食品事業を開業するには、保健所から営業許可を取得するためさまざまな手続きが必要です。
営業許可の申請時の手続きの1つに水質検査がありますが、この検査は施設で使用する水によって検査が必要なケースと不要なケースがあります。
食品製造で使用する水は、食品衛生法で定められた基準をクリアした「食品製造用水」を使用するよう定められているためです。
この記事では、食品事業を開業するときに水質検査が必要なケースや営業許可を取得した後の水の管理・検査について解説します。
食品事業を開業するには水質検査が必要?
食品事業を開業するときに食品製造で使用する水が水道水以外の場合は、水質検査を受けなければなりません。
各自治体の保健所の規定により異なりますが、多くの場合過去1年以内に受けた水質検査の成績書が必要です。
水道水は食品衛生法で定められた規格基準を既にクリアしているため、開業時の水質検査はしなくてもよいとされています。
水質検査が必要な使用水
食品製造で水道水以外を使用する場合、主に2つのケースが考えられます。
- 井戸水を使用するケース
- 貯水槽使用水を使用しているケース
井戸水や貯水槽の水で水質検査が必要な理由は、所有している事業者の財産なので、水道局の管理下から外れてしまうためです。
井戸水や貯水槽の水を食品製造用水として使用する場合は、食品衛生法の規格水準をクリアしている水質なのか、事業者が責任を持って検査する必要があります。
井戸水を食品製造用水として使用するときの注意点
一般的に井戸水を食品製造用水として使用するときは、殺菌してから使用するよう保健所から指導されます。
井戸水はなんらかの原因で汚水が混入してしまうことが多く、営業許可申請時には問題がなかったとしても、その後に水質悪化してしまうおそれがあるからです。
しかし都道府県によっては、殺菌を必須にしていないところもあります。
もし殺菌せず使用する場合は、検査の頻度を上げるなどの対応をして井戸水の水質に変化がないか確認しましょう。
また井戸水は災害によって、井戸水が枯れたり水質が変わったりすることがあるため注意が必要です。
開業時の水質検査や定期的な検査で問題がなかったとしても、災害後に井戸水を使用する場合は、水質が変化していないか、食品製造の稼働前に必ず検査を実施しましょう。
井戸水の水質検査を怠ったことで起こった食中毒事例
2023年8月、石川県で患者数892人の大規模な集団食中毒が発生しました。
大規模な集団食中毒の原因は、流しそうめんで使用した湧き水から検出されたカンピロバクターによるものです。
「定期的な水質検査をクリアしていた湧き水でなぜ集団食中毒が発生したのか?」石川県がさらに詳しく調査したところ、2023年7月に周辺で豪雨被害が発生したとのこと。
その際に、稼働前の湧き水の水質検査ができていなかったとのことでした。
災害によって水質が変化したことで、大規模な集団食中毒が発生してしまったのです。
この流しそうめんは夏季限定で営業していましたが、食中毒発生により県は営業停止を命令しました。
食中毒を発生させた飲食店は、患者の損害賠償支払い後に廃業したとのことです。
このように井戸水は、災害によって水質変化が変化してしまうことがあります。
水質汚染による集団食中毒が発生しないよう、災害後は稼働前に水質検査を必ずおこない、異常がないことを確認してから営業再開するようにしましょう。
また災害がなくても井戸水や湧き水の水質は突然悪化してしまうこともあります。
食品製造用水として使用するときには、殺菌機器を通して使用する、水質検査の頻度を上げるなど、各事業所で対応しましょう。
貯水槽使用水を食品製造用水として使用するときの注意点
貯水槽使用水を使用するときは、水質検査だけでなく貯水槽の管理もおこなわなければなりません。
貯水槽は厚生労働省令で定める基準に従って、適切に管理する必要があります。
なお貯水槽の管理は、水道法によって義務付けられています。
!貯水槽の管理を怠ったときの罰則
貯水容量10立方メートルを超える「簡易専用水道」は水道法・罰則対象で、貯水槽の管理を怠ると法律違反となり100万円以下の罰則が課されることもあるため注意が必要です。
貯水容量10立方メートル以下の貯水槽についても、罰則はありませんが簡易専用水道と同様に管理し安全性を維持しましょう。
詳しくは以下のページをご覧ください。

貯水槽の水を食品製造用水として使用するには?検査や点検の頻度や怠ったときの罰則を解説
この記事では貯水タンクに定められている法律から設置者が押さえておくべきポイントを紹介します。...
業者に依頼する水質検査
食品製造の使用水が水道水以外の場合、食品製造用水に適合するか業者に検査してもらう必要があります。
食品製造用水の適合検査以外にも、使用水の種類や用途によって必要な水質検査の内容が異なるので、ここで確認しましょう。
また業者に水質検査を依頼するときは、【水道法に基づく水質検査登録機関】に依頼することも忘れないようにしましょう。
【51項目検査】水道水の水質基準
51項目検査は、水道水の水質基準を管理するための検査です。
水道水を使用している食品事業所で水質検査が不要な理由は、水道水が水道局の管理の下、厳しい水質基準を満たしているからです。
ただし、水道局が管理するのはあくまでも施設までの水道管を通る水質です。
施設内の水質については、施設側(食品製造現場、事業所)が責任をもって管理する必要があるので覚えておきましょう。
51項目検査が推奨されるケースは次の通りです。
51項目検査が推奨されるケース
- 災害後に井戸水を使用する
- 商品開発の参考のために実施する
- 特定建築物の水源が地下水である
- 貯水槽点検
51項目検査は水の安全性を確認するのはもちろんのこと、水の特性を把握することもできます。
食品製造において、51検査項目は必須ではありませんが、安全な食品を提供するためにも状況に応じて検査を依頼するとよいでしょう。
【26項目検査】食品衛生法に基づく食品製造用水の水質検査
水道水以外の食品製造用水を使用する場合、「食品・添加物等の規格基準」に定められている26項目の水質検査を営業許可申請時はもちろんのこと、年に1回実施する必要があります。
これは食品衛生法で義務付けられているため、必ず実施しましょう。
第1欄 | 第2欄 |
---|---|
一般細菌 | 1mlの検水で形成される集落数が100以下であること(標準寒天培地法)。 |
大腸菌群 | 検出されないこと(乳糖ブイヨン-ブリリアントグリーン乳糖胆汁ブイヨン培地法)。 |
カドミウム | 0.01mg/l以下であること。 |
水銀 | 0.0005mg/l以下であること。 |
鉛 | 0.1mg/l以下であること。 |
ヒ素 | 0.05mg/l以下であること。 |
六価クロム | 0.05mg/l以下であること。 |
シアン(シアンイオン及び塩化シアン) | 0.01mg/l以下であること。 |
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 | 10mg/l以下であること。 |
フッ素 | 0.8mg/l以下であること。 |
有機リン | 0.1mg/l以下であること。 |
亜鉛 | 1.0mg/l以下であること。 |
鉄 | 0.3mg/l以下であること。 |
銅 | 1.0mg/l以下であること。 |
マンガン | 0.3mg/l以下であること。 |
塩素イオン | 200mg/l以下であること。 |
カルシウム,マグネシウム等(硬度) | 300mg/l以下であること。 |
蒸発残留物 | 500mg/l以下であること。 |
陰イオン界面活性剤 | 0.5mg/l以下であること。 |
フェノール類 | フェノールとして0.005mg/l以下であること。 |
有機物等(過マンガン酸カリウム消費量) | 10mg/l以下であること。 |
pH値 | 5.8以上8.6以下であること |
味 | 異常でないこと。 |
臭気 | 異常でないこと。 |
色度 | 5度以下であること。 |
濁度 | 2度以下であること。 |
食品衛生法で定められているのは、水道水以外の水の検査ですが、「水道水を使用しているから」といって、安心してはいけません。
なぜなら、水道局が管理しているのは、食品工場もしくは事業所の施設までの水だからです。
もし施設内の配管に問題が生じ水質が変化した場合、その責任は食品事業者が負わなければなりません。
食品事業者が水質の変化を調べるのは難しいので、水道水を使用している事業所も年に1度は26項目検査を実施しましょう。
【11項目検査】飲用水水質検査
飲用水水質検査は、水道法で定められている51項目の検査のうち、「給水施設内で汚染が進むおそれのある」11項目を抜粋したものです。
ビルやマンションなどの建物内の飲用水の水質検査や飲用井戸水の一般的な検査で用いられます。
「建築物における衛生的環境の確保に関する法律(ビル管理法)」が適用される建物を対象に実施が義務付けられています。
検査の頻度は半年に1回です。
検査項目 | 基準値 |
---|---|
一般細菌 | 100以下(CFU/mL) |
大腸菌群 | 検出されないこと |
亜硝酸態窒素 | 0.04mg/L以下 |
硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素 | 10mg/L以下であること |
塩化物イオン | 200mg/L以下 |
有機物(全有機炭素(TOC)の量) | 3mg/L以下 |
pH値 | 5.8以上8.6以下 |
味 | 異常でないこと |
臭気 | 異常でないこと |
色度 | 5度以下 |
濁度 | 2度以下 |
【毎日実施】自社で実施する水質検査
毎日、決められた時間もしくは食品製造稼働前に自社で簡易的な水質検査を実施しましょう。
法律で定められている水質検査は、短くても半年に1回なのでその間水質の変化があった場合、製造する商品にも影響を与える可能性があるからです。
自社で実施する水質検査は次の通りです。
官能検査
官能検査とは、食品製造用水に異常な濁りや臭い、味がないかを確認する検査です。
人間の目・口・鼻など感覚器官の働きである「官能」を測定機器として、水質を検査します。
水を蛇口から30秒間ほど出しっぱなしにした後、透明なコップに水を採り、にごりやにおい、色、味に異常がないか検査し、記録をしていきます。
それぞれの項目を毎日チェック・記録することで異常や変化に気づきやすくなり、異常が発生したときに早めに対応が可能です。
残留塩素の検査
水道水に含まれる残留塩素の濃度は、「遊離残留塩素で0.1mg/L以上で保持する事」と水道法で定められています。
塩素には低濃度で病原菌に対する殺菌作用があり、水道水が家庭や製造工場で使用される前に病原菌に汚染されるの防ぎます。
専用の検査キットを使い、食品製造稼働前に検査を実施しましょう。
なお、水道水以外の食品製造用水を使用していても、この残留塩素基準を下回ってはいけません。
井戸水なら、殺菌装置や浄水装置の稼働チェックを忘れないようにすること。
貯水槽ならば、水道水が貯水槽内に滞留している時間を短くするなどの対策をとりましょう。
食品製造前の検査で水の異常がみられたときの対処法
食品製造前の官能検査や残留塩素検査で異常がみられたときは、その日の製造をストップし、水質以上の原因を調べましょう。
水の安全が確保できないと、安全な商品を提供できないからです。
水の異常がみられたときは、食品製造用水の種類に応じて以下の対応を行います。
水道水の場合
食品製造用水に水道水を使用しており、水質の異常を発見したら管轄内の水道局に連絡しましょう。
ただし、水道水でも水道管の異常が原因の水質汚染の場合、水道局の管轄外になります。
この場合は、施設管理会社や製造元に連絡し、水質異常の原因とその解消を対応してもらいましょう。
貯水槽使用水の場合
貯水槽の管理は食品事業所が行いますが、貯水槽内の水は水道水なので水道局の管理下になります。
そのため、貯水槽内の水に異常がある場合、水道水に異常があるのか貯水槽内が汚染されているのか判断がつきません。
まずは、管轄下の水道局に連絡し指示を仰ぎましょう。
貯水槽の汚染による水質異常の可能性がある場合は、貯水槽の設置会社に連絡し、点検や検査をしてもらう必要があります。
井戸水
井戸水に異常がみられた場合、他の食品製造用水と同じように井戸水の使用をストップします。
その後、検査機関で井戸水の汚染の原因を調べてもらいましょう。
また井戸水の異常ではなく、浄水器や殺菌装置が故障している可能性もあります。
機械に破損や損傷がないかも合わせて確認し、メーカーに問い合わせましょう。
冒頭でも言いましたが、井戸水は災害によって枯れてしまったり水質が変わったりすることがあります。
災害後に食品製造を稼働するときは、51項目の水質検査を実施し井戸水の水質に問題がないか確認しましょう。
まとめ
水道水以外の水を食品製造用水として使用する場合、営業許可申請時に食品衛生法の規定水準に沿った26項目の水質検査をする必要があります。
この水質検査は許可申請時だけでなく、年に1回実施しなければならないのでご注意ください。
また食品製造用水が井戸水や湧き水の場合は、水質悪化のリスクが高いので殺菌装置を設置しましょう。
まとめ
- 食品製造で使用する水が水道水以外の場合は水質検査が必要
- 水質検査は1年に1回必須だがケースに応じて検査頻度を上げる
- 災害後の井戸水や湧き水は水質悪化のリスクが高い
事業者は安全が保証された商品を提供するため、安全な水を食品製造用水として使用する義務があります。
法律で定められている検査をするのはもちろんのこと、毎日の官能検査や塩素残留検査を継続し、商品だけでなく水の安全にも努めましょう。
法律で定められている検査をするのはもちろんのこと、毎日の官能検査や塩素残留検査を継続し、商品だけでなく水の安全にも努めましょう。
食品製造に使用する水の検査について、感想やご質問があればぜひコメントにお寄せください。

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