食物アレルギーが危険なことはわかっているものの、食品ラベルの表示や製造ラインの分離の対応のみで満足している食品事業者も多いのではないでしょうか。
食物アレルギーはアレルゲンを少量摂取しただけで、発症する恐れがあるため、アレルゲンが商品に付着しないよう原材料の仕入れ・保管から出荷までの対策が求められます。
この記事では、食品製造でアレルギー管理が求められている理由やアレルゲン対策、アレルゲン交差防止をサポートするツールをご紹介します。
製造現場でアレルギー管理を徹底できれば、消費者の命を脅かすことのない安心・安全な商品を提供し続けることができるでしょう。
食物アレルギーとは
食物アレルギーとは、摂取した食品に含まれるたんぱく質(アレルゲン)が原因で、免疫機能が過剰に反応して、さまざまな症状が出てしまうことを指します。
食物アレルギーの主な症状は次の通りです。
!食物アレルギーの症状
- じんましん
- かゆみ
- 咳
- 嘔吐
- 下痢
重症の場合は、アナフィラキシーショックを引き起こし最悪の場合、命を落としてしまう事故も起きています。
現時点で食物アレルギーを根治する方法はありません。
そのため、アレルギー症状が強く出てしまう人は、アレルギーの原因となる食品(アレルゲン)を避けることが対処法となります。
食物アレルギーが増加傾向にある理由
食物アレルギーの患者数は、近年増加傾向にあります。
その理由ははっきりとわかっていません。
理由の1つにアレルギー検査薬の発展により乳幼児期の早い段階から、アレルギーの有無がわかるようになったからではないかと言われています。
また私たちの食生活が豊かになり、鶏卵・牛乳・肉類の摂取量が増えて栄養価が高くなったからではないかという意見もあります。
鶏卵や牛乳に含まれる動物性脂肪のオメガ6系の脂質を摂取しすぎると、体の中の炎症反応が起きやすくなる傾向があるからです。
一方で、魚介類や野菜などには、オメガ3系脂肪酸が含まれており、体の中の炎症を抑える働きがあります。
このことから魚や野菜中心の食生活だった私たちが、食の欧米化により肉・鶏卵・牛乳を多く摂取しはじめたことにより食物アレルギーが増加したのではないかと推測されるのです。
消費者庁が令和6年に公表した「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」を見てみると、即時型食物アレルギーの原因食品のトップ3に鶏卵・牛乳がランクインしています。
出典:食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書
しかし、これはあくまでも一説であり、不規則な生活やストレスなど生活環境の変化も原因の1つではないかと言われています。
また近年では、くるみなど木の実類が原因の食物アレルギーが急激に増加しています。
木の実類の食物アレルギーがなぜ増えているか、その原因は明らかではありません。しかし、次の2つの要因が考えられます。
- 2005年以降にくるみやカシュナッツ、アーモンドの年間消費量と輸入量が増加している
- 美容・健康志向の高まりにより木の実類を含む食品を多くの人が口にするようになった
そのため、2023年にはアレルギー表示義務品目(特定原材料)にくるみが追加されました。
2025年1月時点で表示が義務化されているアレルゲン
食物アレルギーで患者数が多いものや重篤なアレルギー反応があらわれた事例の多い以下の8品目は、表示が義務化されています。
!表示義務化されているアレルギー物質(8品目)
- 卵
- 乳
- 小麦
- 落花生
- えび
- そば
- かに
- くるみ
くるみは2023年3月より表示が義務化されました。
2025年3月31日まで猶予期間となっており、食品事業者は期日までに表示ラベル等の対応が求められます。
また2024年10月には、2025年度中に特定原材料の1つに「カシューナッツ」を。ピスタチオを推奨品目に入れるかどうかの検討を実施すると消費者庁が公表しています。
アレルギー物質で表示義務があるものについては以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。

アレルギー物質で表示義務があるものは?その理由と表示例を徹底解説
この記事ではアレルギー物質で表示義務化されている7品目と表示推奨されている21品目について詳しく解説します。...
食品製造におけるアレルギー対策6選
食品製造におけるアレルギー管理は、製造機器や原材料にいかにアレルゲンをつけないかが重要となります。
アレルゲンを付けない、アレルギーをもつ消費者の口に入れないことを前提に以下の対策が必要です。
原材料に含まれるアレルゲンの情報収集
まずは、製造する商品の原材料にアレルゲンがあるかどうか把握することが大事です。
原材料ごとのアレルゲン含有の有無は、原料規格書をで確認できます。
仕入れる原材料に含まれるアレルゲンが自社にとって重要なものであれば、サプライヤーへの対策を確認すると良いでしょう。
原材料の保管や使用場所を決める
アレルゲンの交差接触を避けるため、アレルゲンを含む原材料の保管や使用場所を決めておきましょう。
アレルゲンを含む原材料と含まない原材料を同じ場所に保管したり、使用場所を同一にしたりすると、交差接触のリスクが高まるからです。
アレルゲンを含む原材料と含まない原材料は異なる部屋または倉庫に保管し、使用場所も分離するのが理想的です。
しかし中小規模の食品事業所では、保管場所のスペース確保が難しいこともあるため、現実的ではありません。
そのため開封後のアレルゲンを含む原材料は、飛散して微量混入しないよう、密閉して保管するなどの対応が必要です。
またアレルゲンを含む原材料を保管するときは、一目でアレルゲンを含む原材料だとわかるよう、色付きのケースで保管したり、タグ付けしたりするなど、運用での対策を行い交差接触を防ぎましょう。
製造ラインや使用する調理器具の分離・専用化
複数の商品を製造する事業所では、アレルゲンを含む商品と含まない商品で製造ラインや使用する調理器具を分離・専用化することが理想ではありますが、実際の現場では難しいのが現実です。
だからこそ、アレルゲンを含む商品と含まない商品を製造しなければならない場合は、商品の製造後にアレルゲンが残らないよう、洗浄を徹底しましょう。
調理器具など可能なものはアレルゲン専用のものとそうでないものを区別し、一目でどちらの調理器具かわかるよう、工夫します。
製造機器の洗浄方法や調理器具のルールは従業員教育をおこない、全従業員に周知徹底しましょう。
また稼働前や洗浄後には、製造機器や調理器具にアレルゲンが残っていないか、スワブプロなどを用いて、残留たんぱく質の検査をするのがおすすめです。
製造の順番を工夫する
同日の製造でアレルゲンを含む商品とそうでない商品を製造する場合、交差接触を防ぐためアレルゲンを含まない商品から先に製造しましょう。
製造計画を工夫することで、アレルゲンの交差接触のリスクを低減させることができます。
やむを得ず、先にアレルゲンを含む製品を製造しなければならないときは、製造の切り替え時に機器や道具・備品・作業台の洗浄・殺菌を徹底するようにしましょう。
その際には、従業員のエプロン・手袋交換・手洗いを実施します。
商品ラベルのアレルギー表示
食品製造現場でアレルゲン管理をするときは、商品ラベルのアレルギー表示に誤りがないか確認しましょう。
商品ラベルのアレルギー表示に誤りがあると、アレルギーを持った消費者が誤って口にしてしまい、アレルギー症状が出てしまう可能性があります。
特に注意したいのが、既存商品のリニューアルにより含まれるアレルゲンが変わるときです。
既存商品のラベルを誤ってリニューアル製品に添付しないよう、新規のラベルを入荷したら、既存の在庫ラベルはすべて廃棄するなどの対応をしましょう。
また使用原材料にアレルゲンが含まれていなくても、同一ラインでアレルゲンを含む商品を製造する場合には、ラベルに消費者に注意喚起を促す一文を入れることもあります。
例:「本品製造工場では○○(特定原材料等の名称)を含む製品を生産しています。」
提示した注意喚起の表記は、あくまでも食物アレルギーを持つ消費者への注意喚起です。
「表記したので混入しいても大丈夫」というような逃げ道にはなりません。
食品事業者には、アレルゲンの交差接触がないような、食品衛生管理が求められます。
アレルゲンの表示ミスによるリコールが多い
アレルゲンの表示ミスによるリコールが非常に多く発生しています。
2022年1月1日~2022年12月31日にかけて、厚生労働省に届出があった公開回収事案は1163件となっています。
このうち不正表示が64%と大半を占めており、内訳は賞味期限・消費期限の表示誤りが37%、アレルゲン情報の誤りが23%となっています。
その他の内容を詳しく見てみると、アレルゲン情報の欠落や原材料情報の不足、賞味期限情報の欠落、表示シールの貼り間違いなども記載されていました。
リコールが生じると、商品の回収はもちろんのこと、健康被害に遭われた消費者の方に対し補償をしなければなりません。
これは当たり前のことですが、食品事業者の経営に大きなダメージを与えることは間違いないでしょう。
幸いなことに、健康被害がなかったとしても、風評被害やリコール対応にかかる費用は大きく、経営が傾いてしまう可能性もあります。
従業員教育
食品製造現場でアレルゲン管理をするときは、従業員教育をしましょう。
現場従業員がそのルールを実施する意味を理解できなければ、作業が疎かになり交差接触のリスクが高まるからです。
アレルゲン対策を講じる前に、現場従業員になぜアレルゲン管理が必要なのか、アレルゲン管理をする意味を理解してもらう必要があります。
また、アレルゲン管理のために厳し過ぎるルールを設けてしまうと、製造現場の負担が大きくなり、従業員のミスが増えてしまうかもしれません。
アレルゲン管理について、ルールを決めるときには現場で働く従業員の声も聞ききましょう。
現場の従業員に過度な負担がなく、アレルゲン管理ができるよう、話し合って決めることが大事です。
アレルギーの交差接触がが起こりやすい状況
食品事業者で、以下のような場合にアレルゲンの交差接触が起きやすくなるため、そららに対する対策が必要です。
- 同一工場での製造
同じ工場内で共通しない複数のアレルゲンを含む原材料を使用している - 製造ラインの共有
共通しない複数のアレルゲンを原材料を同じ製造ラインや同じ部屋で製造している - 調理器具の共有
共通しない複数のアレルゲンを原材料を共通した調理器具・備品を使用している
これらの状況では、アレルゲンの交差接触が発生するリスクが高まります。
アレルゲンの交差接触の有無を確認する方法
アレルゲンの交差接触が起こりやすい場合、食品事業者はアレルゲンの交差接触が発生していないか、定期的に検査する必要があります。
検査するタイミングと検査方法は次の通りです。
製造機器・調理器具洗浄後
同一ラインでアレルゲンを含む製品とアレルゲンを含まない製品を製造する場合、稼働前・洗浄後のタイミングに次の検査を実施します。
- 簡易的な検査:残留たんぱく質の有無をチェック
- 具体的な検査:個別のアレルゲンの有無を確認できる検査
簡易的な検査は、コスパのよいスワブプロなどを使用し、洗浄後の衛生度をチェックします。
一方、具体的な検査では特定のアレルゲンに対して有無が確認できる検査キットを使用します。
具体的なチェックは適切に洗浄できているかの検証を目的として、月に1回や3ヵ月に1回など定期的に検査するとよいでしょう。
製造の順番をかえるとき
アレルゲンを含む商品を製造した後に、アレルゲンを含まない商品を製造する場合、アレルゲンの交差接触が発生する可能性が高くなります。
同一ラインでアレルゲンを含む商品と含まない商品を製造するときには、最終商品にアレルゲンが混入する可能性があります。
外部の検査機関で定期的に製品検査を依頼しましょう。
特に洗浄できない製造ラインの場合、製品検査での検証が重要です。
食品製造現場でアレルギー管理が必要な理由
食品製造現場ではアレルゲン管理の重要性が高まっています。
2020年に改定されたcodexのHACCPガイドライン改定版にも、アレルゲン管理の重要性が強調されています。
なぜ食品製造現場でアレルギー管理が求められているのでしょうか。
アレルゲンによって消費者の命を脅かすから
食品製造現場でアレルギー管理が求められている理由は、商品に含まれるアレルゲンを摂取することで、消費者の命に危険が及ぶ可能性があるからです。
アレルギー反応は人によってさまざまで、少量摂取しただけでも重篤な症状が発生してしまうこともあります。
とくにアナフィラキシーショックは、摂取後すぐにあらわれ、対処しなければ死に至ることもあるため大変危険です。
商品の原材料にアレルゲンを使用していなくても、同じ製造ラインでアレルゲンを含む別の商品を製造していた場合、製造機器に残っているわずかなアレルゲンが原因で症状があらわれることもあります。
食物アレルギーの事故事例
食物アレルギーの事故事例の中で、最も有名な事件は東京都調布市の学校給食で起こった事件ではないでしょうか。
この事故は2012年3月に発生した事故です。
乳製品アレルギーを持つ小学校5年生の女児が、担当教諭の誤った認識で、チーズチヂミを口にしてしまいアナフィラキシーショックにより亡くなっりました。
この事故の影響を受け、文部科学省や厚生労働省、日本アレルギー学会などが委員会を設置し、再発防止策を話し合いできたのが学校食物アレルギー対応マニュアルです。
このマニュアルは、調布モデルと呼ばれ、全国の小中学校に広がっています。
マニュアルに書かれている内容は、学校給食に限らず食品事業すべてが知っておくべき内容です。
アレルゲンを含む食品事業に関わる人は、読んでおくことをおすすめします。
この事故は食品製造由来の事故ではありません。
しかし、「アレルギーを持った消費者がアレルゲンを喫食することで死亡事故につながる」ことを私たちは常に頭に入れて商品製造をする必要があることを再認識させられる事故です。
まとめ
食物アレルギーはアレルゲンを少量摂取しただけで、発症する恐れがあります。
そのため、アレルゲンが商品に付着しないよう原材料の仕入れ・保管から出荷までの対策が求められます。
まとめ
- アレルゲンの交差接触防止は原材料の搬入から対策する必要がある
- アレルゲンの交差接触防止の徹底には従業員教育が重要
- リコールの理由でアレルギーに関するものは最も多い
従業員教育や製造ラインの分離を検討するのはもちろんのこと、アレルゲンの交差接触がないよう、製造機器や調理器具にアレルゲンの残留がないかツールを使って確認することも大事です。

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