
万が一のリコールで、消費者への被害を最小限に抑えるため、食品安全計画ではリコールプランの作成を指示しています。
リコールプランでは、誰がどのように行動すべきか、責任分担や手順を記載します。
リコールプランの作成手順は次の通りです。
リコールプラン作成手順
- 連絡先リストの作成
- プレスリリースのテンプレートを作成
- リコール対象製品のロットを特定できるよう管理
- リコールの手順とその有効性の確認手順を決める
- リコール製品の手順・処分方法の決定
リコールプランは作成したら終わりではなく、定期的に演習を行うよう推奨されています。
また実際にリコールが発生した際には、リコールの実施記録を残しておきリコール対応の評価と是正評価も忘れずにおこないましょう。
また、リコール再発防止のため、食品安全計画の再分析も必要になります。
食品安全計画の実施と記録
HACCPと同じく、食品安全計画は作成して終わりではありません。
食品安全計画は作成後、文書化して活動の記録を残しておく必要があります。
活動の記録は原則7営業日以内にPCQIが検証し、署名するよう定められています。
また活動の記録は少なくとも2年間保管しなければなりません。
その中で、是正措置すべき事柄があった場合は、食品安全計画の変更が必要になることもあるでしょう。
このように日々活動し、食品安全計画の是正・改善をしていくことで、より良い衛生管理ができるようになります。
食品安全計画の活動記録は次の3つに分けられます。
モニタリング
モニタリング記録とは食品安全計画に基づいた日々の活動の記録のことです。
実際におこなわれた、測定や観察、実施された日時や時刻、担当者の名前を記録します。
清掃に関しては、実施したことのみを記録するのではなく、実施後の出来栄え(綺麗になったなど)を記録しましょう。
作成した予防管理表に基づいて、次のような記録をします。
モニタリング記録例
- 受け入れ日時
- 冷蔵庫・冷凍庫内の温度測定
- アレルゲンラベルチェック
- 加熱の記録
是正措置
日々の製造を行っていく中で、リコールには至らないものの、人的ミスまたは機械の故障などでクレームが発生したり、食の安全が保証できない製品が製造されてしまったりするトラブルもあるでしょう。
このようなトラブルは大小かかわらず、詳細や是正措置の内容を記録する必要があります。
是正措置の記録
- 製品の特定
- 是正措置の内容
- 逸脱の記録
- 製品の評価・最終処分
検証
食品安全計画が正しく実施されているか、モニタリング記録が信頼できるものなのかを確認するには、定期的な検証が必要です。
検証には次のようなものがあります。
- 危害分析の妥当性確認
- 製品テスト
- ATP検査
- 社内教育
これら検証の実施記録も、食品安全計画の記録として保管します。
食品安全計画を作成するときによくある質問
食品安全計画を作成するときによくある質問とその回答をご紹介します。
食品安全計画は英語で作成しなければならない?
食品安全計画の言語は指定されていないため、英語で作成する必要はありません。
しかしながら輸入業者(アメリカの取引先)に課されている外国供給業者検証プログラム(FSVP)では、担当者が日本側で作成した食品安全計画の内容を理解する必要があります。
外国供給業者検証プログラム(FSVP)とは、アメリカの事業者が食品を輸入しようとするときに、取引先の業者が食の安全性に対して適切に対応しているかを確認し、検証結果をまとめることです。
外国供給業者検証プログラム(FSVP)で作成した検証結果のFDAの提出は必須ではありません。
しかし、FDAより情報開示の要請があった場合は、機密情報を除き提出する必要があります。
よって、外国供給業者検証プログラム(FSVP)の担当者が英語しか読めない場合、取引先から食品安全計画の英訳を求められるかもしれません。
食品安全計画はFDAに提出が必要?
食品安全計画はFDAへの提出や承認は必要ありません。
もちろん、FDAから求められた場合は提出が必要です。
しかし、それはイレギュラーなケースで、各事業者で策定した食品安全計画は車内で保存し、文書化され、確実に実施・検証できていればよいとされています。
また食品安全計画に決まった様式はなく、各事業者に任せています。
まとめ
日本からアメリカに食品を輸出したい場合、FDAの登録だけでなく食品安全計画の策定も同時並行で進める必要があります。
食品安全計画はHACCPがベースとなっているので、日本で流通している商品をアメリカに輸出する場合、一から作る必要はありません。
しかし、不足している項目の策定が必要なので、作成してからモニタリングを開始するまでに数か月かかることを覚えておきましょう。
まとめ
- 食品安全計画の策定と実施はFSMAで義務付けられている
- 食品安全計画では万が一のリコールが起きたときの対応方法も考える必要がある
- FDAの登録や査察に食品安全計画の提出は求められないが実施や記録を怠ると輸入禁止になる恐れがある
アメリカへ食品を輸出するには、食品安全計画の作成以外にもさまざまな手続きや資料の作成が必要です。
そのためさまざまな壁にぶつかることが予想され、だれかに相談したいと思うこともあるでしょう。
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