食品事業に必要なゴキブリ対策と防除を解説
消費者へ安心・安全な食品を届けるためには、衛生管理の徹底が欠かせません。
衛生管理で気を付けなければならないことは多々ありますが、その中でも、厄介な存在となるのが「ゴキブリ」です。
食品事業においては、ゴキブリの存在が製品の品質だけでなく、企業の信頼にも関わる問題となることがあります。
今回は、食品製造現場で出現しやすいゴキブリの種類や特徴から対策までをわかりやすく解説します。
食品製造現場でよく見られるゴキブリの種類と特徴
食品製造現場におけるゴキブリの存在は、ただの害虫にとどまりません。
異物混入、病原菌の媒介、風評被害……
こうしたリスクを未然に防ぐためには、まず「相手(ゴキブリ)を知る」ことが大切です。
ここでは、施設で特に発見されやすい種類のゴキブリとその特徴を確認していきましょう。
チャバネゴキブリ | クロゴキブリ | ワモンゴキブリ | |
---|---|---|---|
成虫の大きさ | 約10~15mm | 約30~40mm | 約40~50mm(国内最大級) |
生息地 | 屋内のみ(温かい場所) | 屋外・屋内両方、水気の多い場所 | 屋外・屋内両方、特に温暖な地域や大型施設 |
見た目 | 淡黄褐色、前胸背面に黒い斑紋 | 黒色または黒褐色、光沢あり | 茶褐色、光沢あり、前胸背板に黄白色の輪模様 |
飛行の可否 | 飛ばない | 飛ぶ | 飛ぶ |
卵の特徴 | 卵鞘をメスが腹部に抱えて移動、1卵鞘に20~40個 | 1卵鞘に約20個、産卵後すぐに落とす | 1卵鞘に約14個、産卵回数が非常に多い |
クロゴキブリの特徴と侵入経路
クロゴキブリは、体長30mm前後と大きめで、光沢のある黒褐色の体をしています。
下水や屋外の排水まわりから侵入するケースが多く、飲食店や工場の水回りに出没しがちです。
排水管の周辺や床下のすき間、室外機の裏など、湿気のある場所を好み巣を作ります。
寒さに強く、主に屋外に生息地していますが、排水溝などを伝って屋内に侵入することも少なくありません。
単独行動が多く、全国的に分布し食品製造現場だけでなく一般家庭でも多く見られるのが特徴です。
クロゴキブリは一度侵入すると、温度と湿度が整った環境下で繁殖を始めることも。
排水まわりの小さな異変に気づくことが、早期発見につながる第一歩かもしれません。
チャバネゴキブリの特徴と侵入経路
チャバネゴキブリは、成虫でも体長は10~15mmほどと小柄で、明るい茶色の体色をしています。
クロゴキブリと比べると半分くらいのサイズです。
体長が小さいため、隙間入り込むのが得意で、厨房の棚の裏や配線周りなど、わずかなスペースにもすっと入り込んでしまいます。
寒さに非常に弱いため、屋外で生息できません。
機械裏や加熱調理器具、暖房が効いた建物など温かく湿った場所を好みます。
夜行性で日中は暗く狭い隙間に潜んでいます。
そのため、食品の保管場所や調理台の引き出し内など、思いもよらないところで姿を見せることもあります。
侵入経路としては、段ボールや荷物に紛れ込んで運ばれてくることが多く、食品の納品時にすでに“同乗”しているケースも。
店舗間で資材や備品の貸し借りがあった場合、そこから持ち込まれることもあるようです。
見た目には清潔に保たれている厨房であっても、チャバネゴキブリの行動範囲は広く、わずかな油分や水気をエサにして生き延びることができます。
特に気をつけたいのが、薬剤に対する抵抗性。
長年の駆除活動をくぐり抜けてきた個体ほど、殺虫剤の効きが弱くなっている傾向があるとされています。
一見すると「小さくて無害そう」と思われがちですが、食品事業者にとっては非常に厄介な相手です。
ワモンゴキブリの特徴と侵入経路
ワモンゴキブリは、クロゴキブリよりもさらに大型で、40mm~50㎜前後まで成長することもあります。
全体は赤みを帯びた茶褐色で、胸の部分に“輪”のような模様があることが特徴です。
一見しても迫力があり、はじめて遭遇した方は思わず声が出てしまうかもしれません。
もともとは熱帯地域に多い種類ですが、近年は温暖化やビルの増加で北海道まで分布を広げています。
特に、老朽化した施設や温度・湿度の管理が難しい地下室などでは、目にする機会が増えてきました。
下水口を経由して侵入するケースが多く、クロゴキブリと同様、水回りの設備まわりで見つかることがあります。
ワモンゴキブリの最大の特徴は、歩行速度にあるかもしれません。
人の気配を感じた瞬間にサッと逃げていくその速さは、目視で追うのが難しいほど。
駆除を試みてもなかなか思うようにいかない場面があるのは、この“俊敏さ”が一因となっています。
また繁殖力が強く、1回の産卵で約14~18個の卵を産み、成虫の間に50回以上も産卵するため、1匹のメスから生まれる幼虫は約700~900匹にも達するそうです。
卵を隠された場所に気づかないまま放置してしまうと、気づけば成虫が何匹も……ということにもなりかねません。
ゴキブリが食品事業にもたらす主なリスク
食品事業(飲食店や食品工場など)において、ゴキブリがもたらすリスクは多岐にわたります。主なリスクは以下の通りです。
異物混入による衛生上の問題
食品製造現場や飲食店は、食物残渣や水分が豊富なため、ゴキブリとって住みやすい環境となっています。
またサイズも小さく体の厚さも薄いことから、しっかり清掃をしていても厨房や倉庫の隙間、設備の裏側などから侵入してくることも少なくありません。
厚生労働省が主体となって実施した「食品への異物混入の苦情処理の調査」によると、平成28年度から令和元年の4年間に対応した苦情処理の件数は14684件。
そのうち、ゴキブリの混入は1806件で全体の12.3%を占めます。
せっかく買った商品にゴキブリの一部が入っていたとなると、消費者は強い不快感を覚えますし、お店や商品の信頼も失うでしょう。
それだけではなく、ゴキブリの混入は食中毒や感染症の危険もあります。
ゴキブリは下水やごみだめなど不衛生な場所を行き来し、さまざまな細菌やウイルスを体に付着させているためです。
そのためゴキブリが食品や調理器具に触れてしまうと、サルモネラ菌や大腸菌など食中毒菌を食品にうつしてしまう恐れがあります。
病原体やウイルスの媒介リスク
ゴキブリが食品製造現場や飲食店に侵入すると部油王減退やウイルス媒介のリスクが高まります。
ゴキブリは下水やゴミ置き場、排水溝など不衛生な場所を好んで移動して、体に多くの細菌やウイルス、病原体が付着しているためです。
このようなゴキブリが食品製造現場や飲食店の食糧庫や食器類、調理器具に触れると、それらに病原菌やウイルスが移ってしまいます。
ゴキブリが媒介する主な病原菌やウイルス
- サルモネラ菌
- 大腸菌
- 赤痢菌
- ピロリ菌
病原体に汚染された食品や食器、調理器具を使った料理や商品を口にすることで食中毒のリスクが高まるでしょう。
見た目の不快感と風評被害の影響
ゴキブリは黒光りした体に長い触角、異常なまでの素早い動きなど、見ただけで多くの人が強い不快感や嫌悪感を抱きます。
そのため、飲食店でゴキブリを見かけると直接的な被害がなくても「このお店は不潔だ」「もうこのお店は行きたくない」と思ってしまうお客さんがほとんどでしょう。
また飲食店でゴキブリを見たお客さんがSNSや口コミサイトに投稿してしまうと、悪評はあっという間に広がり、売上が大きく減少してしまう可能性があります。
このとき、ゴキブリの侵入や混入の事実を隠ぺいしたり、対応が遅れてしまったりすると風評被害から廃業まで追い込まれる事もあるため注意が必要です。
食品事業者が実施すべきゴキブリ駆除の方法
食品事業者が行うべきゴキブリ駆除は、「駆除」と「防除(予防)」の両面からアプローチすることが重要です。以下に、具体的な方法とポイントをまとめます。
食品残渣・生ゴミの廃棄と清掃徹底
ゴキブリを駆除するには、まず食品残渣・生ごみの廃棄と清掃を徹底しましょう。
ゴキブリにとって、食品残渣・生ごみはごちそうです。
これらを放置するとゴキブリを引き寄せ、巣を作ってしまう原因にもなります。
またゴキブリは嗅覚が非常に発達しているため、生ごみの臭いを嗅ぎ分けてその位置を正確に特定できます。
実際に生ごみがなくても臭いが残っているとゴキブリを誘引してしまう恐れがあるため注意が必要です。
ゴキブリを駆除するには、ゴキブリを引き寄せる食品残渣や生ごみを食品製造現場や厨房内に残さないようにすることが大事。
食品残渣や生ごみは、翌日に持ち越さずに回収・廃棄・リセット清掃をしましょう。日々の積み重ねが大事です。
またゴキブリは狭くて暗い場所を好む習性があります。
機械や棚の下に隠れていることもあるので、棚の下は毎日掃除できるよう高さのあるものを選びましょう。
モノが散らかっているとゴキブリの隠れ場所を増やすことになるので、清掃だけでなく整理整頓も大切です。
とくに水気のあるシンク下、洗浄機下、洗浄機内部、グリストラップは暗くて水気があるため、日々の清掃をしないとゴキブリの住処になってしまいます。
侵入経路の把握と遮断
ゴキブリはサイズが小さく、体の厚さも薄いため建物の小さな隙間や穴から簡単に侵入してしまいます。
ゴキブリを駆除するときは、まずどこから侵入するかを把握することが大事です。
ゴキブリの侵入経路
- ドアや窓の隙間
- 換気扇や排気口
- 排水溝や配管の周囲
- 壁や床のひび割れ(床の立ち上がり・角など)
- 冷蔵庫や厨房機器の下、裏側
- エアコンの排水ホース
- 食材や荷物に付着して持ち込まれる
- 木製の柱の腐食でできた穴
- 配電盤内のコード穴
侵入経路が分かったら、次はゴキブリを遮断する作業に入ります。
侵入経路別の遮断方法は次の通りです。
侵入経路別の遮断方法
- 隙間やひび割れの補修ドアや窓、壁の隙間、配管周りなどを、コーキング剤やシーリング材でしっかり埋める。シリコーン系のコーキング剤がおすすめ
- パッキンや網戸の設置・交換ドアや窓のゴムパッキンが劣化していれば交換し、換気口や窓には網戸や防虫ネットを取り付け
- 排水溝や換気扇の対策排水溝にはネットや蓋を設置し、換気扇や排気口にはフィルターを取り付け
- 荷物や食材のチェック外部から持ち込む荷物や食材にゴキブリが付着していないか確認し、必要に応じて清掃。段ボールの波になっているところに卵を産み付けることがあるので、段ボールを工場内に持ち込んだり二次利用したりしない
- 屋外に通じるドアや窓を必ず閉める短時間のドアや窓の開放でもゴキブリは屋内に入り込んでしまうため。
これらの遮断方法は1回実施すれば終わりというわけではなく、定期的に建物全体を点検し、新たな侵入経路ができていないか確認しましょう。
除湿による湿気対策
ゴキブリは、湿度75%以上のジメジメとした場所を好み、キッチン下やシンク下、排水溝付近など集まります。
また湿度が高いとゴキブリが繁殖しやすくなり、食品製造現場や店舗内での発生リスクが高まります。
ゴキブリは湿度を下げることで動きにくくなり発生を抑えることが可能です。
エアコンの除湿機能や除湿器を使用するほか、棚の置くやシンク下など湿度が高くなりそうな場所に除湿剤を設置するなど、除湿対策を徹底しましょう。
調理台やシンク下の水分を残さないようにするのも効果的です。
作業後はこまめに水分をふき取りましょう。
プロの駆除業者に依頼
ゴキブリの駆除対策は食品事業者が自分でできる対策もありますが、ゴキブリが既に多く発生している場合や、確実に駆除したい場合はプロの駆除業者に依頼しましょう。
プロの駆除業者に依頼するメリットは次の通りです。
専門的な知識と技術
プロの業者はゴキブリの生態や行動パターン、店舗ごとの構造を熟知しています。
どこに巣があるか、どこから侵入するかを的確に調査し、最適な方法で駆除してもらえるでしょう。
安全性
食品や食器に影響を与えないよう、専用の薬剤や機材を使い、安全に作業してくれます。
薬剤の誤使用によるリスクも減らせます。
即効性と長期的な効果
その場しのぎの駆除だけでなく、再発を防ぐための予防策(防除)も同時に行い、ゴキブリが住み着きにくい環境を作ってくれます。
手間や時間の削減
従業員が駆除作業に時間を取られることなく、本来の業務に集中できます。
プロに依頼するとコストはかかりますが、ゴキブリを短期間で確実に駆除できます。
しかしながら、近年ゴキブリ駆除で想定外の高額請求されているという被害相談が増えているとのこと。
ゴキブリ駆除をプロに依頼するときは、相見積もりを取ったり、実績のある業者か確認したりしながら、悪徳業者に騙されないよう気を付けましょう。
自社で駆除する場合は、食品安全を考慮した駆除薬剤の選定、事前のSDSの入手、使用時の事前準備、駆除後の復旧の手順(換気・洗浄など)をしっかり確認しておこなってください。
まとめ
食品事業におけるゴキブリ対策は、衛生管理と企業信頼を守るために欠かせません。
ゴキブリの種類や侵入経路を理解し、日々の清掃や整理整頓、侵入経路の遮断、湿気対策など多角的な防除が重要です。
まとめ
- ゴキブリは異物混入や病原菌の媒介など、食品事業に深刻なリスクをもたらす
- 侵入経路の特定と遮断、湿気対策で発生リスクを大幅に低減できる
- 大量発生時や確実な駆除には、実績ある専門業者の利用が推奨される
製造した商品や料理にゴキブリが混入するのはもちろんのこと、製造現場や飲食店内にゴキブリがいるのを消費者に見られてしまうと、企業の信頼を著しく損ないます。
このとき、迅速で誠実な対応をしないと廃業にまで追い込まれてしまう可能性があるため注意が必要です。
そうならないためにも、ゴキブリ対策は1回すれば終わりではなく、継続的に実施し、安心・安全な食品提供を徹底しましょう。

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