包装内の空気を抜き、真空状態にして食品を保存する真空包装は、食品製造や外食産業などさまざまなシーンで活躍する包装方法です。
食品の品質や安全性を長期間保てるため、導入を検討している事業者も多いのではないでしょうか。
しかし、真空包装するには専用の機械が必要で、さらにランニングコストもかかるというデメリットもあります。
そこで今回は導入する前に知っておきたい、真空包装のメリットやデメリットについて解説します。
ボツリヌス菌食中毒の危険性についてもまとめましたので、真空包装の導入を検討されている事業者はぜひ最後までご覧ください。
真空包装とは?
真空包装とは、包装内の空気を抜き真空状態にすることです。
真空包装にすると、製品の保存期間を延長させたり、調理の効率化を図れたりできるなどさまざまなメリットがあります。
一方で、真空包装をするには専用の機械が必要になるため初期費用が高額になりがちです。
また専用の袋や機械を稼働させるためのオイルなどランニングコストがかかるなどのデメリットもあります。
さらに真空包装すると食品は長持ちするという良いイメージがありますが、実は真空包装だからこそ気を付けなければならない大きな落とし穴があるのです。
ここからは、真空包装のメリット・デメリットを詳しくみていきましょう。
真空包装のメリット
食品を真空包装で保存することで、次のようなメリットが得られます。
うまく活用することで商品の価値を上げ、利益アップにもつなげられるかもしれません。
おいしさ長持ち
真空包装は袋の中だけでなく食材に含まれる空気も抜くことで、鮮度を保ちおいしさを長持ちさせることが可能です。
しっかりと密閉された包装内では乾燥を防げるので、味や香りの変化を遅らせられます。
食品の型崩れや食感が悪化する予防にもつながるでしょう。
また真空包装されたものをそのまま冷凍保存すれば霜がついたり、匂いが移ったりすることを防ぎより長くおいしさを保てます。
衛生管理のしやすさ
真空包装することで酸化による食品の変質や細菌の繁殖による腐敗を防ぎ、衛生的に管理・保存できます。
食品を密閉して保存すると、細菌の付着や増殖のリスクを低減できるため、二次汚染の防止にもつながります。さらに異物混入の予防にも有効です。
調理作業の効率化
真空包装は 調理作業の効率化 にも一役買います。
まず食品内の空気までしっかり抜くことで、マリネや煮物などの漬け込み時間の短縮が可能です。
必要な調味液や煮汁も少量ですみコスト減にもつながるでしょう。
さらに真空包装した状態で調理済みのメニューを冷蔵や冷凍しておけば、温めるだけですぐ料理を提供できます。
レストランなどで調理に手間のかかるメニューはあらかじめ真空包装して保存しておけば、おいしさをキープしたまま時短での提供が叶うでしょう。
また食材が安いときや余ったときに真空包装した上で冷凍保存しておけば、長期保存できコスト減や食材ロスの防止ができます。
真空包装のデメリット
真空包装はメリットだけではなくデメリットもあります。
真空包装導入後に「こんなはずじゃなかった……」と後悔しないよう、事前に確認しておきましょう。
初期費用やランニングコストが必要
真空包装を導入するには初期費用やランニングコストがかかります。
まず専用の真空包装機を購入する必要があり、その価格は数十万から100万円を超えるものまでと決して安いものではありません。
加えて専用の真空袋やテープなどの消耗品の購入も必要です。
さらに定期的な機器の点検やメンテナンスも必要となる点も確認しておきましょう。
ボツリヌス食中毒の原因になる
真空包装で保存した食品はボツリヌス菌が増殖するリスクがあり、 「ボツリヌス食中毒」の原因になることがあります。
2012年には鳥取県で真空包装された「あずきばっとう」を食べた夫婦がボツリヌス食中毒を発症した事例が報告されています。
衛生管理がしやすい真空包装ですが、ボツリヌス食中毒のリスクがある点をきちんと把握した上で利用することが重要です。
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真空包装でなぜボツリヌス食中毒になるの?
空気を遮断し、食中毒菌などの細菌の増殖を減らすはずの真空包装ですが、なぜボツリヌス食中毒のリスクが高くなるのでしょうか。
それはボツリヌス菌が「偏性嫌気性菌」の一種で、酸素がない状態を好む細菌だからです。
ボツリヌス菌は、真空包装のような酸素が少ない状況でどんどん増殖して毒素を産生し、食材とともに摂取することで食中毒を引き起こします。
厄介なことにボツリヌス菌は土壌や海、川など自然界の至るところに存在し、あらゆる食材にそのリスクが伴います。
ボツリヌス食中毒は命にかかわることがある
ボツリヌス菌は 「最強の自然毒素」とも呼ばれ、毒素を摂取することで短時間で命にかかわるおそれがあります。
ボツリヌス食中毒の症状は次の通りです。
ボツリヌス食中毒の症状
- 神経と筋肉の伝達を遮断
- 筋肉を麻痺させて吐き気やおう吐
- 言語や視力の障害
- 嚥下困難
- 呼吸困難
万が一にも製造している食品が原因でボツリヌス食中毒を引き起こすとがあれば、消費者の命を危険にさらしかねません。
また営業停止処分や場合によっては営業許可取り消しとなる場合もあり、十分に注意する必要があります。
真空包装によるボツリヌス食中毒を防ぐための対策
真空包装でボツリヌス菌食中毒を防ぐためには、何に気を付ければよいのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
洗浄と温度調節を徹底する
食材の洗浄と温度調整を徹底することで、真空包装のボツリヌス菌食中毒を防ぎましょう。
ボツリヌス菌は自然界のあらゆる場所に存在するため、食材の汚染を防ぐのは不可能だからです。
調理の前には、食材をしっかり洗浄しボツリヌス菌を洗い流しましょう。
またボツリヌス菌は3℃未満では増殖しないという特徴があるため、食材の低温保存も食中毒防止に有効です。
一方で、ボツリヌスの毒素を産生する芽胞を失活するには、80℃で20分又は100℃で数分の加熱が必要です。
さらに無菌状態にするには、120℃で4分又は100℃で360分以上の加熱が必要になります。
レトルト殺菌をしない製造工程の場合、加熱殺菌による菌のコントロールは非常に難しいものになります。
冷蔵状態で流通させる
加熱殺菌でのボツリヌス菌のコントロールは難しい場合でも、他の手段で食中毒予防することが可能です。
その手段の1つに、冷蔵・冷凍保存があります。
低温状態にすることで、ボツリヌス菌の増殖を抑えたり芽胞からの毒素産生を防げたりできるからです。
輸送だけでなく、販売時や保存・保管時も冷蔵もしくは冷凍状態を保つようにしましょう。
消費者に分かるよう保管方法を明確に表示する
真空包装を施した食品のラベルには、冷蔵保存が必須であることを消費者にわかるよう明確に表示しましょう。
真空包装された食品は、常温保存が可能なレトルト食品と勘違いしやすい形状だからです。
消費者が誤って常温保管してしまうとボツリヌス菌が増殖してしまい、食中毒リスクが高まります。
文字の大きさや色、配置する場所を工夫し消費者がすぐにわかるよう明示しましょう。
まとめ
真空包装すると、食品の品質を保ちながら長期保存することができます。
さらに、調理の効率化にもつながるため、初期費用やランニングコストのデメリットをクリアできるのであれば、導入を前向きに検討するとよいかもしれません。
ただし、真空包装はレトルト食品の包装とは異なり、冷蔵保存が必須です。流通方法や保存方法を誤ってしまうとボツリヌス菌食中毒のリスクが高まります。
まとめ
- 真空包装は食品のおいしさを長持ちさせ調理の効率化にも役立つ
- 真空包装の導入には高額な専用の機械や専用の袋、メンテナンスなどランニングコストも必要
- 真空包装はボツリヌス菌食中毒の恐れがあるため冷蔵保存が必須
事前に真空包装のメリット・デメリットも確認すれば、スムーズに導入できるはずです。
便利な真空包装を製造工程内に導入し、事業の拡大を目指してみてはいかがでしょうか。
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