冷凍食品(原材料)の解凍工程は、食品事業者や衛生管理担当者にとって見過ごせないリスク管理のポイントです。
誤った解凍方法は、細菌の急激な増殖や品質劣化を招き、食中毒事故の引き金となってしまいます。
安全な解凍には、冷凍食品(原材料)ごとの特性や製造基準(HACCPなど)に則った適切な手順が不可欠です。
この記事では、冷凍食品(原材料)を安全かつ高品質に提供するための正しい解凍方法と、誤った解凍によるリスクについて、現場で役立つ実践的な視点から解説します。
冷凍食品(原材料)を安全に解凍する方法
食品の冷凍技術は、ここ数年で大きく進歩し、食品事業の現場でも重宝されるようになりました。
とくに、食品を短時間で一気に凍らせる急速冷凍は、解凍後も食感や風味、栄養価が保たれ「食品を冷凍すると味が落ちる」というイメージが大きく変わりました。
食品事業の現場でも、原材料に冷凍食品(原材料)を使うところも増えてきているようです。
冷凍食品(原材料)を使用するときには、解凍作業が必要になりますが、誤った解凍方法は、食中毒や品質劣化のリスクを高めるため注意しましょう。
冷凍方法の解凍方法は次の通りです。
解凍方法 | メリット | デメリット |
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解凍機での解凍 |
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冷蔵庫解凍 |
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氷水解凍 |
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容器や水の衛生管理が必須 |
流水解凍 |
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自然解凍 | 手間なく簡単に解凍できる |
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温水解凍 | 冷凍食品(原材料)を素早く解凍できる |
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それぞれ詳しく見ていきましょう。
解凍機による解凍
解凍機による解凍とは、冷凍された食品を専用の機械(解凍機)を使って、温度や湿度を精密にコントロールしながら効率的かつ安全に解凍する方法です。計画的に短時間解凍でき、解凍後の庫内温度を一定に保つことができます。
ドリップを最小限にまで抑えて解凍できるので、食材のの食感や風味を逃さず解凍可能です。解凍機の種類は次の通りです
解凍機の種類 | 解凍の仕組み |
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低温高湿度解凍機 | 庫内の温度を低温(通常は0~5℃程度)に保ちながら、湿度を非常に高く(95%以上)コントロールし、水蒸気の「潜熱」を利用して食品を解凍する |
高周波・マイクロ波解凍機 | 電磁波のエネルギーを利用して冷凍食品(原材料)を内部から加熱し、短時間で効率よく解凍する |
蒸気解凍機 | 低温の蒸気を利用して冷凍食品(原材料)を効率的かつ高品質に解凍する |
解凍機による解凍は、冷凍食品(原材料)を均一にムラなく、効率良く解凍してくれます。
しかしながら、解凍機は高額でなおかつ定期的なメンテナンスも必要なので、導入前にメリットデメリットを確認しておきましょう。
冷蔵庫解凍
冷蔵解凍は、冷凍された食品や食材を冷蔵庫内(通常5~10℃程度)に移し、低温環境下でゆっくりと時間をかけて解凍する方法です。
冷蔵解凍の手順
- 冷凍食品(原材料)を冷蔵庫に移す(重ねずにバラして置くと均一に解凍できる)
- 食材の大きさや厚みによって半日~1日程度かけて解凍
- 解凍状況を確認し、中心まで柔らかくなっていれば完了
低温環境下で解凍するため、細菌の繁殖を抑えることができ、食中毒リスクを低減することができます。
またドリップ(冷凍時に出る食品の水分)が出にくいため、うま味や栄養素の流出を最小限に抑えられるのもメリットです。
一方で、冷凍食品(原材料)の大きさや種類によって、解凍に一晩~1日以上かかることがあるため、急ぎ食材を使用したい場合には不向きです。
冷蔵解凍が適している冷凍食品(原材料)
- 肉や魚など生鮮食品
- 生クリームを使用したケーキ、お弁当
- 品質や衛生管理が求められる食材
氷水解凍
氷水解凍とは、冷凍食品(原材料)を0℃近くに保った流水に沈めて解凍する方法です。
氷水の熱伝導率を利用し、冷蔵解凍よりも速くかつ食品の品質を保ちながら解凍できます。
!氷水の熱伝導率とは?
水は、空気より約25倍も熱が伝わりやすい物質で、言い換えると何かと接したときに”(空気と水が同じ温度なら)空気よりも水の方が約25倍も熱が多く移動します。氷水解凍の手順
- 食品が全て沈む大きさの容器に水と氷を入れ、0℃前後を保つ。
- 冷凍食品(原材料)を袋に入れ、空気を抜いて密封し、氷水に沈める。
- 浮く場合は皿などで押さえ、全体が氷水に触れるようにする。
- 氷が溶けたら追加し、常に0℃付近を維持する。
- 解凍具合を確認し、芯が少し残る程度で取り出す
- 食品は袋に入れて密封し、袋が氷水の中に沈むようにします。
氷水解凍では、食品のドリップが発生しやすい温度帯を素早く通過することができるため、解凍後の食品の食感や風味を損なわず解凍が可能です。
解凍時に食品に水が付着すると品質劣化や食中毒リスクが高まるため注意しましょう。
流水解凍
流水解凍とは、冷凍食品(原材料)の上から水を流し続けながら解凍する方法です。
水の流れによる熱伝導の高さを利用し、冷蔵庫解凍よりも早く解凍できます。(一般的に20~30分程度)
流水解凍の手順
- 食品を密閉できる袋(ポリ袋やパウチ)に入れ、空気を抜いて封をする。
- 水を張った容器に袋ごと食品を沈める。食品全体が水に浸るようにする。
- 容器に水を流し続ける。水温は25℃前後10~40℃程度が適切。
- 半解凍の状態で取り出し、すぐに調理する。
流水解凍の場合、常温温度帯(25℃前後10℃~40℃)の水に冷凍食品(原材料)をさらして解凍するため、食品の酵素反応が活発になります。
その結果、変色や臭いが発生することも少なくありません。
そのため、一度火を通した調理済冷凍食品(原材料)や塩分や糖分で味付けされている食品の解凍に向いています。
自然解凍
自然解凍とは、冷凍した食品を常温に置いて解凍する方法です。
特別な道具や加熱を使用せず、冷凍食品(原材料)を解凍できるメリットがあります。
一方で、食品が常温に長時間さらされるため、食中毒菌(黄色ブドウ球菌・サルモネラ・腸炎ビブリオなど)が増殖しやすくなるため注意が必要です。
また最大氷結晶生成温度帯(-5℃~-1℃)の温度帯に長時間さらされるため、ドリップの流出や変色、臭いの発生などの問題も起きやすくなります。
そのため、冷凍食品(原材料)で自然解凍できるものは、加熱調理済で衛生管理が徹底された冷凍食品(原材料)のみに限られるため覚えておきましょう。
!「自然解凍品」をパッケージに記載するには?
- HACCPなどの高度な衛生管理手法で製造されている
- 日本冷凍食品(原材料)協会が定めた実施要領に基づき「35℃で9時間」の条件で保存試験を実施する
2つの条件を満たす必要がある。
自然解凍が可能な冷凍食品(原材料)かどうかは、パッケージ表示やメーカ―表示を確認しましょう。
「自然解凍品」とパッケージに記載されている冷凍食品(原材料)以外は、そのまま食せず必ず加熱調理します。
温水解凍
温水解凍とは、冷凍食品(原材料)を30~40℃の温かい水に浸して短時間で解凍する方法です。冷凍まぐろなどの鮮魚類や、一部の冷凍加工食品の解凍で使用されます。
冷蔵庫解凍や流水解凍よりも素早く解凍できるのが特徴です。
温水解凍の手順(例:まぐろの場合)
- 30~40℃の温水を用意する(40℃を超えるとタンパク質が変性しやすいので注意)
- 塩分濃度3.5%程度(海水に近い濃度)の塩水を作る。
- 冷凍食品(原材料)を密閉袋のまま、または直接(まぐろなどの場合)塩水に浸す。
- 解凍が進んだら、半解凍状態で取り出し、必要に応じて冷蔵庫で仕上げる。
一方で、温度管理を怠ると品質劣化を招きます。温水40℃を超えるとたんぱく質が変性するため、食感や品質が損なわれます。
また、冷凍食品(原材料)が均一に温水に浸からないと解凍ムラガ発生しやすくなるためです。さらに冷凍食品(原材料)の表面温度が急激に上がるため、雑菌の繁殖リスクも上がります。
安全に解凍するためには、食品事業者が必ず手順と管理ポイントを守る必要があります。
解凍時の衛生リスクと対策
冷凍食品(原材料)は安全な方法で解凍しても、ドリップに触れたり、常温に長時間置いてしまったりすると食中毒リスクが高まります。いずれの解凍方法を取るにしても、解凍後の食材の品温は5℃以下を目安に時間を設定する必要があります。
ここからは冷凍食品(原材料)を解凍するときの衛生リスクと対策をご紹介します。
常温解凍のリスク
市販の「自然解凍品」の商品は、HACCPの厳格な衛生基準をクリアして製造されています。しかしながら、自家製や「自然解凍品」以外の冷凍食品(原材料)は、自然解凍に適しません。
常温解凍は、食品の表面温度が「細菌が最も増殖しやすい温度帯」に長時間さらされるため、食中毒リスクが高まるためです。また、中心まで完全に解凍されず解凍ムラが発生し、解凍後に加熱調理しても内部まで加熱されず殺菌が不十分なまま食卓に並ぶ危険性があります。
さらに冷凍食品(原材料)から出るドリップにより変色や食感を損ない、品質低下を招くことも。このことから常温解凍は、食品事業者にとっては避けるべき解凍方法の1つです。
冷凍食品(原材料)のパーッケージ表示に従い、他の解凍方法を選択しましょう。
ドリップによる二次汚染
冷凍食品(原材料)を解凍するときに注意したい衛生リスクの1つに、ドリップによる二次汚染があります。
ドリップとは、冷凍食品(原材料)から出てくる液体で、その中には食品に元々付着していた細菌やウイルスなどの微生物が含まれている可能性があります。
解凍時に発生したドリップが他の食品や調理器具、手指などに付着すると、もともと汚染されていなかった食品にまで汚染されてしまうことがあるため注意が必要です。
ドリップによる二次汚染を防ぐため、以下の2点に気を付けましょう。
解凍方法の工夫
食中毒リスクが低い冷蔵庫解凍を基本とし、ドリップが外に漏れないよう蓋つきの容器やバットに冷凍食品(原材料)を入れて解凍しましょう。他の食品と直接触れないよう配置し、二次汚染を防ぐため生鮮食品の近くに置かないようにします。
解凍後は速やかにキッチンペーパーでドリップを拭き取り、調理直前まで5℃以下で保管しましょう。
解凍時の調理器具の使い分け・洗浄
解凍専用の容器を予め決めておき、使用後は洗剤と消毒でしっかり洗浄・消毒をしましょう。
解凍後の食品を切り分ける包丁やまな板もできる限り使い分けるのがおすすめです。
使い分けるのが難しい場合は、解凍後の食品を切った後にしっかり洗浄・消毒をしましょう。
ドリップが付着した器具は洗浄後に85℃以上の熱湯で1分以上消毒し、乾燥させた後に消毒をします。
手指からの汚染を防ぐ
ドリップには食中毒菌などの菌が含まれている可能性があり、液が手指に付着したまま他の食品や調理器具に触れると二次汚染のリスクが高まります。
解凍した食品を取り扱うときは使い捨ての手袋を使用し、手指からの二次汚染を防ぎましょう。
また、使い捨ての手袋を着用していたとしても、手袋に小さな穴が空いていて、手指にドリップが付着してしまう可能性もゼロではありません。
解凍した食品を取り扱った後は、次の工程に入る前に手洗い・手指の消毒を徹底すると安心です。
手洗いの正しい方法や手指の消毒については、以下の記事をご覧ください。
不十分な解凍のリスク
食品を解凍したときに、中心部が凍ったまま外側だけが解凍されている状態を【不十分な解凍】と言います。
不十分な解凍の状態の食品を加熱調理した場合、中心部まで十分な温度に達しない可能性があり、細菌やウイルスが死滅せず残ってしまうリスクがあります。
厚みのある冷凍肉や冷凍魚を解凍する場合、不十分な解凍が起こりやすくなるため注意が必要です。
不十分な解凍は、常温解凍やレンジ解凍など食品を素早く解凍しようとしたときに起こりやすくなります。
冷蔵庫解凍や流水解凍などの他の解凍方法を選択しましょう。
解凍後の取扱い
冷凍食品(原材料)は、使用する分だけ解凍し、解凍後はすみやかに使用します。
解凍後の使用期限については、食材によって異なるため、自社での検証が必要です。
また、一度解凍した冷凍食品(原材料)を再度冷凍することはやめましょう。
一度解凍した食品は、表面や内部で細菌が増殖している可能性が高く、再び冷凍したときに死滅するとは限りません。
よって再解凍するときに食中毒リスクが高まるためです。
特に、解凍した食品を5℃以上で保管した場合、食中毒菌含む細菌の増殖リスクが増大します。
また、再冷凍をすると食品の細胞組織が破壊され、風味や食感、栄養素が著しく低下します。
現場での運用
日常的な解凍は、解凍機や冷蔵庫解凍が推奨されます。
しかし、実際は解凍が間に合わなかったり、急ぎ解凍したい食材が出てくることもあるため、緊急解凍として流水解凍や氷水解凍の手順をあらかじめ決めておきましょう。
その際には、タイマーなどを使用し、解凍中の食材が放置されないよう注意する必要があります。
まとめ
冷凍食品(原材料)の解凍は、衛生管理上重要な工程であり、誤った方法では細菌の増殖や品質劣化による食中毒リスクが高まります。
安全な解凍方法としては、冷蔵庫解凍が最も衛生的で品質保持に優れていますが、時間がかかるのが難点です。
まとめ
- 冷凍食品(原材料)は食材によって適した解凍方法が異なる
- 冷凍食品(原材料)を急速に温めようとするととドリップが発生したり食中毒菌が増殖したりするリスクがある
- 冷凍食品(原材料)を安全に解凍するには正しい解凍手順を理解する必要がある
自然解凍は加熱済みや「自然解凍品」と明記された製品以外には危険で、生鮮品や自家製冷凍食品(原材料)には不向きです。
また、解凍後の再冷凍は品質劣化や食中毒のリスクがあるためやめましょう。
通常解凍と緊急解凍のマニュアルを作成し、また二次汚染防止のための手順を定めることが望まれます。

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