安全が保証された食品をお客様に提供するためには、日々の衛生管理が欠かせません。
その中でも毎日おこなう製造現場の清掃は、とくに重要な衛生管理の1つです。
製造現場の清掃には、洗剤や消毒液が欠かせませんがその製品のほとんどが濃縮された洗剤となっています。
そのため、清掃前には適切な希釈をおこなわなければなりません。
この記事では、洗剤と消毒液の希釈方法をわかりやすく解説します。
洗剤や消毒液の効果を最大限に引き出すための希釈ポイントについてもまとめましたので、ぜひご覧ください。
希釈とは?
食品業界で用いられる希釈とは、食品の調理や加工で使用する原液洗剤や消毒液を適正量の水で薄めることを意味します。
濃縮された原液の洗剤や消毒液を適正量の水で希釈することにより、洗浄効果を最大限に発揮し、食品の残渣や食中毒菌を最小限に抑えることが可能です。
逆に誤った方法で希釈してしまうと、洗浄効果を発揮できずに残渣や菌が残ってしまい、食中毒リスクが高まります。
希釈濃度が高すぎると、十分にすすぎができず、使用する人の健康に影響が出る可能性もあるため大変危険です。
洗剤や消毒液の種類に応じた希釈方法を正しく理解し、適切に実施することは、安全な食品製造に欠かせません。
洗剤の希釈方法
洗剤の希釈方法は次のとおりです。洗剤の希釈方法
- 洗剤の選択
- 希釈比率の決定
- 安全対策
- 希釈の実施
- 保存
ステップ1:洗剤の選択
洗浄したい場所や汚染具合に応じて、使用する洗剤を選びましょう。洗剤を選ぶときのポイントは次の通りです。
目的に応じた洗剤を選ぶ
洗剤を選ぶときには、目的に応じた洗剤を選ぶようにしましょう。
たとえば、食材に触れる場所では、たんぱく汚れの洗浄に気を付ける必要があります。
なぜなら、たんぱく汚れは食中毒菌の栄養源となったり、アレルゲンの交差接触につながったりするからです。
たんぱく汚れには、アルカリ性の洗剤が効果的ですが、ここで酸性の洗剤を選択してしまうと、適切な方法で希釈してもたんぱく汚れが残ってしまう可能性があります。
そうなると食中毒リスクが高まるため大変危険です。
油脂や食品汚れを効率的に取り除くことができるアルカリ性の洗剤力の洗剤を選びましょう。
コスト効率
洗浄・殺菌効果が高く、安全性に問題のない洗剤でもコストが高すぎると、事業の経営を圧迫してしまう恐れがあります。
毎日使用するものだからこそ、できるだけコストを抑えた洗剤を選ぶようにしましょう。
ステップ2: 希釈比率の決定
洗剤の容器や取扱説明書の指示に従い、適切な希釈比率を設定しましょう。
ここでは、50倍希釈の洗剤を300ml作る場合の手順と計算方法を見ていきます。
①原液洗剤の量を求める
原液洗剤の量は、以下の計算式で求められます。
作りたい洗剤量÷希釈率=原液洗剤の量
50倍希釈の洗剤を300ml作る場合の原液洗剤の量は、次の通りです。
300ml(作りたい洗剤の量)÷50倍(希釈率)=6ml(原液洗剤の量)
②希釈に必要な水の量を求める
希釈に必要な水の量は①の結果を元に、以下の計算式で求められます。
300ml(作りたい洗剤の量)-6ml(①で求めた原液洗剤の量)=294ml(水の量)
③計算式で求めた原液洗剤と水を合わせる
原液洗剤6mlと水294mlを混ぜ合わせると、50倍希釈で300mlの洗剤が完成します。
ステップ3: 安全対策
食品製造で使用する原液洗剤は家庭用のものと比べると、洗浄効果や殺菌効果が高い代わりに、強い化学物質が使われていることも少なくありません。
希釈するときは、適切な防護具(手袋や保護メガネなど)を着用し、原液洗剤や消毒液が肌や目に触れないよう気を付けましょう。
万が一の事故に備えて、SDSシートの事故対応の部分に目を通しておきましょう。
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ステップ4: 希釈の実施
ステップ2で設定した希釈比率を元に、適正量の原液洗剤と水を混ぜましょう。
混ぜるときは濃度が均一になるよう、しっかりかき混ぜます。
ステップ5: 保存
希釈した洗剤は使用する前に、その都度利用するのが理想的です。
しかしながら洗剤を使い切れなかったり、やむを得ず清掃前に希釈用洗剤を作ってしまったりすることもあるかもしれません。
その場合は、作った希釈用洗剤が食材や製品に触れないよう、適切な場所に保管しておきます。
誤って洗浄や消毒以外の用途で使用されないよう、容器のラベルに希釈率や使用方法、洗剤名を記載しておくと、事故を防げるでしょう。
消毒液の希釈方法
消毒液の希釈方法も基本的に洗剤の希釈方法と変わりません。
しかし消毒液の場合、洗剤よりも元の原液の濃度が濃く、希釈するのに必要な原液量はごくわずかとなります。
そのため%や倍率ではなく、ppmという割合で濃度が示されることが多いので覚えておきましょう。
ppm(ピーピーエム)とは?
ppmとは(parts per million/パーツ・パー・ミリオン)の頭文字をとった言葉で、液体の微量な濃度を示します。
次亜塩素酸水や次亜塩素酸ナトリウムなど除菌剤や消毒剤によく表記されていますが、それ以外の液体にも用いられます。
馴染みのない言葉なので、「mg」や「ml」などの単位と思われがちですが、そうではなくppmは「100万分の1」という割合を示す言葉です。
ppmは%と同じように用いられます。ppmを%に変換した値の一覧は次の通りです。
%(パーセント) | ppm(パーツ・パー・ミリオン) |
---|---|
10% | 10万ppm |
1% | 1万ppm |
0.1% | 1,000ppm |
0.001% | 10ppm |
0.0001% | 1ppm |
ppmを用いた希釈方法
液体でppmを用いる場合、重量比を用いますが、水溶液の場合は次のように扱うことができます。
1mg=1ppm=0.0001%
なぜこれらが成立するのか解説します。
まず水1Lはほぼ1kgに値します。水1kgはg(グラム)に換算すると1,000gです。
さらに1000分の1であるmgの単位まで換算すると1,000,000mg(ミリグラム)となります。
このことから1ppm=1mgとして表現できます。
次亜塩素酸などppmで濃度を示している液体を水で希釈するときは、作る液体の量はmgに換算して考えましょう。
濃度200ppmの次亜塩素酸水を500ml作るときの手順
ここからは濃度200ppmの次亜塩素酸水を500ml作るときの手順と計算方法を見ていきましょう。
なお、原液の次亜塩素酸水の濃度は400ppmとします。
①必要な情報を集める
次亜塩素酸を使った除菌液を作るために必要な情報を集めましょう。
除菌液を作成するために必要な情報は次の通りです。
- 作りたい除菌液の量
- 作りたい除菌液の濃度
- 原液(この場合次亜塩素酸)の濃度
必要な情報を今回の例に当てはめると次の通りです。
- 作りたい除菌液の量│500ml
- 作りたい除菌液の濃度│200ppm
- 原液(この場合次亜塩素酸)の濃度│400ppm
②原液の濃度を作りたい除菌液の濃度で割る
次亜塩素酸の原液の濃度を作りたい除菌液の濃度で割って、どれくらい水を入れる必要があるかを確認しましょう。
今回の例の場合は次の計算式になります。
400ppm(原液の濃度)÷200ppm(作りたい除菌液の濃度)=2
濃度の割合の差が2倍あることがわかりました。
③必要な原液の量を計算する
作りたい液体の量を先ほど求めた数字で割りましょう。
これで、目的の除菌液を作るのに必要な原液の量がわかります。
500ml(作りたい200ppmの除菌液の量)÷2=250ml(必要な原液の量)
④必要な水の量を計算する
作りたい除菌液の量から③で求めた原液の量を引きましょう。
500ml(作りたい除菌液)-250ml(必要な原液の量)=250ml
濃度200ppmの次亜塩素酸水を500ml作るには、400ppmの次亜塩素水250mlに水250mlを加えて希釈することで作れます。
ppmで濃度を示している除菌液の計算をするときには、単位をすべてmlとppmに換算してから計算するとわかりやすくなります。
洗剤や消毒液の効果を最大限に使うためポイント
希釈した洗剤や消毒液の効果を最大限に使うためのポイントを5つご紹介します。
洗剤を希釈する場所を決めておく
洗剤や消毒液を希釈する場所を予め決めておきましょう。
従業員が自由にさまざまな場所で希釈をしてしまうと、食材や資材に洗剤が付着する恐れがあるからです。
洗剤を希釈する場所は、食品や資材が周りになく、換気ができるスペースにします。
食品や資材が周りにあると、飛び散って薬品が付着する可能性があるからです。
また希釈時に洗剤に含まれる薬品の匂いで、気分が悪くなってしまうこともあるかもしれません。
気ができる場所にすると、希釈担当の従業員の負担軽減になります。
まとめて大量に希釈しない
洗剤や消毒液は、まとめて大量に希釈しないようにしましょう。
希釈された液は保存性がよくないため、日が経つと洗浄効果が落ちてしまうこともあるからです。
また洗剤には有害な物質が入っているため、希釈液の保管場所や方法にも十分に気を付ける必要があります。
万が一、製品に混入してしまったり、誤ってそのまま排水溝に流してしまったりすると大きな事故に繋がる恐れがあるからです。
できる限りその日に使う量だけ希釈しておくことをおすすめします。
希釈後の洗剤の効果がどれくらい持つかについては、洗剤を選ぶときに確認します。
また希釈する従業員によって、洗剤の濃度にバラつきがないよう、希釈後の濃度チェック・記録をしておきましょう。
目的に応じた希釈倍率で使用する
洗剤や消毒は取扱説明書や容器に記載してある希釈倍率に従って、希釈しましょう。
決められた希釈倍率よりも、濃度が濃い洗剤だと製造機器や調理器具に洗剤が残ってしまう恐れがあります。
また洗剤の濃度が濃いからといって、洗浄効果が上がることはありません。
洗剤はある一定の濃度を超えると、洗浄効果は一定になるからです。
洗剤の希釈倍率が濃くなればなるほど洗剤が消費されるため、コストが上がってしまいます。
また洗剤の中には、洗剤や消毒液の中に人体に有害な物質が含まれている場合も少なくありません。
濃い洗剤を使い続けると、従業員の健康に影響が出てしまう恐れがあります。
濡れた調理器具に消毒液を使用しない
濡れた調理器具や製造機器に消毒液を使用しないようにしましょう。
水分が付着していると、消毒液の濃度が薄まり効果が落ちてしまうからです。
また調理器具や製造機器に食品残渣や菌が微量でも残っていて、水分が残っていると、菌が増殖してしまう可能性もあります。
洗浄後の調理器具や製造機器をしっかりと乾燥させた後に、消毒液を塗布しましょう。
誰が希釈しても同じ濃度の溶液になるよう工夫
消毒液や洗剤の溶液を作るときは、誰が希釈しても同じ濃度になるよう工夫しましょう。
たとえば、希釈比率の設定や計算を事業者がおこない、原液と水の量を従業員に周知徹底して希釈方法をトレーニングするのも1つの方法です。
しかし日々の業務に追われながら、製造現場で計量カップの目盛りや計量スプーンの杯数を確認し、洗剤や消毒液を作るのは大変です。
そこで、専用のカップまたは容器に水と原液の洗剤を入れて、混ぜるだけで希釈できるよう工夫してみてはいかがでしょうか。
たとえば、50倍希釈の洗剤を500ml作るのに必要な水と原液の洗剤量は次の通りです。
- 水の量:500ml
- 原液の洗剤量:10ml
500mlの水は、500mlの空ペットボトルに水を注ぐだけですぐに用意できます。
またペットボトルのキャップ1杯は5mlの液体を注げるよう作られています。
つまり、50倍希釈の洗剤を作るには、500mlのペットボトル1本分の水とペットボトルのキャップ2杯分の原液を用意するだけで完成します。
もちろん、希釈率が40倍や25倍になるとこの方法は使えませんが、使う水の量を500mlまたは500ml刻みで計算できる量にしておくと、作業はかなりラクになるはずです。
洗剤や消毒液の種類を頻回に変えることはないと思われますので、業務効率化と従業員の安全のために原液の容器を入れる専用カップを作ってもよいかもしれません。
希釈する担当者が複数人になる場合は、日々または定期的に希釈後の洗剤が適切な濃度になっているか検証しましょう。
まとめ
製造現場で使用する洗剤や消毒液は、濃縮されて販売されています。
さらに洗浄力や殺菌力の効果を高めるため、家庭用洗剤や消毒液よりも有害な化学物質が多く含まれていることもあるので取扱いに注意が必要です。
そのため、清掃や洗浄のために洗剤や消毒液を希釈するときには、希釈方法のトレーニングをおこなった従業員が適正量を計って安全に希釈する必要があります。
まとめ
- 取扱説明書に記載している適正な希釈比率を守らないと洗浄や除菌効果を最大限発揮できない
- 適正な希釈比率よりも濃い洗剤・消毒液を作っても効果は変わらないしコストのムダになる
- 洗剤や消毒液の希釈が従業員の負担にならないよう工夫が必要
清掃は毎日おこなうため、洗剤や消毒液の希釈はときに従業員の大きな負担に繋がることもあります。
従業員の負担軽減になるよう、できるだけ簡単に誰でも同じ濃度の洗剤や消毒液を作れる仕組みを作りましょう。
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