アメリカに食料品を輸出するには、米国食品医薬品局(FDA)への施設登録と2年毎の更新が必要となります。
そして、製造から保管まで全ての工程でPCHF規則(ヒト向け食品に対する予防コントロール)への対応が必要です。
PCHF規則の対応は7つのパートに分けられていますが、その中でも特に重要なのが食品安全計画の策定です。
食品安全計画の策定は、米国食品安全強化法(FSMA)の第103条で定められており、米国食品医薬品局(FDA)が求める内容を網羅する必要があります。
今回は食品安全計画の1つである、予防管理表の作成について解説します。
食品安全計画の構成
食品安全計画は次の4つのパートから構成されています。
食品安全計画の4つの構成
- step1:チームの編成と基礎資料の準備
- step2:危害分析表の作成
- step3:予防管理表の作成
- step4:リコールプランの作成
米国食品医薬品局(FDA)が求める食品安全計画の内容や2021年に義務化されたHACCPは、codexHACCPを元に策定されています。
FSMAの食品安全計画とHACCPの違い
日本で義務付けられているHACCPは【製造工程】の危害要因の分析・管理が中心となっています。
一方、FSMAの食品安全計画は製造工程の危害要因の分析・管理に加えて、「衛生」・「アレルゲン」・「サプライチェーン(供給側)」も予防管理に含めるよう指示されているのです。
また万が一、事故が発生したときの「リコールプラン」の策定も求められます。
今回は、【step3:予防管理表の作成】を中心に見ていきましょう。
食品安全計画の予防管理表の作成
JETRO(日本貿易振興機構)では、食品安全計画の予防管理の定義を以下のように定めています。
予防管理とは、特定した食品安全危害を最小限化、または予防するための管理手順を予め決め、実施すること
食品安全計画作成ガイド│JETRO
step2の作業で特定した危害を最小限化または予防するための管理手順をチームで決定し、実施することです。
予防管理の種類は次のとおりです。
予防管理の種類 | 内容 |
---|---|
プロセス管理 | 加熱処理・金属探知機・冷凍、冷蔵など |
アレルゲン管理 | 交差接触の防止、ラベル表示など |
衛生管理 | 従業員教育、環境モニタリング |
サプライチェーン管理 | 承認サプライヤーの使用、サプライヤーの検証など |
予防管理は4つの種類がありますが、いずれもモニタリング・是正措置・検証の一連の流れで実施します。
また業種業態によって注意すべき点や手順が異なるため注意が必要です。
予防管理の流れ
食品安全計画は策定したら終わりというわけではありません。
自社で決めた予防管理をモニタリング・是正措置・検証の一連の流れで実施していきます。
モニタリング
モニタリングとは、予防管理で定めた許容限界などのパラメーターが製造時に満たされているかを確認することです。
パラメーターを確認するために、観察や測定、試験検査などをおこないます。
モニタリング後は、食品安全計画で作成した管理表に基づいて何を・どうして・どれくらいの頻度で、誰がモニタリングしたのかを記録していきます。
是正措置
是正措置とはモニタリングにより、何らかの問題が生じたときに食品安全計画の予防管理で予め決められた対処法をおこなうことです。
問題の内容に応じて、製造を一時中断したり出荷を取りやめたりすることもあります。
また、軽微な問題だった場合は、修正の対応をおこなうこともあります。
検証
予防管理が確実に実施されているか、また予防管理の内容が正しいものであるか問題の有無にかかわらず、定期的に検証します。
検証後、予防管理の変更が必要だと判断した場合は、チームで話し合い変更することもあります。
予防管理に変更があった場合は、変更の経緯や内容を従業員に周知徹底することを忘れないようにしましょう。
プロセス管理
食品安全計画の予防管理の手順がわかったところで、ここからは予防管理の種類についてそれぞれ見ていきましょう。
まずプロセス管理は、HACCPに置き換えると重要管理点(CCP)の設定やグレートアテンションに該当します。
step2の危害分析で特定された危害を取り除くまたは害のない範囲まで低減するためのポイント(許容限界)を決める作業です。
許容限界は科学的根拠に基づき、妥当性の確認が必要となります。
なお、妥当性の確認はstep1で決定した予防管理適格者(PCQI)が実施または監督します。
重要管理点(CCP)の設定方法とは?ポイントや注意点を解説【手順7原則2】
HACCP導入手順7原則2では、導入手順6で特定した重大な危害要因(ハザード)の管理手段のなかから、重要管理点(CCP)を決定する作業を行います。...
アレルゲン管理
出典:食品安全計画作成ガイド│JETROアレルゲン管理とは製造ラインで使用しているアレルゲン原材料を全て洗い出し誤ってアレルゲンが交差接触しないような仕組みを検討し、実施することです。
危害のうちアレルゲンの種類や予防管理の方法は、アレルゲン管理表にまとめます。
なおアメリカの主要アレルゲンは2023年9月現在、次の9品目になりますので覚えておきましょう。
アメリカの主要アレルゲン
- 乳
- 卵
- 魚類
- 甲殻類
- 樹木ナッツ
- ピーナッツ
- 小麦
- 大豆
- ごま
アメリカの食品リコールは、アレルゲンの表示漏れによるリコールが最も多くなっています。
FDAの報告によると、2009年~2014年までの5年間に発生したアレルゲンの未申告に起因する食品リコールは、全体の約43.4%を占めるそうです。
アメリカに食品を輸出する際には、ラベルに正確なアレルゲン表示をしているかしっかりと確認しておきましょう。
衛生管理
出典:食品安全計画作成ガイド│JETRO衛生管理とは、従業員の衛生管理の徹底や製造現場や製造機器および用具の洗浄のことです。
どの従業員も等しく衛生管理ができるよう、わかりやすい衛生管理手順書の作成が必要になります。
衛生管理の手順書は、標準衛生作業基準(SSOP)の8項目を満たせる内容にまとめましょう。
標準衛生作業基準(SSOP)の8項目
- 使用水の衛生管理
- 機械、器具類、手袋および前掛けの洗浄、殺菌、清掃
- 不衛生な機械器具、手袋、前掛けからの交差汚染防止、原材料からの加熱後の製品の汚染防止(交差汚染の防止)
- 手洗い設備、トイレの清潔保持
- 化学物質(洗浄剤、殺菌剤、農薬、殺鼠剤、潤滑油、燃料、添加物など)の混入防止、結露の混入防止、その他の汚染物質(化学的、物理的、生物学的)の混入防止措置(汚染物質の混入による品質劣化防止)
- 有害化学物質の適切な表示、保管および使用
- 従業員の健康管理、服装管理
- 鼠族、昆虫の防除
作成した衛生管理手順書に従って業務を遂行したか、モニタリングを日報やチェック表に日々記録していきます。
衛生管理手順書の内容は、製造に携わる全ての従業員に伝わるよう、研修などの定期的に従業員教育をおこないましょう。
従業員教育の実施記録もFDAの査察時に確認されますので実施後は、記録も忘れずにとっておきます。
また薬品管理について、希釈して使用する薬剤の濃度チェックをしているかも確認されるようです。
実際に運用している衛生管理が目的を達成しているのか、濃度チェックや拭き取り検査などの結果で説明できるようにしておきましょう。
サプライチェーン管理
サプライチェーンとは、製品の原材料の調達から販売に至るまでの一連の流れを示します。
食品安全計画の予防管理を作成する際には、自社内の製造だけでなく、仕入れ先から購入している原料や資材、受けているサービスについての安全性をあらかじめ確認しておきましょう。
また納品後に加熱などの工程がある場合は、納品先に製品の仕様を正しく伝える必要があります。
その中で、サプライチェーンのどこで危害が生じる可能性があるのかを確認し、仕入れ先や納品先に予防管理を任せることもあります。
まとめ
食品安全計画の中でも、予防管理のパートは特に重要です。
予防管理のパートでは、安全な商品をアメリカに輸出するために、事業所で何をすべきか具体的に示す必要があります。
日本でも2016年からHACCPに沿った衛生管理が義務付けられていますが、HACCPに該当する予防管理はプロセス管理のみです。
アレルゲン管理や衛生管理、サプライチェーン管理についてはHACCPの衛生管理計画に含まれていないため、アメリカに商品を輸出する際には、新たに予防管理の計画を立てる必要があるでしょう。
まとめ
- 予防管理はモニタリング・是正措置・検証の一連の流れで実施する
- アメリカのアレルゲンは日本と異なるので注意
- サプライチェーン管理では自社の衛生管理だけでなく原材料の調達や納品物の保存方法の通達までおこなう
なお策定した食品安全計画書をFDAに提出する義務はありません。
しかし、FDAの査察時には食品安全計画で自社が定めた予防管理を実施しているかどうかを確認されます。
アメリカに商品を輸出する際には、FDAの施設登録前に食品安全計画を作成し、実施しておくと安心です。
また、アメリカへ商品を輸出する予定はなくても食品安全計画を策定しておけば、日本のHACCPでは見落としてしまう衛生管理もチェックできます。将来の事業展開のためにも、FSMAに沿った食品安全計画の策定準備を進めてみてはいかがでしょうか。
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