「魚を食べたら、蕁麻疹がでてしまった…」
「アレルギー体質の人が魚を食べるとヒスタミン食中毒になりやすいって本当?」
DHAや必須アミノ酸を多く含む、魚は大人だけでなく子どもにも積極的に摂取してもらいたい食品です。
しかしながら、毎年多くの保育園や学校給食施設で、ヒスタミン食中毒事故が発生しています。
ヒスタミン食中毒の症状はほとんどが軽症ですが、それでもじんましんや発熱などの症状が出ると辛いものです。
ヒスタミン食中毒を防ぐには、ヒスチジンがヒスタミンへ分解されるメカニズムから正しい鮮魚の取扱い方法を知っておく必要があります。
今回は、ヒスタミン食中毒の基礎知識や対策についてわかりやすく解説します。
この記事を読めば、魚を使った安全な商品をお客様に提供できますよ。
ヒスタミン食中毒とは?
ヒスタミン食中毒とは、ヒスタミンを多く含む赤身魚及びその加工品を食べることで発症します。
ヒスタミンは赤身魚に元々ある毒素ではありません。
赤身魚に多く含まれるヒスチジンというアミノ酸が、海水中や内臓内にあるモルガン菌などのヒスタミン産生菌により分解されてヒスタミンがつくられるのです。
ヒスタミンは熱に非常に強く、100℃で3時間加熱しても分解されません。
さらにヒスタミンが増殖した食品は、見た目も味も変わりません。
そのため、ヒスタミンが一度生成されてしまうと、食中毒を防ぐのは困難です。
ヒスタミン食中毒になると原因食品を食べた直後から60分以内に次のような症状が表れます。
ヒスタミン食中毒の症状
- 口のまわりや耳たぶの紅潮
- 頭痛
- じんましん
- 発熱
重症化することはほとんどなく、日本での死亡例はありません。
アレルギーと似た症状が出るので、ヒスタミン食中毒は別名【アレルギー様食中毒】とも呼ばれています。
そのため、アレルギー体質の人はヒスタミン食中毒になりやすいのではないかと思われがちですがそれは間違い。
ヒスタミン食中毒はヒスタミンが増殖した赤身魚を摂取したことで起こるので、アレルギー体質とは関係ありません。
アレルギー体質であっても、そうでなくても誰にでも起こる可能性があります。
なお花粉症や食物アレルギーの場合、体内にアレルゲンが入ると、免疫反応が起こり、体内からヒスタミンが分泌されるためアレルギー症状が出ます。
ヒスタミン食中毒の症状
ヒスタミン食中毒の症状は、多くの場合軽症で、24時間以内には快方に向かいます。
水分を摂って安静にするとよいでしょう。
医療機関では、抗ヒスタミン剤の投与で症状を緩和させる対症療法が行われます。
ヒスタミン食中毒の発生状況
2012年~2021年の過去10年間のヒスタミン食中毒の発生状況は次の通りです。 ヒスタミン食中毒発生事例数
西暦 | 食中毒事故数 | 患者数 |
2012年 | 9 | 113 |
2013年 | 7 | 190 |
2014年 | 7 | 61 |
2015年 | 13 | 405 |
2016年 | 15 | 283 |
2017年 | 8 | 74 |
2018年 | 20 | 355 |
2019年 | 8 | 228 |
2020年 | 13 | 219 |
2021年 | 4 | 81 |
表をみてもわかるとおり、食中毒発生件数に対して患者数が多いのが見て取れます。
これは、ヒスタミン食中毒が、保育園や学校などの給食施設で大規模発生しているからです。
2006年から2015年に発生した食中毒患者の年齢分布をまとめたグラフをみてみると、0歳~14歳までの患者が全体の6割を占めています。
最近では、2021年10月に東京都武蔵村山市の保育園で園児17名が発症するヒスタミン食中毒事故が発生。
給食で提供されたさんまの梅味みそ焼きが原因で、ヒスタミン検査を実施したところ、100gあたり120mgのヒスタミンが検出されました。
国の基準が100gあたり100mg以内なので、許容範囲を超えていることが確認されています。
なお、発症した園児はいずれも軽症で、1名のみ医療機関を受診したとのことです。
ヒスタミン食中毒の原因食品
ヒスタミン食中毒は、「ヒスチジン」というアミノ酸が、ヒスタミンに分解されて増殖することで発症します。
そのため、ヒスチジンを多く含む、次の赤身魚および加工品がヒスタミン食中毒の原因食品にあたります。
ヒスタミン食中毒の原因食品
- マグロ
- ブリ
- サンマ
- サバ
- イワシ
なお、ヒスチジンは白身魚にも含まれています。
しかし赤身魚に比べて量が少ないので、たとえヒスチジンがヒスタミンに置き換わったとしても、ヒスタミン食中毒を発症するまでには至らないのがほとんどです。
ただ、過去には白身魚を食したことによるヒスタミン食中毒も発生しています。
白身魚だからといって安心せず、鮮魚を取扱うときには、搬入・保管・調理時に十分気を付ける必要があります。
《赤身魚と白身魚のヒスチジン含有量》
魚の種類 | 100gあたりのヒスチジン含有量 |
白身魚 | 数mg~数10mg |
赤身魚 | 700mg~1,800mg |
画像
ヒスタミンは、100mg以上体内に入ると食中毒症状が表れるとされています。
またヒスタミンは赤身魚や加工品以外だけでなく、発酵食品(味噌、醤油、チーズ、ワイン等)にも含まれているので、調理する際には十分気を付けましょう。
ヒスタミンの特徴
ヒスタミンの特徴は次のとおりです。
ヒスタミンの特徴
- 100℃以上3時間加熱しても分解されない
- 食品にヒスタミンが増殖しても味やにおいに変化なし
- 10℃の低温でも増殖することがある
ノロウイルスや黄色ブドウ球菌など食中毒の原因菌の多くは、加熱調理をすることで滅菌や殺菌できます。
しかし、ヒスタミンは食中毒菌ではなく、ヒスチジンがヒスタミン産生菌によって分解されてできた成分です。
よって、ヒスタミンは一度増殖してしまうと、減少させることはできないので、「増やさない」ことが重要です。
ヒスチジンを含む鮮魚は避けるべき?
ヒスタミン食中毒は、保育園や学校給食施設で大規模発生しています。
そのため、子どもには魚は食べさせない方がよいと思う方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
なぜなら、ヒスタミンを生成するアミノ酸の1つであるヒスチジンは、子どもの体内で作れない成分だから。
ヒスチジンを摂り入れると、神経系に働き次の効果が期待できます。
ヒスタミンの特徴は次のとおりです。
ヒスチジンの効果
- 脂肪燃焼をサポート
- 集中力・記憶力を高める
- 抗酸化作用で健康促進
効果を見ても分かるように、ヒスチジンは成長期の子どもに欠かせない成分となっています。
よって、ヒスチジンを避けるのではなく、正しい知識と方法を知り、安全に喫食しましょう。
ヒスタミン食中毒を予防するには?
ヒスタミン食中毒を予防するには、鮮魚に含まれるヒスチジンをヒスタミンに分解させないようにする必要があります。
そのためには、ヒスチジンをヒスタミンに分解する産生菌の活性を抑えることが有効です。
結論から言いますと、ヒスタミン食中毒を防ぐには3つのポイントがあります。
!ヒスタミン食中毒を防ぐ3つのポイント
- 10℃以下の低温管理
- 冷凍の場合は常温での解凍をしない
- 常温や冷蔵の状態で長時間放置しない
ここからは、鮮魚や魚の加工品の仕入れから喫食までの流れでヒスタミン食中毒を防ぐポイントを詳しく解説します。
鮮魚の仕入れ
ヒスチジンをヒスタミンに分解する産生菌は、20℃~35℃で活性化し、ヒスタミンを増殖させることがわかっています。
10℃以下になるとヒスタミン産生菌は動きが弱まり、ヒスタミンの分解速度が弱まります。
鮮魚を受け入れるときには、魚が氷中または氷水の中で保管されているか確認するようにしましょう。
その他、次の3つについてもチェックが必要です。
- 漁獲されてから仕入れまで低温管理が徹底されているか
- 仕入れた鮮魚の体表温度が10℃を超えていないか
- 鮮魚の外観や臭いをチェックし鮮度の低下はないか
3つを確認した上で、基準を満たしていない鮮魚がある場合は、ヒスタミンが増殖している恐れがあるので破棄しましょう。
なお、輸入の冷凍魚を仕入れた場合、漁獲から冷凍まで低温管理が徹底されたかどうか確認することが困難です。
そのため、輸入された冷凍魚には、輸出国がヒスタミンの検査証明書を添付するという決まりがあります。
冷凍魚を輸入するときには、検査証明書が添付されているかの確認を怠らないようにしましょう。
鮮魚の保存
ヒスタミン産生菌は、10℃以下で活性が弱まりますが、菌のなかには10℃以下でもゆるやかにヒスタミンを生成するものもあります。
仕入れたらすぐに冷蔵庫または冷凍庫で保存するのはもちろんのこと、冷蔵庫内の温度が10℃以下に保たれているか、随時確認しましょう。
またヒスタミン産生菌はエラや内臓に多いので、保管前に除去しておきます。
冷蔵庫内の温度を人の目で常に監視するのは難しいものです。冷蔵庫内の温度チェック管理は、Iotに任せましょう。

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鮮魚の調理・加工
低温管理で鮮魚を仕入れたとしても、調理や加工方法を誤るとヒスタミンを増殖させてしまう恐れがあります。
鮮魚を調理・加工するときには次の3つに注意しましょう。
- 調理場の温度はできるだけ20℃以下に保つ
- 鮮度が低下していないか確認する
- 鮮魚を常温で長時間放置しない
ヒスタミンは熱に非常に強い性質を持っていますが、ヒスタミン産生菌は加熱調理により動きが停止します。
鮮魚を冷蔵庫から出したら、速やかに調理してヒスタミン生成を抑えましょう。
調理や加工によっては、仕入れた鮮魚を調味液にしばらく浸け置くこともあるかと思います。
調味液に浸け置く場合は、次のことに注意しましょう。
- 調味液の温度・時間がヒスタミンの増殖を促さないか事前に確認
- 調味液によって鮮魚の温度が5度以上にならないようにする
- 調味液に浸ける直前まで鮮魚は冷蔵庫内で保管
調味液に浸すときも常温に置くとヒスタミンの増殖を促してしまうので、冷蔵庫内で浸すようにします。
冷凍魚の調理
冷凍魚を解凍し、調理する場合には次の3つに気を付けましょう。
- 冷蔵庫内で解凍し、常温解凍は厳禁
- 使う分のみ解凍し、解凍後はすみやかに加熱調理
- 解凍したものを再び冷蔵・冷凍保存しない
ヒスタミンは冷凍されている状態では増加しません。しかし、解凍後はヒスタミン産生菌が活性化し、ヒスタミンが増加する恐れがあります。
そのため、仕入れ時に既に解凍が進んでいる魚がある場合は、ヒスタミンが増殖している可能性があるので、破棄しましょう。
鮮魚の喫食
ヒスタミン産生菌は10℃以下になると分解を緩めますが、分解が停止するわけではありません。
そのため、赤身魚の刺身や干し物を長時間冷蔵保存していると、ヒスタミンが増殖してしまう恐れがあります。
赤身魚に限ったことではありませんが、調理後はすぐに喫食するようにしましょう。
また、ヒスタミンを高濃度に含んだ食品を口に含むと、舌先や唇にピリピリした刺激が伴うことがあります。
この場合、食してしまうとヒスタミン食中毒を発症するので、すみやかに廃棄しましょう。
まとめ
ヒスタミン食中毒は、赤身魚に多く含まれるヒスチジンがヒスタミンに分解することで発症します。
ヒスタミンは、熱に非常に強く加熱調理しても分解されません。
よって、ヒスタミン食中毒を防ぐには、魚に含まれるヒスチジンをヒスタミンに分解する産生菌をいかに抑制するかが重要になります。
まとめ
- ヒスタミンは熱に非常に強く増殖しても商品の味や見た目が変わらない
- ヒスタン食中毒はヒスチジンを多く含む魚を食することで発症しやすい
- ヒスタミン産生菌を抑えるには漁獲から調理まで徹底した温度管理が必要
ヒスタミン産生菌はエラや内臓に多いので、仕入れたらまずはすぐに下処理をしましょう。
そのうえで、仕入れ後も低温管理を徹底し、すみやかに調理することをおすすめします。
ヒスタミン食中毒事故の多くは子ども達が通う保育園や学校施設で発生しています。
子ども達に安全・安心な魚を食べてもらうためにも、調理者は魚の保存・調理方法を確認しましょう。

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