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寄生虫による食中毒とは?魚介類に潜む代表的な2つの食中毒と対策を紹介

寄生虫による食中毒とは?魚介類に潜む代表的な2つの食中毒と対策を紹介

食中毒菌

食中毒菌衛生管理

寄生虫と聞くと「怖い、気持ち悪い」「体内に入ったら食いつくされるのでは…」と不安になる人も多いかと思います。

しかし、寄生虫は自然下ではごく普通に存在しており、気づかずに寄生虫がいる魚介類を喫食しても多くの場合は、問題がありません。

見た目が気持ち悪いことから、魚屋では目につく寄生虫を除去してから店頭に並べますが、目に見えない寄生虫も多いため、完全除去は不可能です。

また一部の寄生虫は、ときに食中毒のような症状を引き起こしますが、これは何も処理をせずに生食で喫食したときに起きます。

十分な加熱処理をしたり、十分冷凍した後に解凍し喫食することで食中毒を防止することができます。

ここからは、寄生虫食中毒の原因となる2つの寄生虫についてご紹介します。

食中毒のタイプ

寄生虫食中毒を解説する前に、まずは食中毒のタイプを見てみましょう。

タイプ サブタイプ 主な原因菌 代表的な症状 潜伏期間
細菌性食中毒 感染型 サルモネラ、カンピロバクター、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌 下痢、腹痛、発熱 6時間~3日
毒素型 黄色ブドウ球菌、セレウス菌、ボツリヌス菌 嘔吐、下痢(ボツリヌス菌は神経症状) 1~6時間(ボツリヌスは12~36時間)
ウイルス性食中毒 - ノロウイルス、A型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス 嘔吐、下痢、発熱) 24~48時間(ノロウイルス)
寄生虫による食中毒 - アニサキス、クドア・セプテンプンクタータ、サルコシスティス・フェアリー 嘔吐、下痢、腹痛 4~8時間(クドア)

例えば、冬に猛威をふるうノロウイルス食中毒は、ウイルス性食中毒と呼ばれるものです。一方で、サルモネラやカンピロバクターは、人から人へ感染する細菌性食中毒。

黄色ブドウ球菌やボツリヌス菌は、菌が増殖するときに排出される毒素によって発症する毒素型の細菌性食中毒になります。

キノコ毒やふぐ毒などは、自然毒による食中毒に分類されます。そして、今回紹介するのは、寄生虫による食中毒です。

寄生虫による食中毒は年間通して多く発生しています。

魚介類に潜む寄生虫の特徴

寄生虫の特徴と対策を知っておけば、消費者に安全な商品を提供できるので、確認しておきましょう。

アニサキス症

アニサキス症は、生の魚介類に潜むアニサキスという寄生虫を摂取することで発症する食中毒です。

アニサキスは、人体内では長く生存できず、通常1週間程度で自然に死滅します。

アニサキスに寄生された魚介類を摂取しても、多くの場合無症状か軽い腹痛程度で済むため、自然に回復します。

しかし、時にアニサキスが胃や庁の壁に突き刺さり、アレルギー反応を起こすことがあるため注意が必要です。

これがアニサキス症で、激しい腹痛や嘔吐などの症状が現れます。

重症の場合は医療機関での治療が必要です。内視鏡検査でアニサキスを除去したり、薬物療法を行ったりすることで症状を緩和できます。

アニサキスアレルギー

アニサキスアレルギーは、一般的に知られているアニサキス症とは異なります。

アニサキスアレルギーになると、魚介類を摂取してから数時間以内に蕁麻疹などのアレルギー反応が表れます。

このアレルギーの注目すべき点は、生きたアニサキスだけでなく、死滅したアニサキスを摂取した場合やアニサキスがいた痕跡があった場所でも反応が起こる可能性があることです。

加熱調理された魚介類でも症状が表われる可能性があるため、より広範囲な注意が必要となります。

アニサキス症の既往歴がある人は、アニサキスアレルギーを発症するリスクが高いため注意が必要です。

そのため、魚介類を摂取した後に蕁麻疹などの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。

アニサキスが寄生しやすい魚介類

アニサキスは元々クジラやイルカの胃の中にいる寄生虫です。

クジラやイルカの体内にアニサキスが寄生すると、糞にアニサキスの卵が混じります。 その結果、クジラやイルカの排泄で、海中にアニサキスの卵が浮遊することになるのです。

オキアミが海中に漂うプランクトンとともにアニサキスの卵を食すと、オキアミはアニサキスの初期の宿主になります。

よって、オキアミなどを餌とする魚介類には、アニサキスが寄生している可能性があります。

その中でも、以下の魚介類はアニサキスが寄生していることが多いと言われているので注意が必要です。

アニサキスが寄生しやすい魚介類

  • サバ
  • アジ
  • サンマ
  • カツオ
  • イワシ
  • サケ

一方で、淡水魚や淡水のエビ・カニなどの甲殻類には、アニサキスは存在しません。

また、生魚を餌としていない養殖魚もアニサキスに寄生しにくいと言われています。

しかし、養殖魚でも網の隙間からアニサキスに寄生した小魚が混入し、それを食してしまうとアニサキスが寄生してしまう恐れがあります。

過去には、養殖魚を生食してアニサキス症に感染した事故事例もありますので、養殖魚だからと言って安心はできません。

アニサキス症については、以下の記事でも詳しく解説しているため、合わせてご覧ください。

クドア・セプテンプンクタータ

クドア・セプテンプンクタータとは、主にヒラメにいる寄生虫です。

他の魚介類での報告はほとんどありません。

目視で確認できるアニサキスとは異なり、クドア・セプテンプンクタータのサイズはわずか0.01ミリ。肉眼で見ることは不可能です。

また、寄生されたヒラメも無症状で他のヒラメと見た目や新鮮さが変わらないため、目視での判別はできません。

クドア・セプテンプンクタータは、粘状胞子虫の一種で生きた魚の体内でしか増殖できないという特徴を持っています。

そのため、水揚げ後の魚の体内で増殖することはありません。

顕微鏡で確認すると、花びら状の特徴的な形をしています。

クドア・セプテンプンクタータ

出典:クドアによる食中毒について│厚生労働省

人から人への感染はなく、細菌性やウイルス性食中毒と異なり腸管内で増えることもありません。

クドア・セプテンプンクタータ食中毒の症状

クドア・セプテンプンクタータ食中毒は、寄生している生のヒラメを食すことで発生する食中毒です。

クドア・セプテンプンクタータ食中毒になると、食後4~8時間程度で下痢、嘔吐、胃部の不快感などの症状が現れます。

なお、症状は一過性で自然寛解し、これまでのところ重症化した症例は報告されていません。

最新の研究によると、クドア・セプテンプンクタータ食中毒は、生きた状態の多数のクドア(約1000万個)を摂取した場合に発症するのではないかと推測されています。

生きた魚介類の体内でしか増殖できないため、水揚げ後のヒラメの体内にあるクドア・セプテンプンクタータは増殖しません。

また現在のところ、人から人への感染は確認されていないのも特徴の1つです。

魚介類に潜む寄生虫の食中毒を防ぐには?

アニサキスやクドア・セプテンプンクタータなど魚介類に潜む寄生虫を完全に除去することは難しいでしょう。

そのため「魚を食べるのが怖い」と思う人もいるかもしれません。

しかしながら、魚介類に寄生虫が付着していることは自然界ではごく普通のことで、生きたまま喫食しても多くの場合無害です。

また加熱調理や冷凍処理をすることで、食中毒を防げます。

ここからは、魚介類に潜む寄生虫の食中毒を防ぐ対策を解説します。

冷凍による無力化

アニサキスとクドア・セプテンプンクタータは、冷凍によって無効化されます。

低温により寄生虫のたんぱく質の変性や酵素活性の停止が起き、生命活動が不可能になるからです。

アニサキスとセプテンプンクタータが無効化する冷凍条件は次の通りです。

  • アニサキス…マイナス20℃で24時間以上または、マイナス35℃で20時間
  • セプテンプンクタータ…マイナス20℃で4時間以上

これらの条件を満たすことで、寄生虫を確実に無効化し、食中毒を防ぐことができます。

しかしながら、冷凍してから解凍すると、ドリップの流出や退色、食感の軟化など魚の品質に影響が出るリスクが高いため注意が必要です。

品質低下を最小限に抑えるため、近年では急速冷凍技術の開発が勧められています。

加熱処理による無効化

アニサキスとクドア・セプテンプンクタータは、加熱処理によって無効化されます。

加熱により寄生虫のたんぱく質を変性させ、確実に死滅させることが可能です。

アニサキスとクドア・セプテンプンクタータが死滅する加熱条件は次の通りです。

  • アニサキス…60℃で1分以上の加熱または70℃以上の加熱
  • クドア・セプテンプンクタータ…中心温度75℃で5分間以上の加熱

魚をどう調理して食べるかによって、加熱処理するか冷凍処理するかを決めるとよいでしょう。

新鮮なうちに処理する

魚介類は、水揚げされてしばらくすると内臓に寄生しているアニサキス幼虫が筋肉へ移動するため、鮮度が高い状態で処理することが重要です。

魚を仕入れたら、できるだけ早く内臓を取り除きましょう。

内臓に寄生しているアニサキス幼虫を取り除くことで、筋肉への移動を防げます。

寄生虫を除去する新しい対策

寄生虫を除去するには冷凍・加熱処理が基本ですが、アニサキスは目視での除去も行われています。

そこで、最近注目されているのが津本式ライトです。

このライトはアニサキスを最も発見しやすい365㎜の波長を出す強力なブラックライトで、魚の身の奥に付着しているアニサキスも発見できます。

その他、まだ実用化されていませんが、熊本大学ではアニサキスを強力なパルス電流で感電死させる処理方法も研究されています。

将来、アニサキス処理方法の選択肢は増え、より安心・安全な魚介類を消費者に提供できる日が来るでしょう。

まとめ

寄生虫による食中毒は、注意が必要です。

魚介類に関連する主な寄生虫食中毒として、アニサキス症とクドア・セプテンプンクタータ食中毒があります。

アニサキスはサバやサケなどに寄生し、生食で激しい腹痛や嘔吐を引き起こす可能性があります。

クドア・セプテンプンクタータはヒラメに寄生し、生食で下痢や嘔吐を引き起こします。

これら寄生虫食中毒は、病院で診断されたら厚生労働省に届け出る必要がありますが、現在のところ年間数件しか発生していません。

しかし、生食で魚を食べる文化が浸透している日本では、寄生中食中毒を防ぐ対策をしたうえで、消費者に商品を提供する必要があります。

まとめ

  • 寄生虫は冷凍処理や加熱処理をすることで殺菌できる
  • ドア・セプテンプンクタータは小さいため目視での除去は不可能

寄生虫は天然の魚に普通にいるものなので、完全に除去することは難しいでしょう。

その認識の上で、冷凍処理や加熱処理など可能な範囲の対策を継続していくことが大事です。

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【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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