化学物質による事故は、機械製造や薬物を取り扱う事業などをイメージしがちです。
しかしながら、食品事業所でも作業中に汚れた床や製造器具などを効率よく清掃するため、化学物質を含んだ洗剤などが使用されるため、例外ではありません。
化学物質を含む洗剤は汚れを素早く落とすメリットがありますが、人体に有害な化学物質が含まれることが多いため、取り扱いを誤ると怪我や病気を引き起こす恐れがあるので大変危険です。
人体に有害な化学物質を含む製品を安全に取り扱うために確認すべき資料がSDS(安全データシート)です。
この記事ではSDSとは何か、記載内容やSDSの活用法などを解説します。
SDSを事前に確認することで、化学物質を含む製品を適切に取り扱うことができ、効率よく安全に事業所の衛生管理ができるのでぜひ最後までご覧ください。
SDS(安全データシート)とは?
SDS(Safety Data Sheet)は安全データシートとも呼ばれ、 人体に有害な化学物質を含む製品を安全に取り扱うためのさまざまな情報が記載されています。
食品衛生に必要な洗剤や殺虫剤、殺菌剤などには化学物質が含まれているため、業者よりSDSが提供されます。
とくに業務用の製品には作業効果を上げるため、刺激や効能の強い化学物質が含まれている場合が少なくありません。
また食品事業で使用される食品添加物にも化学物質が含まれています。
食品添加物として使用される化学物質は、安全性が保障されていますが、これはあくまでも経口摂取を前提としたものです。
製造現場では、高濃度や大量の化学物資を含んだ食品添加物を取り扱うこともあり、従業員の健康を害する可能性があります。
化学物質を含む製品を扱う事業者は人の健康や環境へ悪影響を及ぼさないよう、これらを適切に管理する社会的な責任を負っています。
そこで事業者間で化学物質を含む製品の提供や譲渡を行う際には、提供を行う側の事業者がSDSを添付し、化学品の適切な取り扱い方法などの情報の提供が義務付けられているのです。
当たり前に使っている製品だからこそ、SDSで危険性やリスクを把握し、適切な使用方法を守らなければなりません。
SDSとMSDSの違い
MSDSとは、「Material Safety Data Sheet」の略語で化学物質等安全データシートと言います。
SDSの以前の呼び名で、日本または他の国で使われていた名称でした。
しかし平成23年度に国際的な基準に合わせる観点から、世界的に使われているSDSに統一され、現在は使われていません。
SDSに記載されている内容
SDSにはさまざまな情報が記載されています。その中でとくにチェックしておきたい内容をいくつかご紹介します。
製品名及び会社情報
製品の名称と提供者の情報が記載されています。
担当部門や電話番号が記載されていますので、万が一の事故やトラブル時にすぐに問い合わせができるよう控えておきましょう。
製品に含まれる化学物質の種類や量
製品に含まれる化学物質の種類や名称、その含有量が具体的に記載されています。
製品の危険有害性
製品を使用する際に、考えられる人間の健康に対する有害性や環境に対する有害性について記載されています。
たとえば、「皮膚刺激」や「重篤な眼の損傷」や「水生生物に毒性」といった具合です。
事故が起こった場合の対処や応急処置
製品によって起こった事故の対処や応急処置が記載されています。
もしもの際にすべき具体的な行動が示されています。
記載例
眼に入った場合:水で数分間注意深く洗うこと。次に、コンタクトレンズを着用していて容易に外せる場合は外すこと。その後も洗浄を続けること。直ちに医師に連絡すること
火災時の措置
製品の使用時に火災が起きた際の対処法や注意点について記載されています。
製品に含まれる化学薬品の中には、使用する消火剤によって有害物質が発生する恐れがあるので確認しておきましょう。
漏出時の措置
化学物質を含む製品が容器から漏出してしまったときの対処法や注意点が記載されています。
記載内容
- 人体に対する注意事項,保護具及び緊急時措置
- 環境に対する注意事項
- 封じ込め及び浄化の方法及び機材 回収,中和などの浄化の方法及び機材等
製品の取扱い及び保管上の注意
製品を扱う際の注意点が記載されています。
あわせて輸送上の注意や安全な保管条件なども記載されているので確認しておきましょう。
取り扱い上の注意事項
- 換気のよい場所で取り扱う。
- 保護具(手袋、保護マスク、エプロン、ゴーグル等)を着用する。
保管条件
- 日光の直射を避ける。
- 通風のよいところに保管する。
- 火気、熱源から遠ざけて保管する。
- 凍結に注意する。
有害性
化学物質を含む製品の有害性について記載されています。
記載例
- 急性毒性
- 皮膚腐食性及び皮膚刺激性
- 眼に対する重篤な損傷性又は眼刺激性
- 呼吸器感作性又は皮膚感作性
- 生殖細胞変異原性
- 発がん性
- 生殖毒性
- 特定標的臓器毒性,単回ばく露
- 特定標的臓器毒性,反復ばく露
- 吸引性呼吸器有害性
製品を破棄する方法
SDSには製品を破棄する方法も記載されています。
化学物質を含む製品は水にそのまま流したり、屋外に廃棄したりすると、環境へ悪影響を及ぼすおそれがあり、正しく破棄されなければなりません。
「産業廃棄物処理業者に委託する。水質汚濁防止法などの関連法規に適合するよう廃棄する」などのように示されており、正しく従う必要があります。
想定される用途及び当該用途における使用上の注意
労働安全衛生法改正に基づき、令和6年4月1日からSDSに追加しなければならない項目です。
たとえば提供された化学物質を使用するときに、吸入や皮膚・眼との接触を保護具で防止することを想定した場合、保護具で防止するよう記載するだけでなく、保護具の種類の記載も必要となります。
SDSにこのような記載が書かれている場合は、SDSの記載内容に従い適切な保護具を使用して化学物質を取り扱わなければなりません。
SDSの入手方法
SDSの作成は法律で義務付けられていますが、 製品購入時に必ずしも付いてくるわけではありません。
したがってSDSが必要な場合は、製品メーカーや販売代理店などに依頼して入手します。
製品メーカーのホームページでpdfファイルのSDSをダウンロードが可能な場合が多いので、必要に応じて入手しましょう。
また、製品のリニューアルにより、含まれる化学物質の種類や含有量が変わることもあり、SDSの内容が変更となるケースも少なくありません。
そのため、最新のSDSをチェックすることも忘れないようにしましょう。
SDSをしっかりと読むべき理由
小規模な事業所や飲食店においては、SDSの重要性があまり認識されていないケースも多いのではないでしょうか。
「とりあえず保管しておけばいい」くらいの認識の事業所もあるかもしれません。
しかし事業規模や営業内容にかかわらず、化学品を扱う事業者であればSDSをしっかりと読む必要があります。それはなぜでしょうか?
製品による事故を防ぐため
SDSをしっかりと読んでおけば防げた事故は意外と多いものです。
過去には、密閉した食品加工場で次亜塩素酸ナトリウムの希釈液を機器の洗浄・消毒をしたところ、従業員が吐き気などの症状が出る事故が起きています。
次亜塩素酸ナトリウムは呼吸器への刺激の恐れがあるため、SDSには屋外または換気の良い場所でのみ使用することと書かれていました。
そういった初歩的な事故を防ぐためにも、正しい取り扱いや保管の方法などが記載されているSDSをきちんと読んでおきましょう。
事故が発生した場合の応急処置を知るため
化学物質に関連する事故やトラブルが発生した場合、 間違った処置の仕方では逆効果となったり、さらにひどい状況に陥ったりする恐れがあります。
事故の際の応急処置方法も記載されているSDSをしっかりと確認しておけば、万が一の事故やトラブルにも慌てず処置できます。
また、病院へ行く必要がある場合にはSDSを携えていくと、医師の判断の資料として役立ちます。
SDSを活用する方法
製品を取り扱うにあたって重要なSDSですが、「どのように取り扱ったらいいか分からない」、「とりあえず保管している」などの場合も多いでしょう。
重要な資料と認識はしているけれど、活用できていない事業所も多いのではないでしょうか。
そこで、店舗でSDSを活用し、スタッフ全員に安全性への認識をより高めてもらう具体的なアイデアをご紹介します。
SDSを誰でも閲覧できる場所に保管しておく
SDSは 従業員の誰もが気軽に閲覧できる場所に保管しておきましょう。
SDSの保管・管理は2024年4月以降、事業者が選任した化学物質管理者が中心となっておこないます。
選任された化学物質管理者は、事業所のどこに何の製品のSDSが保管されているのか、他の従業員に周知・徹底しておく必要があります。
SDSは化学物質管理者任だけでなく部門のリーダーや時間帯で責任者になる人は把握すべき内容です。
見やすいようにファイリングするなどして、バックヤードなど従業員の往来が多く、みんなが手に取りやすい場所に保管しておくとよいでしょう。
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製品を扱う際の注意点を別紙に書き出し目立つ場所に貼っておく
SDSは専門用語が多く使われ、やや難しい表現で書かれています。
そのため、パッと見ただけではすぐに理解が難しいと感じるかもしれません。
また、数枚にわたって書かれているため、どこが要点なのか、自分に必要な情報がどれなのか、すぐ判別できないこともあります。
そこで、業務上で必要な情報だけを抜き出し、自分たちにわかりやすい表現に置き換えて紙に書き出しましょう。
そして目につく場所に貼っておけば、従業員全員と正しい知識を共有できます。
洗剤や消毒剤など化学製品を管理するときは、SDSを読み込むだけでなく識別管理も必要です。識別管理については、以下の記事をご覧ください。
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まとめ
洗剤や殺虫剤など当たり前に使っている製品は化学物質を含んでいることから、取り扱う上で知っておくべき情報は多く、それらが記載されている重要な資料がSDSです。
しかしSDSは重要な資料でありながら、日々の業務に追われてそのまま放置されてしまうことも少なくありません。
まとめ
- SDSには化学物質を扱う上で必要な情報が記載されている
- SDSの記載内容は事業主だけでなく従業員全員に共有する必要がある
- SDSの管理は化学物質管理者がおこなう
化学物質を扱う事業者にとって、化学物質を適正に管理することは社会的な責務であり、SDSはその一助となります。
2024年4月からは従業員の人数に関わらず、化学物質を扱う事業者に化学物質管理者の選任義務が開始されます。
食品事業者も例外ではなく、従業員から化学物質管理者を設置し、SDSの内容周知や保管、化学物質を扱うときのリスクアセスメントを実施しなければなりません。
従業員の安全を守るためにもSDSの重要さを再認識し、情報共有を怠らないようにしていきましょう。
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