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卵から発生しやすいサルモネラ菌とは?症状から予防方法まで解説

卵から発生しやすいサルモネラ菌とは?症状から予防方法まで解説

食中毒菌食中毒対策

食中毒菌食中毒衛生管理

「卵からのサルモネラ菌食中毒を防ぐための対策を知りたい」
「入荷した卵が割れていたけど廃棄しなきゃだめ?」

サルモネラ菌食中毒といえば、卵を思い浮かべる人が多いかと思います。

1990年代、毎年のように1万人以上の感染者を出し、猛威を奮ったサルモネラ菌食中毒ですが、2000年代以降急激な減少を見せました。

サルモネラ菌食中毒を防ぐには、サルモネラ菌の流行した背景から正しい卵の取り扱い方法を知っておく必要があります。

今回は、サルモネラ菌の基礎知識や食中毒対策についてわかりやすく解説します。

この記事を読めば、卵を使用した安全な商品をお客様に提供できます。

卵から発生しやすいサルモネラ菌

卵から発生しやすいサルモネラ菌

サルモネラ菌は、さまざまな動物の腸内に生息している菌です。 一口にサルモネラ菌といっても、その数は血清型により2,000種類以上に分けられます。

そのうち日本で多く発生しているのは、サルモネラ・エンテリティディス、通称SE菌による食中毒です。

サルモネラ菌の1種であるSE菌による食中毒は、1980年代から欧米諸国で急増。

日本ではSE菌に汚染されたひな鶏の輸入により持ち込まれ、1989年以降にサルモネラ菌食中毒事故が急増しました。

その結果、1990年代後半には毎年10,000人以上の患者が報告され、そのうち1996年~2002年の間に12名の死亡例も報告されています。

サルモネラ菌は、他の食中毒菌と同じく一般的に75℃で1分以上の加熱で殺菌されます。

しかしサルモネラ菌は、乾燥した環境でも数週間、水の中だと数か月間も生存が可能な生命力の強い菌なので注意が必要です。

サルモネラ菌の症状

サルモネラ菌食中毒の症状はさまざまですが、最も多く見られるのは、急性胃腸炎です。 急性胃腸炎の主な症状は次の通りです。

サルモネラ菌食中毒の症状

  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢
  • 頭痛
  • 発熱

腹痛から始まることが多く、1日数回~数十回の下痢症状が3~4日持続します。 大人の場合、とくに特別な治療をしなくてもその後回復します。

しかし、免疫力の弱い子どもや高齢者の場合、次のような症状が表れ、重症化しやすいので注意が必要です。

!子どもや高齢化に表れやすい症状

  • 急性脱水症
  • 意識障害
  • 痙攣
  • 菌血症

サルモネラ菌は患者数に対して、死亡例が非常に少ない食中毒です。

2012年~2021年までの10年間の発症患者数6,379人の患者のうち、死亡例は1名となっています。

西暦食中毒事故数患者数死亡件数
2012年 40 670 -
2013年 34 861 -
2014年 35 440 -
2015年 6 226 -
2016年 31 704 -
2017年 35 1,183 -
2018年 18 640 -
2019年 21 476 -
2020年 33 861 -
2021年 8 318 1

参照:食中毒統計|厚生労働省

2021年5月に11年ぶりに名護市の特別養護老人ホームで、サルモネラ菌食中毒が発生し、1名が亡くなっています。

サルモネラ菌の潜伏期間

サルモネラ菌の潜伏期間は、8時間~48時間と比較的早く症状が表れます。

しかし、なかには感染後3~4日後に症状が表れることもあるので、注意が必要です。

サルモネラ菌の治療方法

サルモネラ菌食中毒の主な治療法は、発熱と下痢による脱水症状予防と胃や腸の痛みの緩和を中心とした対症療法です。

サルモネラ菌食中毒の患者さんのなかには、下痢や嘔吐による苦痛を少しでも緩和しようと市販の胃腸薬を口にする人もいますが、これは間違いです。

除菌を遅らせたり、腸の動きが悪くなったりしてしまうので、症状が長引く恐れがあります。

卵以外の感染源

日本で発生している、サルモネラ菌食中毒の多くはSEに汚染された鶏卵を食すことで発症します。

しかし、サルモネラ菌食中毒は、鶏卵だけが原因ではありません。

なぜなら、サルモネラ菌は自然界のあらゆるところに生息し、さまざまな動物の腸内で保菌しているからです。

鶏卵以外にも過去には、鶏肉や内臓肉、すっぽん・うなぎなどの淡水養殖魚介類などが原因でサルモネラ菌食中毒事故が発生しています。

またカメなどの爬虫類の糞尿を調査した結果、50%~80%の割合でサルモネラ菌を保菌しているという調査報告もあります。

近年ではペットとして飼われているカメや爬虫類から、サルモネラ菌食中毒に感染した事例もあるので注意が必要です。

ペットの世話の後は、必ず手を洗うよう徹底しましょう。

サルモネラ菌が卵から発生しやすい理由

サルモネラ菌が卵から発生しやすい理由

サルモネラ菌はさまざまな動物の腸内にある菌なので、卵特有の食中毒ではないはずです。

しかしながら、過去に起きた大規模なサルモネラ菌食中毒のほとんどが、生卵を含む卵の加工品が原因で発生しています。

なぜ、日本で発生するサルモネラ菌食中毒は、卵からの発症が多いのでしょうか。

卵を生食する習慣があるから

日本では卵かけご飯や月見うどん、親子丼など生卵や半熟卵をつかう料理がたくさんあります。

しかしながら、世界では生卵を食する習慣がほとんどなく、加熱調理して食べるのが一般的です。

そのため、諸外国で発生したサルモネラ菌集団食中毒の原因食品には、卵がほとんど含まれていません

代わりに鶏肉や感染者からの二次感染が原因として挙がっています。

一方、日本で発生したサルモネラ菌食中毒事故では鶏卵が原因物質として挙がっています。

卵は温度変化に弱いから

スーパーに行くと卵が常温で陳列されているのを目にすることがあります。

「卵を常温保存しても大丈夫なのかな…?」と思われる方もいるかと思いますが、ご安心ください。

卵の殻や卵白には、抗菌作用があり万が一、卵に菌が侵入しても増殖しない仕組みがあるのです。

【卵の抗菌作用】

卵の部位成分
卵殻 気体は透過し細菌は通さない役割を果たす、「クチクラ」という糖タンパク質がある
卵殻膜 外卵殻膜と内卵殻膜の二層構造。卵内部の温度が下がったり、古くなったりするとスキマを広げて調節し、菌の侵入を防ぐ
卵白 「リゾチーム」という殺菌作用のある酵素が含まれている。

卵の部位ごとにある抗菌作用から、卵は殻が割れていない状態であれば常温でも美味しく食することができます。

ただ、卵は温度変化が大きいと品質が低下する恐れがあります。

また卵はどんなに丁寧に扱っても、見えないヒビや割れができてしまうことも。

卵にひびや割れが生じると、温度変化による調節ができなくなり、サルモネラ菌だけでなく食中毒菌も増えてしまう恐れがあり大変危険です。

卵の品質を守り、なおかつ割れやヒビが生じてもできるだけ菌を抑制するには、冷蔵庫内に保管するのがおすすめです

近年では卵の搬出からスーパーの陳列まで、低温で運ぶことも増えました。 そのため、スーパーの冷蔵庫で販売される卵も増えてきています。

卵からのサルモネラ菌食中毒対策

卵からのサルモネラ菌食中毒対策

1989年以降、卵が原因によるサルモネラ菌食中毒は、全国各地で多発し、多くの患者が病院へ搬送されました。

しかし2000年以降、鶏卵による食中毒発生数は大幅に減少しました。

それは、1998年に改正された食品衛生法施行規制による法整備と鶏卵製造者の企業努力によるものです。

とはいえ、市販の卵に問題がなくても、調理前の保存や卵を扱う調理器具の管理によって、サルモネラ菌食中毒が発生するリスクは高まります。

ここからは食品工場および飲食店で気を付けたい卵からのサルモネラ菌食中毒対策を5つご紹介します。

対策1.賞味期限を過ぎた卵は生食しない

1989年以降に日本でサルモネラ菌食中毒が急増したことから、1998年に食品衛生法施行規制が改定され、鶏卵の賞味期限の表示が義務化されました。

賞味期限とは、卵を「生食」で美味しく食べられる期限を意味します。

実は市販の卵からサルモネラ菌が検出されるのは、卵1万個あたりにわずか3個というごく少ない割合です。

なぜなら、日本で出荷される鶏卵は、GPセンターなどで厳しい品質チェックに通過したもののみ出荷されるから。

卵を扱う企業が鶏卵の衛生管理を徹底させているからこそ、私たちは生卵を安心して食することができるのです。

また万が一、汚染された卵だとしても新鮮な卵の場合、卵白内にわずか数個~数十個と少ないため、賞味期限内であれば健康な大人が食べる分には問題のない菌数となっています。

しかし、賞味期限が過ぎた古くなった卵は、黄身を保護する王卵膜の強度が下がり、黄身の成分が卵白に移動します。

黄身に含まれる鉄は、卵白内のサルモネラ菌を増殖させる成分。

鉄の成分が卵白内に浸透すると、少量だったサルモネラ菌が一気に増殖し、食中毒を引き起こしてしまいます。

このことから、生卵や半熟卵を食べるときには、賞味期限内の卵を使用しましょう。

また、賞味期限を過ぎた卵は、十分加熱してから食べます。

なおサルモネラ菌を殺菌するには、一般的に75℃で1分以上の加熱が必要です。

しかし、商品によっては高温加熱すると品質が変わってしまうこともあるでしょう。 その場合は、75℃以下で加熱時間を長めにするなどの代替特性を利用します。

しかし、代替特性で75℃1分以上加熱したときとおなじような減菌または殺菌できるか検証する必要があります。

対策2.卵は購入したらすぐに冷蔵保存

卵を常温で長時間放置しておくと、卵に付着したサルモネラ菌が増えてしまう恐れがあります。

サルモネラ菌は、10℃以下の環境下で増殖スピードが弱まりますので、購入したらすぐに冷蔵庫に入れましょう

ただ、冷蔵庫に入れたからと言って安心してはいけません。 卵を頻繁に冷蔵庫から出し入れすると、卵の温度が変化し傷みやすくなるので、サルモネラ菌の増殖を促してしまいます。

卵を安全に保管する方法は次のとおりです。

卵を安全に保管する方法

  • 卵はパックごと冷蔵庫の棚に置く
  • 卵はとがった部分を下にして保存

また、卵を割った後に保管するのは厳禁です。

割った後の卵はサルモネラ菌が急激に増殖するため、食中毒の発症リスクが高くなります。

対策3.割れた卵やひび割れた卵はすぐに加熱調理

産卵時に付着した糞便が殻に付着し、サルモネラ菌に汚染されることもあります。

この場合、卵の殻にサルモネラ菌が付着しているので、卵の中身には問題ありません。 しかし、卵の殻が割れている場合、殻に付着したサルモネラ菌が卵黄に付着し、増殖してしまいます。

卵が割れてすぐであれば、加熱調理して食べられるので問題ありません。 しかし、卵がいつひび割れたのかわからない場合は、卵の中でサルモネラ菌が増殖している可能性があります。

時間が経ったことにより他の菌も増殖している可能性があるので、この場合はすぐに捨てましょう。

また卵の殻にサルモネラ菌が付着している可能性があるからといって、調理前に卵を洗浄してはいけません。

なぜなら、卵を洗うことにより殻にある見えないキズから雑菌やサルモネラ菌が卵に入り込み、かえって食中毒のリスクを高める恐れがあるからです。

また、市販されている卵は採卵後に、洗浄・殺菌して梱包されるので殻にサルモネラ菌が付着していることは稀です。

ちなみに卵および卵の殻にサルモネラ菌が付着している割合は、1万個あたり3個。つまり0.003%と言われています。

対策4.調理器具は洗浄後に熱湯殺菌

生卵を割ったボウルや箸、卵を扱った調理器具や食器は使用後、よく洗浄してから熱湯消毒をしましょう

サルモネラ菌は熱には弱いけれども、乾燥に強い特性があるので、熱湯消毒が不十分だと調理器具に付着したサルモネラ菌が増殖してしまう恐れがあります。

過去には、学校給食施設で500名超の生徒・教師が発症する大規模なサルモネラ菌食中毒事故が発生しています。

この事故でサルモネラ菌が検出されたのは、卵不使用のピーナツ和えでした。

保健所が詳しく調査したところ、学校給食施設で2日前に調理した卵スープの調理器具の熱湯消毒が不十分だったことで、サルモネラ菌が調理器具内で増殖。

同じ調理器具で作ったピーナツ合えの調味液がサルモネラ菌に二次汚染し、大規模な食中毒事故が起きてしまったようです。

幸い、発症した生徒・教師のほとんどは軽症で済み、死亡事故には至りませんでした。

このようにサルモネラ菌食中毒は、卵の扱いだけでなく調理器具の扱いにも十分気を付ける必要があります。

対策5.ハイリスク集団に該当する人は加熱調理必須

サルモネラ菌による食中毒事故で、亡くなる人は非常に少ないですが、過去には9歳の女児が卵かけご飯を食べて亡くなるという痛ましい事故が起きています。

サルモネラ菌は、少ない菌量でも発症するという調査結果も出ています。

そのため、子ども含めハイリスク集団の対象者が生卵を食するのは大変危険です。

たとえ賞味期限内の卵であっても、ハイリスク集団に該当する人は、必ず加熱調理したものを食べるようにしましょう。

まとめ:卵からのサルモネラ菌食中毒は防げる

卵からのサルモネラ菌食中毒は防げる

生卵や半熟卵を食べる習慣がある日本では、卵が原因によるサルモネラ菌の食中毒事故が発生しやすい傾向があります。

サルモネラ菌食中毒は多くの場合、軽症で済みますが、過去には子どもが死亡する痛ましい食中毒事故も発生しています。

まとめ

  1. サルモネラ菌は主に動物の腸内に生息する菌
  2. サルモネラ菌は75℃1分以上の加熱で殺菌できる
  3. 法整備と企業努力により卵が原因の食中毒は減少

2000年以降、法整備と企業努力により卵からのサルモネラ菌食中毒は1990年代に比べ大幅に減少しました。

しかし、サルモネラ菌の原因は卵だけではありません。 鶏肉や内臓肉、淡水養殖魚介類からも発生しますので、食材の温度管理と調理器具の洗浄殺菌を徹底しましょう。

さらに近年では、卵以外にも鶏肉やペットからのサルモネラ菌食中毒発生事例もありますので、この記事を確認し食中毒を防ぎましょう。

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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