「ハイリスク集団ってどんな人たちのことをいうの?」
「ハイリスク集団へ食事や商品を提供するには何に気を付けるべき?」
高齢者や小さな子どもなど、抵抗力の弱い人たちを総称してハイリスク集団とよびます。
ハイリスク集団は、一般の消費者であれば問題のない食中毒菌の量でも、食中毒を発症してしまう恐れがあります。さらに重症化するリスクも高いので注意が必要です。
そのため、HACCPよりも厳しい衛生管理が必要になることもあります。
そこで今回は、HACCPにおけるハイリスク集団への対応やハイリスク集団への特別な対応の必要性について解説します。
HACCPにおけるハイリスク集団とは?
HACCPとは食品を安心・安全を届けるための衛生管理の手法として、2021年6月に完全義務化されました。
HACCPでは、安心・安全な食品を消費者に届けるために必要なものです。
そして、対象となる消費者は、健康な大人だけに限りません。
ハイリスク集団と呼ばれる、食品による健康被害を受けやすい人たちも対象に含まれています。
ハイリスク集団の対象者は次の通りです。
ハイリスク集団の対象者
- 病者(免疫系の疾患や食事制限のある疾患を抱える人)
- 高齢者
- 妊産婦
- 乳幼児や幼児
これらに該当する人は、健康的な大人であれば問題のない菌やウイルスの量でも深刻な健康被害を受ける可能性があります。
また、口にしてはいけない食材があったり、形状に気を付けたりするなど特別な対応も必要です。
HACCPにおけるハイリスク集団への対応
ハイリスク集団へ食事や商品を提供する施設では、通常の施設よりも徹底した衛生管理が必要です。
ここからは、HACCPにおけるハイリスク集団への対応を3つご紹介します。
対応1:第三者によるハイリスク集団施設への監視指導
ハイリスク集団に該当する人たちは、総じて抵抗力が弱く、食中毒や感染症にかかると重症化し、命の危機にさらされます。
そのため、ハイリスク集団施設の衛生管理は、通常の施設よりも厳しくする必要があります。
ハイリスク集団施設とは?
- 学校給食センター
- 学校の給食施設
- 病院
- 社会福祉施設など
しかしながら、施設内でHACCPに基づいた厳しい衛生管理を徹底したとしても、その方法が間違っていたり、マンネリ化して衛生管理を怠ってしまったりしたら、食品事故のリスクが高まります。
よって、ハイリスク集団施設は定期的に第三者による監視指導が必要です。
都道府県によって回数は異なりますが、保健所によるハイリスク集団施設への監視指導は年に2~3回行われます。
保健所から監視指導やアドバイスを受けたら、全従業員に通知・徹底させましょう。
また衛生管理をより徹底するためにはどう運用すればよいのか、社内で検討することも大事です。
対応2:ハイリスク集団施設の微生物検査の実施
ハイリスク集団施設では定期的な微生物検査の実施も必要です。
微生物検査では、製造現場や商品に付着している食中毒菌の数を調べます。
とはいえ、自社内で微生物検査をするには機械の導入や検査キットの購入など費用がかかります。
また、検査の方法を間違ってしまうと正確な微生物の数が検出できません。
微生物検査は、専門の業者に依頼し実施しましょう。
なお、微生物検査の実施はハイリスク集団施設だけでなく、食品を提供するすべての事業者に必要です。
しかし、ハイリスク集団の場合は、商品や食事の安全性がより求められます。 そのため、ハイリスク集団が微生物検査をする場合、通常の検査よりも次のような対応必要です。
- 微生物検査の頻度を増やす
- 検査できる微生物の種類を増やす
- 検査の基準を厳しくする
またハイリスク集団施設の微生物検査がクリアしたとしても、食材の搬入時に微生物が付着していたら、意味がありません。
食材を搬入する業者にも微生物検査を徹底してもらい、その結果を提示してもらう必要があります。
安全な食材を仕入れるのもハイリスク集団施設には重要です。
対応3:ハイリスク者向けの調理管理
ハイリスク者向けに食事を提供する施設で調理をする場合、次の点に注意する必要があります。
!ハイリスク集団施設が気を付けるべき5つの注意点
- 十分な加熱を徹底する
- 交差汚染にならないよう調理器具の管理をルール化する
- 厚生労働省が注意喚起している食材を従業員が周知する
- 食品事故がおこる恐れがある場合は食事の提供を中止する
- 従業員の体調管理・健康診断
抵抗力の弱いハイリスク者は、少量の食中毒菌でも食中毒を発生してしまい、重症化してしまう恐れがあります。 HACCPの衛生管理の徹底だけでは、物足りないことも。
ハイリスク集団施設では、対象となるハイリスク者に合わせた、衛生管理が必要であることを覚えておきましょう。
また、ハイリスク者は食中毒感染のリスクが高いので、食品事故が起きてしまった場合の対処法についても、常日頃から話し合っておく必要があります。
ハイリスク集団へ商品や食事を提供するときの注意点
ハイリスクに該当する人たちへ商品や食事を提供するときには、HACCPによる衛生管理だけに気を付ければいいというわけではありません。
ハイリスク者ごとに提供時の注意点があります。 ここからはハイリスク集団へ商品や食事を提供するときの注意点を3つご紹介します。
注意1:食材の大きさ・形状は適当か
介護施設にいる高齢者や保育園にいる園児や乳幼児は、食べ物を飲む力や噛む力が弱く、誤飲のリスクがあります。
もし、誤飲してしまった食べ物が硬くて大きいものだと、のどに詰まってしまい窒息してしまう恐れがあるので大変危険です。
このようにハイリスク集団施設へ食事や商品を提供する施設は、高齢者や子どもの誤飲リスクを防ぐために次の対応が必要です。
誤飲リスクを防止するための対応
- 食材を誤って飲み込んでも大丈夫なよう小さいサイズで提供
- 食材を歯で噛み砕けるよう食材を煮る時間を長めに設定する
また、高齢者や病者の方のなかには、ミキサー食での提供が必要な場合も。 そのときは、食材に固形物が残っていないかもしっかり確認する必要があります。
注意2:疾病に応じた献立になっているか
糖尿病や心臓疾患、腎臓病、妊娠高血圧症候群で入院している患者さんは、塩分を制限した食事の提供が必要です。
だからといって塩分制限にのみ着目した献立だと、栄養が偏ってしまいますし、食事の楽しみがなくなってしまいます。
制限食の献立を考える時には、1日の塩分量を気にしつつも栄養バランスがよく、できるだけ美味しく食べられる献立を考える必要があります。
また実際に食事を提供するときには普通食と混ざらないよう鍋や調理器具を別にしたり、制限食とひと目でわかる食器で食事を提供したりするなどの対応が必要です。
注意3:除外すべき食材が混入されていないか
ハイリスク集団の対象者のなかには、除外すべき食べ物がある人もいます。 たとえば、妊婦さんの場合、刺身や生ハムなどの生ものは除外する必要があります。
なぜなら、生ものにはリステリア菌が付着している恐れがあるから。 妊婦がリステリア菌に感染すると胎盤から胎児に感染し、流産や生まれた新生児に影響がでることがあります。
また、高齢者や免疫機能が低下している病者にも生ものは厳禁。少量のリステリア菌でも発症し、敗血症や髄膜炎など重篤な症状が表れる恐れがあります。
その他にも1歳未満の乳幼児にはちみつを与えてはいけません。 はちみつにはボツリヌス菌が含まれており、1歳未満の乳幼児が口にすると「乳児ボツリヌス」に感染する恐れがあるからです。
ボツリヌス菌は熱に強いので、加熱しても死滅しない厄介な菌です。
除外すべき食材について、ハイリスク集団施設では当たり前のように周知されているかと思いますが、混入しないよう十分気を付ける必要があります。
また、通常の施設でもはちみつを含む商品を提供している場合は、商品表示に「1 歳未満の乳児には与えないで下さい。」など注意喚起の情報を提供する必要があるので覚えておきましょう。
まとめ
ハイリスク集団の対象となる人は抵抗力が弱く、さらに特別な対応が必要です。 そのため、食事や商品を提供するときには、一般の消費者以上に気を付けなければなりません。
まとめ
- ハイリスク集団は少量の食中毒菌でも発症し死に至ることがある
- ハイリスク集団に安心・安全な食を提供するためには定期的な監視・指導や検査が欠かせない
- ハイリスク集団のなかには除外する食材や制限すべき調味料があるので特別な対応が必要
ハイリスク集団施設は、HACCPに基づく衛生管理を徹底させるのはもちろんのこと、定期的な監視・指導や微生物検査を受ける必要があります。
.またハイリスク集団施設でなくても、製造した商品がハイリスク者の口に入るかもしれないことを想定することは大事です。
食品事業者は一般の消費者だけでなく、ハイリスク集団にも安心・安全な商品を届けられるよう、努めていきましょう。

コメント
記事の質問やご意見、ご感想をお待ちしております。
今後の記事執筆の励みになります!お気軽にご投稿ください。