「害獣・害虫駆除は業者に依頼しないとできないよね」
「そもそも衛生管理を徹底している食品製造現場でも害虫・害獣が発生する?」
害虫・害獣の駆除を専門的にいうと、ペストコントロールといいます。
ペストコントロールと聞くと、不衛生な製造現場と薬剤散布をイメージしがちです。
しかし、それは大きな間違いです。
どんなに衛生管理を徹底していても、食材の搬入や従業員の出入りにより害虫・害獣の侵入を許してしまうことがあります。
地下や排水溝など思わぬ侵入経路から害虫・害獣が製造現場に入り込むこともあるでしょう。
しかしながら、業者の薬剤散布だけでは害虫・害獣発生の根本的解決は望めません。
そこで今回は、食品製造現場でできるペストコントロールの手法についてわかりやすく解説します。
ペストコントロールとは?
ペストコントロールとは、人の健康や経済活動に影響を与える原因となる有害生物を、人の生活を害さないレベルまで制御することをいいます。
不衛生な食品工場だと次のような害虫・害獣が発生する傾向があります。
食品工場で発生しやすい有害生物
- ゴキブリなどの歩行虫
- チョウバエ・コバエなどの飛翔虫
- ウジ虫
- ネズミ
ペストとは13~14世紀にわたってヨーロッパで大流行した伝染病―黒死病(腺ペスト)のことです。
衛生管理の知識が乏しかったこの時代、ペストによりヨーロッパの人口のおよそ1/3が亡くなったと言われています。
そして、ペストの原因となったのがネズミ。 ネズミを吸血していたノミが人を吸血することで感染拡大したことがのちに判明しました。
その後、都市衛生の向上や上下水道の整備、医療の進歩、殺鼠剤の導入によりペストは終息しました。
ペストが人々を死に追いやる恐ろしい病気であること、その原因がネズミやノミであったことからペストは「厄災」という意味で使われるように。
近年では「ペスト」は有害生物全般を指すようになりました。
ペストがネズミの駆除で治まったことを聞くと、多くの人は「ペストコントロール=有害生物の駆除」と思い込んでしまいがちです。
間違ってはいないのですが、食品製造の現場ではペストコントロールを駆除だけで終わらせてはいけません。
ペストを侵入・発生しない環境づくりを達成することが、ペストコントロールの最終的なゴールとなります。
食品事業者でペストコントロールが必要な理由
食品事業者は、食材の保管や残渣などによりペストが発生しやすい環境です。
その中でペストコントロールが必要な理由は次の3つが挙げられます。
ペストコントロールが必要な理由
- 食中毒の病原菌を保菌している
- 商品や食材に被害が出る
- 食品の異物混入の原因
それでは1つずつみていきましょう。
理由1:食中毒の病原菌を保菌している
食品製造の現場で発生しやすいゴキブリやハエなどの害虫は、食中毒の原因菌を保菌していることがわかっています。
たとえばゴキブリは不衛生なところに集まるので、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオなどの菌やウイルスを保菌しています。
最近の研究では、糞からピロリ菌が検出されたという報告もあるので、注意が必要です。
その他にも家庭にもよく出没する「イエバエ」は腸管出血性大腸菌O-157を保菌していることがわかっています。
ここで紹介した例はほんの一部に過ぎません。
ほかにもさまざまな有害生物が、人の健康に害を及ぼす食中毒菌を保菌している可能性があります。
理由2:商品や食材に被害が出る
有害生物は、食材や商品に被害を出すものもいます。
たとえば、ネズミは小麦粉を好んで食べる習性があります。
小麦粉は粉末状のため、ネズミの毛に付着しやすくアレルギー物質を運搬してしまう恐れがあるので注意が必要です。
もし、ネズミが小麦粉を使用してはならない製造現場に表れたら、重大な食品事故を招く恐れがあります。
また、アレルギー物質を運ばなくても、害虫や害獣に加害された食材や商品は廃棄しなければならないので、食品事業者に大きな損害を与えます。
理由3:食品の異物混入の原因
独立行政法人国民生活センターが2015年1月に発表した「食品の異物混入に関する相談の概要」の資料によると、2014年に寄せられた相談1,852件。
異物の内容別の件数を確認すると、虫など(ゴキブリやハエなど)が345件で最多を記録しています。
虫など(ゴキブリやハエなど)の内訳
- ゴキブリ、ゴキブリの足など:49件
- ハエ、ハエの幼虫など:31件
- ゴキブリやハエ以外の虫:265件
虫の混入による健康被害の有無は、この調査結果ではわかりません。
しかし、健康被害がなくても購入した商品に虫が混入しているのを発見してしまったら、食欲は失せますし「この商品は二度と購入しない」と思う人が大半でしょう。
このように食品の虫の混入は、企業や商品に大きなマイナスイメージを与えます。
また、近年ではSNSなどで虫の混入被害が拡散され、重大な風評被害に繋がった事例も。
このことから、ペストコントロールはお客様の健康被害だけでなく、企業や商品のイメージを保つためにも必要だということがわかります。
万が一、異物混入を発見したら、そのままにせず異物同定検査をするのがおすすめです。異物同定検査については、以下の記事をご覧ください。

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ペストコントロールの手法「総合有害生物管理(IPM)」
ペストコントロールの手法である「総合有害生物管理(IPM)」とは、人や環境へのリスクを最小限に抑えつつ、有害生物を効果的に管理するペストコントロールの手法です。
IPMは、単に薬剤を使わずに駆除するのではなく、「必要な時に・必要な方法を・最適な組み合わせで」用いることを重視します。
たとえば、有害生物を素早く徹底的に駆除したい場合、強力な薬剤を使用することが有効です。
しかし、食品の製造現場でこのような強い薬剤を使うと、商品への残留や品質への影響、さらには水や土壌など周辺環境への悪影響が懸念されます。
特に食品工場では、1匹の昆虫でも異物混入として大きな問題になるため、より厳密な管理が求められるでしょう。
IPMの手法では化学薬品の使用を最小限に抑え、薬剤以外の方法も積極的に組み合わせて有害生物の発生を予防・管理します。
近年、害虫・害獣駆除の専門業者もこの手法を元に有害生物の駆除を実施しています。
食品製造の現場で、専門業者による駆除を依頼する際は、総合有害生物管理(IPM)の手法を実施している業者に依頼しましょう。
また、後ほど紹介しますが、自分たちでペストコントロールするときにも、総合有害生物管理(IPM)をもとに改善策を考え実施する必要があります。
ペストが侵入・発生しない環境づくりの方法
ペストコントロールと聞くと、専門業者に薬剤散布をしてもらい害獣や害虫などの有害生物を徹底的に駆除してもらうことと多くの人はイメージしがちです。
確かに、食品工場内に有害生物がすでに巣を作っていると想定される場合は専門業者の手が必要です。
しかし、有害生物を駆除した後、何もしなければまた同じように侵入や発生を許してしまうでしょう。
ペストコントロールを徹底するには、食品事業者が有害生物を侵入・発生しない環境づくりをする必要があります。
ここからは、ペストコントロールを徹底するための手順をご紹介します。
お客様に聞き取る内容
- ターゲットを絞り込む
- ターゲットの発生源や侵入経路の調査
- ターゲットへの対処法を検討
- 調査から対処法までの活動を記録
- 改善策の効果をモニタリング調査
ペストコントロールは1人の担当者に任せっきりではいけません。 ペストコントロールのチームを作り、事業者全体で取り組む必要があります。
ステップ1:ターゲットを絞り込む
まずは食品製造の現場に発生している有害生物は何か、ターゲットを絞り込む必要があります。
なぜなら、有害生物(ペスト)のすべてをコントロールのターゲットにすると、無駄が出てしまうから。
その結果、どの有害生物もコントロールできなかったということになりかねないからです。
どの有害生物をターゲットにするかは、過去の害虫や害獣の発見数や混入事例を元に決めるとよいでしょう。
もし、新しい事業者でまだそのような調査がない場合は、まず社会的損失が最も大きいゴキブリをターゲットにするのがおすすめです。
ステップ2:ターゲットの発生源や侵入経路の調査
ターゲットを絞り込んだら、次はターゲットの発生源や侵入経路を調査します。
たとえば、チョウバエをターゲットにした場合、下記のような場所でよく発見されます。
- シンク下の壁
- 床との立ち上がり
- 機器下の配管周り
- グリストラップの蓋のふち
- 冷蔵庫の下
これらは、いずれも目に届きにくい場所です。
水分や残渣が残りやすいので、チョウバエの温床となっている可能性があります。
ライトなどを当てて、残渣や水漏れなどがないかを確認しましょう。
ステップ3:ターゲットへの対処法を検討
ターゲットの発生源や侵入経路を確認したら、ターゲットへの対処法を検討します。
先ほど例に挙げたチョウバエの発生源が排水溝で、目視の結果排水溝の亀裂を確認した場合、まずは排水溝の修理が急務となるでしょう。
また、製造現場に複数排水溝がある場合は、他の排水溝も確認する必要があります。
ただ、亀裂を直しただけでは有害生物であるチョウバエを根本的に排除したことにはなりません。
なぜチョウバエが発生したのか、仮設を立てて改善策を考える必要があります。
今回は排水溝を確認したときに、排水溝と排水溝の周りの汚れがひどいのがわかったので、まずは大掃除でそれらを綺麗にすることを改善策として考えたとしましょう。
改善策を考えたら、いつ・誰が大掃除を実施するのか、スケジュールを立てて計画的に実施します。
また改善策で薬剤を散布する際には、総合有害生物管理(IPM)に考慮することを忘れないようにしましょう。
薬剤によっては、環境だけでなく人体にも影響を与える恐れがあります。
薬剤を使用するのに慣れていないまたは自信がない場合は、総合有害生物管理(IPM)の手法を実施している専門業者にお任せするのも1つの方法です。
ステップ4:改善策の効果をモニタリング調査
改善策を実施したからといって、安心してはいけません。
もしかしたら、よかれと思っていた改善策に効果が期待できないことも考えられます。
改善策を実施したら、定期的にモニタリングを行いターゲットが侵入・発生していないかを確認し、記録していきます。
もし、ステップ4で一定の効果がみられなかった場合は、ステップ3に戻りもういちど改善策を考えて実施しましょう。
このようにペストコントロールは、改善策のトライ&エラーを行い1つずつ有害生物を駆除していく地道な作業になります。
ステップ5:調査から対処法までの活動を記録
ステップ1から4までの活動内容は、「ペストコントロールの活動記録」として残しておきましょう。
いつ・誰が・どのような方法で有害生物の駆除作業をしたのかの活動記録はもちろんのこと、ターゲットを決めた理由や駆除作業後の記録もします。
記録を残すことで、過去に同じような事例がなかったか確認することができます。
また、何度も同じターゲットを駆除するというムダを省けるでしょう。
さらに効果があった・効果がなかった事例を残すことで、対処法を効率よく絞り込むことも可能です。
このように記録を残すことで、製造現場独自のペストコントロールマニュアルを作ることができます。
ペストコントロールを成功させるための従業員教育
食品工場や飲食店などの現場でペストコントロール(害虫・害獣対策)を徹底するためには、専門業者や管理者だけでなく、現場で働くすべての従業員の協力が欠かせません。
従業員一人ひとりがペストコントロールの重要性を理解し、日々の業務の中で意識して行動することが、異物混入や衛生事故の防止につながります。
従業員教育が重要な理由
ペストコントロールの多くは、日常のちょっとした気配りや作業の積み重ねによって成り立っています。
たとえば、ドアや窓をきちんと閉める、床や排水溝の汚れを見逃さずに掃除する、原材料や製品を正しく保管する――こうした基本的な行動が、害虫やネズミの侵入・発生を防ぐ大きな力になります。
しかし、これらの行動も「なぜ必要なのか」「どんなリスクがあるのか」を知らなければ、ついおろそかになってしまいがちです。
従業員教育を通じて、ペストコントロールの目的や具体的な対策方法をしっかりと伝えることが重要です。
従業員教育のポイント
- ペストコントロールの基礎知識
害虫やネズミが食品工場にもたらすリスクや、どのような経路で侵入してくるのかを分かりやすく説明します。 - 日常業務で気をつけること
清掃のポイント、ゴミや残渣の正しい処理方法、設備の点検方法など、現場で実践できる具体的な行動を示します。 - 異常を見つけたときの対応
害虫やその痕跡を発見した場合の報告方法や初期対応の手順を明確にします。 - 定期的な振り返りと情報共有
定期的に教育やミーティングを行い、現場での気づきや改善点を共有しましょう。
従業員教育は社内で完結することもできますが、ペストコントロールの業者に講義をしてもらうのもおすすめです。
製造現場では気づかなかった部分を指摘してもらったり、清掃や修繕が怠っているところを見つけてもらったりしてもらえるので、従業員の衛生管理意識の向上に繋がります。
まとめ
ペストコントロールとは、専門の業者が有害生物を薬剤散布して駆除することと思われがちですが、それは間違いです。
なぜなら、薬剤による害虫駆除だけでは、一定期間はペストを排除することができますが、時間が経てばまた同じようにペストの侵入を許してしまうからです。
まとめ
- ペストコントロールとは有害生物を人体への影響ないレベルまで減らすこと
- ペストコントロールは専門業者の薬剤散布ではない
- ペストコントロールを社内で実施する際には1人に任せない
ペストを完全にゼロにすることは難しいですが、人体に影響のない範囲まで減らすことはできます。
そのためには、食品事業所内でチームを作り、対処法を考えトライ&エラーを繰り返しながら有害生物を減らしていきましょう。
正しいペストコントロールをすることは、大変ですがこれもお客様へ安全・安心な商品をお届けするために必要なこと。
食品事業所全体で取り組み、ペストを侵入・発生させない環境づくりにつとめましょう。

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