塩漬けはなぜ腐らない?砂糖漬けとの違いや防腐に必要な塩分濃度を解説
塩は私たちにとって欠かせない調味料です。
塩は私たちの生命維持に必要なミネラルを補給するのに必要だからです。
また塩は食品の保存性を高める効果もあります。
この記事では、野菜や魚、肉などの塩漬けはなぜ腐らないのか、砂糖漬けとの違いや防腐に必要な塩分濃度をわかりやすく解説します。
塩の防腐以外の効果についてもまとめましたので、最後までご覧ください。
塩漬けはなぜ腐らない?
塩は食品を保存するときの必須アイテムといっても過言ではありません。
日本では、塩を使った食品の保存を古くからおこなっていました。
塩で食品の保存ができる理由は、塩の主成分である塩化ナトリウムに浸透・脱水作用があるからです。
食品に含まれる水分は、2種類に分けられます。
1つはたんぱく質などの食品成分と結合しており、切り離すことができない「結合水」で、もう1つが食品中を自由に動き回れる「自由水」です。
自由水は、食中毒の原因となる微生物が利用できる水で食品中に自由水が多ければ多いほど腐敗速度が早まります。
塩化ナトリウムには、食品中の自由水を引き出す作用があり、これが食品の保存に役立ちます。
塩の脱水作用のメカニズム
食品に塩をかけると水分(自由水)が出るのは、食品と塩との浸透圧差により起こる現象です。
?浸透圧とは?
濃度の異なる2種類の液体を隣り合わせに置くと、互いに同じ濃度になろうとすること。同じ濃度になろうとする力を浸透圧と言います。
野菜の塩漬けを例に挙げて、浸透圧と脱水作用のメカニズムをみてみましょう。
浸透圧と脱水作用のメカニズム
- 野菜に塩をまぶす
- 浸透圧により野菜の細胞内から水が出る
- 野菜の細胞内に塩が染み込む
- 野菜の細胞が原形質分離を起こす
- 野菜の細胞内の「自由水」がなくなり微生物が増殖できなくなる
?原形質分離とは?
原形質分離とは、細胞内の水分が外に排出されることにより、細胞内の原形質と呼ばれる部分が収縮し、細胞壁から離れる現象のことです。
食品を腐敗させる原因となる微生物は、食品に含まれるたんぱく質などの栄養と水(自由水)を使って増殖します。
しかし、塩漬けにすると微生物が利用できる水分の割合が少なくなります。
その結果、微生物が生存できず食品の保存性が高まるのです。
一方で、塩分を気にして塩の量を少なくしてしまうと、食品の細胞内に水分が残ってしまうため、塩漬けにしても腐敗が進んでしまいます。
食品の保存性を高めるのに必要な塩分濃度
塩で食品の保存性を高めるために必要な塩分濃度は、食品によって異なります。
身近な調味料や保存食の塩分濃度は次の通りです。
- 味噌…13%
- 醤油…14%
- 梅干し…22%
これらの結果から、食品の防腐効果を高めるには約15%の塩分濃度が必要であると言えるでしょう。
塩分控え目の塩漬けは冷蔵保存必須
腐敗を促す多くの微生物は、食品中の塩分濃度が5~10%になると増殖できなくなります。
しかしながら、塩分濃度10%未満の塩分控え目の食品は、腐敗菌を完全に抑えることができません。
常温で保存してしまうと、腐敗菌が増殖してしまう恐れがあります。
塩分濃度10%未満の食品は、冷蔵保存が必要なので覚えておきましょう。
食品にもよりますが、常温で塩漬けの食品を保存したいのであれば、塩分濃度を15%以上にする必要があります。
塩と砂糖の比較
砂糖も私たちの生活に欠かせない調味料の1つです。
砂糖も塩と同じく、食品中の水分を引き出す脱水作用があり、微生物の増殖を防ぎます。
同じ作用と効果を持つ砂糖と塩ですが、次の3つが大きく異なります。
- 分子の大きさ
- 浸透にかかる時間
- 防腐に必要な濃度
それでは1つずつ詳しく見ていきましょう。
分子の大きさ
砂糖(ショ糖)の分子は、塩(塩化ナトリウム・塩化物イオン)の分子と比べて6倍もの大きさがあります。
- 塩化ナトリウムの分子量…58.5g/mol
- ショ糖の分子量…342g/mol
同じ量の砂糖と塩を用意すると、塩の方がより多くの分子量を持つことになります。
浸透にかかる時間
塩は分子が小さいため、同じ添加量では砂糖よりも食材の細胞内に移動する作用が強くなり、短時間で浸透します。
防腐に必要な濃度
食品の防腐に必要な塩分濃度は15.6%以上です。一方、砂糖では58.4%以上にもなります。
砂糖を使った保存食の1つであるジャムの場合、濃度は70%にもなり、食材が埋まるほどの砂糖が必要です。
そのため、塩は砂糖よりも少ない添加量で食品の保存性を高められます。
防腐だけではない!塩の調味効果
塩の効能は、食品の保存性を高めるだけではありません。その他にもさまざまな調味効果があります。
ここからは、塩の防腐以外の効果を見ていきましょう。
甘味や旨味を引き立てる
塩には甘味や旨味を引き立てる効果があります。
塩に含まれるナトリウムが甘味と旨味を感じる受容体に作用するからです。
また、料理に塩を加えると塩に含まれるナトリウムイオンが、食材に残っている水分に引き付けられます。
その結果、香りの元となる分子が蒸発しやすくなるため、料理の風味が増します。
臭みけし
塩には魚や肉の臭みを消す効果があります。
魚や肉に塩をふってしばらく置くと、脱水作用により水分が出ます。
このとき、臭みの元となる成分も水分とともに排出されるからです。
排出された水分を洗い流す、またはふき取った後に調理をすると臭みのない魚や肉料理を楽しむことができます。
また肉や魚を塩によって脱水すると、うまみ成分であるアミノ酸が凝縮したり、魚や肉の身を締めたりできるため、美味しさが増します。
変色防止
塩には野菜や果物の変色を防ぐ効果があります。
塩に含まれるナトリウムイオンが、変色の原因である酸化酵素の働きを抑えるからです。
水1カップに塩を小さじ1/5程度を入れた塩水を作り、野菜や果物を漬けます。
塩の量が多過ぎると野菜や果物に塩が浸透してしまうため、ご注意ください。
減塩や塩分控え目の商品を開発するときの注意点
最近は、塩分控え目の商品開発が多くなっています。しかし、元々塩分濃度が高い商品の塩分を抑えるため、食中毒のリスクが高まります。
そのため、塩分濃度以外の手段でどのように微生物コントロールするのかを押さえておく必要があります。
塩分濃度以外の手段で微生物コントロールする方法
- 冷蔵保存をする
- pH調整をする
まとめ
野菜や魚、肉を塩漬けにすると塩が持つ浸透・脱水作用から食品内の水分を脱水し、微生物が増えるのに必要な水分を失くします。
そのため、塩を使うと食品の保存性を高めることができるのです。
まとめ
- 塩は砂糖よりも少ない濃度で微生物の増殖を防げる
- 塩は砂糖よりも短い時間で浸透・脱水する
- 食品の防腐効果を高めるには一定の塩分濃度が必要
ただ微生物の増殖を防ぐには、一定の塩分濃度が必要で濃度が足りず、温度管理を怠ると微生物の増殖を抑えられなくなるため注意が必要です。
減塩の塩漬けや梅干しなどの商品開発をするときには、塩分以外の方法で微生物コントロールをする必要があるため覚えておきましょう。
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