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水道水の残留塩素とは?食品工場での品質・衛生管理に欠かせない基礎知識

水道水の残留塩素とは?食品工場での品質・衛生管理に欠かせない基礎知識

水の管理

衛生管理

蛇口から出る水道水は安全だから大丈夫!と思っていませんか?

実は、水道水の残留塩素は時間や温度、配管の状態によって変化し、食品の品質や衛生状態に大きく影響します。

濃度が高すぎれば風味や色が損なわれ、低すぎれば微生物が繁殖するリスクが高まります。

安全な水を保つためには、残留塩素の性質を理解し、適切な濃度を維持・管理することが不可欠です。

今回は、水道水中の残留塩素の仕組みや基準値、食品製造現場での測定・管理方法、安定化の工夫まで、実践的なポイントをわかりやすく解説します。

水道法・飲料水基準における残留塩素の数値

日本の水道法では、残留塩素濃度を給水栓において 0.1mg/L以上(もし結合残留塩素の場合は0.4mg/L以上)を維持するよう定められています。

これは、塩素が十分に残って細菌の再繁殖を防ぐ一方で、塩素臭や味への影響を抑えるために設定された範囲です。

ただ残留塩素濃度が高すぎると、臭いや食品の変色などの影響があるので、多くの自治体では目標値として1.0mg/L以下を目標値としています。

食品製造用水として使用する場合も、この基準を満たした水を使うことが基本であり、特に濃度の低下や過剰が起こりやすい貯水槽や配管の末端では、定期的な測定と管理が欠かせません。

令和6年に水道の管轄が移管

令和6年(2024年)4月1日から、水道の管轄が厚生労働省から国土交通省と環境省に移管されました。

今後は水道の整備・管理業務のうち、水質・衛生に関するものを除く全般が国土交通省の管轄。

水質基準の策定や水質・衛生に関する管理は環境省が担当することになります。

塩素濃度を含む、水道水の水質基準そのものの設定や監督は、環境省の管轄です。

実際の運用(測定・報告)は、各自治体や水道事業者が担当することになります。

なお水道の管轄が移管されても、食品製造工場で使用する水は、これまでと変わらず食品衛生法により「食品製造用水」として適した水を使用することが求められています。

水道水の一般的な処理プロセスと残留塩素の仕組み

水道水は川や湖、地下水などの原水を浄水場で処理して作られます。

原水から水道水が作られる流れは次の通りです。

原水から水道水が作られる流れ

  1. 川・湖・地下水などの原水を浄水場に取り入れる
  2. 原水に凝集剤を加え、砂や土などの不純物を沈殿させる
  3. 塩素を注入して消毒し、細菌やウイルスを殺菌する
  4. 残留塩素を一定濃度に調整して家庭などに供給される

まず、原水に凝集剤を加えて砂や土などの不純物を大きな塊にし沈殿させ、さらにろ過池で砂や砂利を通して微細な汚れを取り除きます。

最後に塩素を注入して消毒し、水中の細菌やウイルスを殺菌します。

塩素は水に溶けると次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンとなり、細菌の細胞膜を破壊し酵素を無効にすることで殺菌効果を発揮します。

塩素は一定量残るように調整されており、これが「残留塩素」と呼ばれ、水道管内での再汚染を防ぎ安全を保っています。

遊離塩素・結合塩素・総塩素の違いと意味

水道水に含まれる残留塩素には「遊離塩素」「結合塩素」「総塩素」の3種類があります

遊離塩素 結合塩素 総塩素
特徴 水中に自由に存在し、即効性があり強力な殺菌力を持つ 遊離塩素がアンモニアなどと結合し、殺菌力は弱い 遊離塩素と結合塩素の合計量
殺菌力 非常に強い 遊離塩素より弱い 遊離・結合塩素の合計効果
主な成分 次亜塩素酸や次亜塩素酸イオン クロラミンなど 次亜塩素酸や次亜塩素酸イオン、クロラミンなど
管理のポイント 主に遊離塩素の濃度を測り、水道水の安全を管理 遊離塩素が低下した際に測定、総塩素との差で計算 残留塩素の総量として基準管理に用いられる

遊離塩素は水中に直接存在し、細菌やウイルスをすばやく殺菌する即効性のある成分です。

水質基準でも主にこの遊離塩素の濃度が評価対象になります。

一方で、結合塩素はアンモニアなどの有機物と結びついてできるもので、殺菌力は弱いですが、長く効果が続くという特徴があります。

そして、総塩素とは、遊離塩素と結合塩素を合わせた値のことです。

水道水の安全基準では総塩素の濃度が管理されていますが、食品工場などの現場では、殺菌効果が高い遊離塩素の濃度をしっかり管理することが重要です。

なぜ「水道水=安全」とは限らないのか

食品製造の現場では「上水道を使っているからウチは安心だ」と思われがちです。

しかし、各自治体の水道局が管轄するのは食品製造工場の敷地に入るまでの水道水。

食品製造工場の敷地内の水道水の品質管理は食品事業者が責任を持ってしなければなりません。

水道水が敷地に入るまで安全な状態で供給されても、各製造現場に届くまでの経路や配管の状態によって、水道水の性質が変わってしまうことがあるため注意が必要です。

特に残留塩素の濃度は時間・温度・設備の状態によって大きく変化し、製品の品質や衛生状態に影響を与えることがあります。

残留塩素は減少・変化する

残留塩素は配管内の汚れ、有機物との反応などによって減少しやすくなります。

これは、塩素が空気中へ揮発したり、水中の有機物や微生物と反応して消費されるためです。

例えば学校の夏休みなどで、長期間使用量が減ると水道水の配管内での滞留時間が長くなり、塩素濃度が低下しやすくなります。

その他、配管の材質や水温、汚れの有無によっても残留塩素は変動し、古いモルタル管では、塩素の減少が特に目立ちます。

食品製造現場における残留塩素の影響

残留塩素は、食品工場における微生物抑制や衛生維持に欠かせない一方で、水の使い方によっては製品の品質や設備に悪影響を及ぼすこともあるため注意が必要です。

ここからは、残留塩素による味・香り・色などの品質、機器や配管への影響。

さらに塩素不足による微生物リスクなど、現場で起こり得る具体的なトラブルを解説します。

味・香り・色への影響

食品製造現場での残留塩素は、塩素の強い酸化作用によって食品の成分を変化させ、味や香りに影響を与えることがあるため注意が必要です。

特に、遊離残留塩素は水中で次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンの形で存在し、食品中の有機物と反応すると、独特の“塩素臭”を発するクロロフェノール類という物質を作り出します。

こうした不快なにおいは風味の劣化を招くほか、野菜や果実の洗浄では、クロロフィルやアントシアニンといった色素成分が酸化されて変色することもあります。

一方で、残留塩素濃度が低すぎると殺菌効果が十分に発揮されず、微生物汚染のリスクが高まります。

食品事業者は残留塩素の濃度を適切に管理し、酸化による品質劣化と衛生面の両立を図ることが重要です。

設備・配管・水処理装置への影響

残留塩素は殺菌力を持つ一方で、設備や配管に対しては腐食を引き起こすことがあるため注意が必要です。

特に鉄や鋼などの金属配管では、塩素による酸化反応で錆や腐食が進行しやすく、漏れや破損、異物混入などのトラブルにつながるおそれがあります。

さらに、RO(逆浸透膜)や活性炭フィルターなどの精密ろ過装置では、塩素が膜材を酸化・劣化させ、性能低下や破損を招くこともあります。

これらの設備を長期的に安全に運用するためには、定期的な点検や除塩素処理を行い、塩素の腐食作用を適切に管理する必要があるでしょう。

塩素が十分に残らないと起こるリスク

残留塩素の濃度が高いと食品の品質に影響が出たり、施設の設備や配管に影響を与えることから、濃度は低い方が良いのではと考える人もいるでしょう。

しかし食品製造現場で残留塩素が十分に保持されないと、殺菌効果が低下し細菌やカビが繁殖しやすくなります。

長い配管の末端では塩素濃度が下がりやすく、検査では問題がなくても実際の使用現場で微生物が検出されることがあるため注意が必要です。

食品製造現場では、こうした残留塩素の不足により病原菌や腐敗菌が残存し、食中毒の発生や製品の品質劣化につながるおそれがあります。

さらに、菌の不活化が不十分だと設備や食品表面に微生物が付着し、次の工程で汚染が広がる危険もあります。

このような状況はHACCP上の「前提条件プログラム(PRP)」の不備とみなされることもあり、日常的に残留塩素を測定・管理することが衛生管理の基本です。

食品製造における水の管理はSSOPでも一つ目の項目で扱われる、重要な衛生管理になります。

食品製造現場での残留塩素測定・管理方法

ここからは、食品製造の現場担当者が「水道水の塩素濃度をどう測るか」「どう記録・管理するか」を具体的に実践できるよう、測定方法の選び方・頻度・記録方法・対応フローなどを整理します。

専門設備に頼らず、まずは現場で始められるステップを中心に解説します。

残留塩素の測定方法(DPD法・比色法・試験紙など)とその特徴

現場での残留塩素測定には、DPD法が最も一般的に使われています。

DPD(ジエチルパラフェニレンジアミン)という試薬を用い、水中の塩素と反応させると淡い赤紫色に発色し、その色の濃さで塩素濃度を測定する方法です。

DPD法は遊離塩素と結合塩素を区別でき、正確な濃度測定が可能な信頼性の高い方法となります。

また、現場で手軽に行える方法としては、試験紙法や比色法などもあります。

これらは操作が簡単でコストも低い一方、色の判断に個人差が出やすいため、定期的な校正や複数回の測定による確認が望まれます。

DPD法はそうした点で精度が高く、コンパクトな測定器を使えば現場でも迅速にチェックできるため、日常的な残留塩素の管理に最適な方法といえるでしょう。

残留塩素を測定する場所とタイミングの設定

残留塩素の測定は、水道を受け入れるところから一番遠い食品製造用水の蛇口でおこないましょう。

測定のタイミングは作業開始前に実施します。

作業開始前に実施することで、水質異常による商品のリコールや破棄を未然に防げるほか、何かあった場合も迅速に対応できるでしょう。

また、測定結果を記録しておくことで、衛生管理の証拠となり、品質保証や改善にも役立ちます。

水質の変化を敏感に反応できるよう従業員に指導

残留塩素の管理は、ただ測定するだけでなく、測定値・日時・測定者を管理表に記録し、日々の変動を継続的に確認することが大切です。

測定する担当者には、ただその日の残留塩素濃度を記録するだけでなく、「いつも0.1mg/Lなのに0.8mg/Lになった」「いつも0.6mg/Lなのに0.1mg/Lになった」など普段と違う急激な変化に気づけるよう指導していきましょう。

また日々の残留塩素濃度の記録や対応履歴は、監査やHACCPでの重要なエビデンスとして活用でき、問題発生時にも迅速かつ的確に対応できる仕組みづくりにつながります。

残留塩素測定の誤差を防ぐための対策

測定誤差を防ぐには、測定器具の校正や試薬・試験紙の管理が欠かせません。

特にDPD法では試薬の鮮度が精度に直結し、劣化したものを使うと正確な反応が得られないため注意が必要です。

また、試験紙が湿気を帯びていたり、色の判定が曖昧だったりすると数値にばらつきが出ます。

さらに、試薬の使用量や反応時間、水温・pHの影響を考慮し、できるだけ一定条件で測定を行うことが大切です。

複数回の測定で平均値を取ると誤差を抑えられます。

現場で「誰が測っても同じ結果が出る」仕組みを整えることが、信頼性の高い残留塩素管理と継続的な品質維持につながります。

試薬を使った検査が難しい場合は、デジタルの検査機器を使って手軽に検査するのもおすすめです。

工場内の水質保全のため食品事業者が最低限実施すること

食品製造工場内の水質保全をするには、定期的な塩素濃度を測定するのはもちろんのこと、定期的に第三者機関に水質検査を依頼しましょう。

水質検査を依頼する際には、登録検査機関で検査することが望まれます。

また事業所を管轄する水道局の水質検査結果をサイトから入手し、自社の水道水と大きな差がないか定期的に確認することも大切です。

まとめ

水道水中の残留塩素は、衛生管理に欠かせない殺菌要素ですが、濃度が高すぎても低すぎても品質トラブルにつながります。

特に食品製造現場では、配管の状態や気温によって残留塩素濃度が変動しやすく、風味の劣化や微生物汚染の原因となることもあるため注意が必要です。

日常的な測定と記録、設備の定期点検による安定管理が重要になります。

まとめ

  • 残留塩素は殺菌のために必要だが、過不足は品質リスクを生む
  • 食品製造現場では配管や貯水槽で濃度が変動しやすい
  • 日常測定・点検・記録が品質維持とHACCP対応の基本

水の安全は「見えない管理」がカギです。日常のチェック体制を整え、安定した水質で安心できる製品づくりを目指しましょう。

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【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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