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腸管出血性大腸菌の代表O157とは?事例や症状から食中毒対策まで解説

腸管出血性大腸菌の代表O157とは?事例や症状から食中毒対策まで解説

食中毒菌食中毒対策

食中毒菌食中毒衛生管理

「大腸菌群が陽性になったアイスが自主回収されたのは、腸管出血性大腸菌O157のリスクがあるから?」
「そもそも大腸菌群と腸管出血性大腸菌O157っておなじもの?」

結論から言いますと、大腸菌群と腸管出血性大腸菌O157は違います。

腸管出血性大腸菌O157は、1996年~2000年にかけて猛威を奮った集団食中毒の原因菌です。

腸管出血性大腸菌O157食中毒を発症し、幼い子どもが亡くなる食中毒事故も発生しています。

腸管出血性大腸菌O157食中毒は初夏から初秋にかけて起こることが多いので、これからの季節に十分注意が必要です。

そこで今回は、大腸菌群と腸管出血性大腸菌O157の違いから食中毒の予防策まで解説します。

衛生管理の指標である大腸菌群と大腸菌の違い

衛生管理の指標である大腸菌群と大腸菌の違い

2020年8月、京都府丹波保健所で成分規格検査したアイスに大腸菌群が陽性になったとして、同期間に製造されたカップアイス909個に回収命令が出されました。

大腸菌群と聞くと、多くの人は腸管出血性大腸菌O157をイメージしがちです。

しかし、大腸菌群と腸管出血性大腸菌O157を含む病原性大腸菌は異なるものです。

大腸菌群は、人や動物の腸内(糞便内)だけでなく、野菜や果物や海産物・魚介類までありとあらゆる場所から検出されます。

一方、病原性大腸菌は大腸菌群に含まれる菌の一種です。

関係を表すと次のようになります。

大腸菌群>大腸菌>病原性大腸菌>腸管出血性大腸菌O157

もちろん、大腸菌群の中に病原性大腸菌が含まれている可能性はあります。

けれども成分規格検査で検出される大腸菌群のほとんどは無害で、誤って喫食しても食中毒になることはほとんどありません。

では、なぜ大腸菌群入りのアイスカップは回収対象となるのでしょうか。

それは、「アイスクリーム類」を製造する工程で、原料となる乳および乳製品がしっかりと加熱処理されたか、衛生的に取り扱われたかを確認する指標として、大腸菌群の有無の基準が定められているからです。

これは、食品衛生法に基づいて国が定めた「乳及び乳製品の成分規格等に関する省令」に書かれています。

アイスクリーム類の成分規格

引用:一般社団法人日本乳業協会

大腸菌群は熱に弱く、乳等省令で示してある「63℃で30分間の加熱殺菌か、それと同等以上の殺菌」例えば75℃1分間の加熱でほぼ死滅します。

つまり、大腸菌群が陰性であることは、乳および乳製品が加熱処理され病原性大腸菌が死滅している証拠となるのです。

また、加熱処理しても大腸菌群はいたるところに存在するので、二次汚染によって再び付着してしまうこともあります。 成分規格検査の大腸菌群は

  • 加熱殺菌が適切かどうか
  • 加熱殺菌後の製品の取扱いが適切かどうか

この2つを測る重要な役割を果たしています。

大腸菌とは?

大腸菌とは、大腸菌群の中でも人や動物の腸内由来の菌を指します。

こちらも「大腸菌」イコール「腸管出血性大腸菌O157」とイメージされがちです。

しかし、大腸菌のほとんどは無害のものです。

私たちが食べた食物を分解・消化を手助けする役割を担っているものも多く、私たちの生命維持には欠かせません。

また大腸菌は人や動物の腸内にある菌ですが、トイレや家畜場にだけ存在する菌ではありません。

例えば、野菜を栽培している土壌にも存在しますし、精肉や鮮魚にも付着しています。

病原性大腸菌とは?

病原性大腸菌とは?

大腸菌の多くは無害です。

ところが一部の菌は人に悪影響を与え、食中毒を引き起こします。

このように人体に悪い影響を与える大腸菌は病原性大腸菌と呼ばれ、食中毒を発生させます。

病原性大腸菌の5つの分類

病原性大腸菌はわかっているだけでも、約180の型があり、菌の表面にあるO抗原とH抗原により決定されています。

今回は病原性の違いによる5つの分類とその症状を表にまとめました。

分類 症状
腸管病原性大腸菌 小腸に感染して腸炎等を起こします。
腸管侵入性大腸菌 大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層に糜爛(びらん)と潰瘍を形成する結果、赤痢様の激しい症状を引き起こします。
腸管毒素原性大腸菌 小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生する結果、腹痛と水様性の下痢を引き起こします。
腸管出血性大腸菌 赤痢菌が産生する志賀毒素類似のベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とし、特に、小児や老人では、溶血性尿毒症症候群や脳症(けいれんや意識障害等)を引き起こしやすいので注意が必要です。近年、食中毒の原因となっているものは、O157がほとんどですが、腸管出血性大腸菌にはこの他にO26、O111、O128およびO145等があります。
腸管凝集付着性大腸菌 主として熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く小児等の下痢の原因菌となります。我が国ではまだほとんどこの菌による患者発生の報告がありません。

参照:腸管出血性大腸菌Q&A|厚生労働省

後ほど詳しく解説しますが、O157は腸管出血性大腸菌にあたります。

日本を震撼させた腸管出血性大腸菌O157食中毒事例

日本を震撼させた腸管出血性大腸菌O157食中毒事例

病原性大腸菌は約180の型がありますが、日本では腸管出血性大腸菌に分類されるO157の食中毒事故が多発しています。

ここからは、過去に発生した腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒事故の事例を2つご紹介します。

いずれの事例も死亡者が発生した痛ましい食中毒事故です。

このような事例を繰り返さないためにも、後ほど解説する食中毒予防対策を徹底させましょう。

1996年岡山県邑久町で発生した集団食中毒事故

1996年5月岡山県邑久町内の幼稚園・小学校・中学校の5施設で腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事故が発生しました。

この食中毒事故では、喫食者2,156人のうち112名に本菌が検出され、入院中の児童2名が重症化して亡くなりました。

さらにその1か月後、1996年6月には同じく岡山県新見市の小学校で腸管出血性大腸菌O157集団食中毒が発生。

1か月前に邑久町内で同様の食中毒事故があったことから、患者から菌が検出された後の対応を迅速に行うことができました。

こちらの食中毒事故では、喫食者1,935名のうち、270名に本菌が検出されましたが、亡くなった方は0名となっています。

のちほど詳しく解説しますが、腸管出血性大腸菌O157は潜伏期間が長いため、原因食を特定するのが難しい場合がほとんどです。

岡山県で発生した2件も原因食が不明のまま調査が終わっています。

1996年大阪府堺市で発生した大規模集団食中毒事故

岡山県の事例後、同年7月には、大阪府堺市にある47の小学校で腸管出血性大腸菌O157集団食中毒事故が発生。

二次感染含め約10,000人が発症し、うち3名の児童が亡くなりました。

同時期に発生したことから、学校給食が疑われ調査を行いましたが岡山県と同様、原因食は不明のまま調査は終わっています。

しかし、調査途中でカイワレ大根が疑われ、腸管出血性大腸菌O157が検出されていないのにも関わらず、厚生労働省の担当者が「感染源としてカイワレ大根は否定できない」と発言してしまったことから、カイワレパニックが発生。

全国のスーパーからカイワレ大根が撤去されるという事態にまで発展しました。

カイワレ大根業者は、国に損害賠償を求め、最終的に最高裁は国に2290万円の損害賠償を命じる判決をだしています。

腸管出血性大腸菌O157とは?

腸管出血性大腸菌O157とは?

腸管出血性大腸菌O157とは、病原性大腸菌の1つです。

病原性大腸菌は、O抗原とH抗原によって決定されており、O157はO抗原として157番目に発見された菌という意味を持ちます。

さらに同じO157でも、持っているH抗原によりさらに細分化されます。

そのなかでも次の2つの型は溶血性尿毒症症候群(HUS)などの症状を引き起こす毒素を産生する傾向が強いといわれます。

  • O157:H7
  • O157:H-

腸管出血性大腸菌の潜伏期間・症状

腸管出血性大腸菌O157は潜伏期間が2~9日と長いのが特徴です。

その間は無症状なので、発症後の原因特定が難しく、二次感染でさらに感染者が広まってしまう恐れがあります。

腸管出血性大腸菌O157の症状は、個人差がありますが重篤な症状に至る場合、次のように症状が移り変わります。

感染後の経過 症状
潜伏期間 無症状
発症 水様便、腹痛
発症後1~3日 出血性大腸炎(血便、激しい腹痛)
発症後7日後 溶血性尿毒症症候群(血小板減少、尿量減少、溶血性貧血、神経症状)

腸管出血性大腸菌O157の治療法

腸管出血性大腸菌O157は、発症時は軽症でも時間の経過とともに重篤化する可能性があります。

とくに抵抗力の弱い子どもや高齢者は、出血性大腸炎から溶血性尿毒症症候群に至る恐れもあり大変危険です。

症状があるときは、必ず医師の診断をうけましょう。

治療方法は、症状に応じた対症療法がおこなわれます。

腸管出血性大腸菌O157の原因食品

腸管出血性大腸菌O157の原因食品

腸管出血性大腸菌O157の感染事例の原因食品等と特定あるいは推定されたものは、次の通りです。

国内では井戸水、牛肉、牛レバー刺し、ハンバーグ、牛角切りステーキ、牛タタキ、ローストビーフ、シカ肉、サラダ、貝割れ大根、キャベツ、メロン、白菜漬け、日本そば、シーフードソース等です。海外では、ハンバーガー、ローストビーフ、ミートパイ、アルファルファ、レタス、ホウレンソウ、アップルジュース等です。
腸管出血性大腸菌Q&A|厚生労働省

しかし、これはあくまでも腸管出血性大腸菌O157の確認された食品の一覧です。

腸管出血性大腸菌O157は、少量の菌の二次汚染により食中毒を引き起こしたり、潜伏期間が長いため原因食品が特定できなかったりすることが多いので、上記に書かれていない食品でも腸管出血性大腸菌O157の食中毒になる可能性があります。

腸管出血性大腸菌O157の特徴

腸管出血性大腸菌O157は、次のような特徴があります。

!腸管出血性大腸菌O157の特徴

  • 潜伏期間が長い
  • 人から人への感染がある
  • 熱に弱い

腸管出血性大腸菌O157は、3日~7日間の潜伏期間があり、この間に保菌者から他の人へ二次感染する恐れがあります。

さきほど紹介した2つの事例でも二次感染がみられ、大阪府堺市では最終的に約1万人以上の感染者が出てしまいました。

感染力が強く、死に至るリスクもある腸管出血性大腸菌O157ですが、他の大腸菌と同じく熱に弱いのも特徴の1つです。

腸管出血性大腸菌O157に汚染された食材でも十分な加熱調理をすれば食中毒を起こすことなく安心して食べられます。

腸管出血性大腸菌O157食中毒を予防するには?

腸管出血性大腸菌O157食中毒を予防するには?

腸管出血性大腸菌O157食中毒を予防するには、次の3つを徹底させましょう。

腸管出血性大腸菌O157食中毒の予防

  • 手洗いなど基本的な個人衛生を徹底
  • 肉類や生鮮食品の扱いには十分気を付ける
  • ペストコントロールを実施する

それでは1つずつ解説します。

手洗いなど基本的な個人衛生を徹底させる

腸管出血性大腸菌O157は、人から人へ感染します。

潜伏期間が長いため、誰が保菌しているのか症状で見分けることはできません。

よって、保菌者も周りの人もそれぞれ手洗いなどの個人衛生を徹底させる必要があります。

腸管出血性大腸菌O157は食中毒菌の1つです。 食中毒予防の三原則を徹底することで、食中毒予防できます。

食中毒の三原則

  • 菌をつけない
  • 増やさない
  • やっつける

食中毒予防の三原則について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

肉類や生鮮食品の扱いには十分気を付ける

2011年4月に富山県、福井県、横浜市の焼き肉チェーン店で、腸管出血性大腸菌O111による食中毒事故が発生 4名が死亡するという痛ましい食中毒事故がありました。

この食中毒の原因食品はユッケでした。

今はユッケの加工基準、規格基準かなり厳しくなっています。

腸管出血性大腸菌O157同様、腸管出血性大腸菌O111は、牛などの反すう家畜に保菌されていることが多く、保菌しているこれら家畜の生肉を人が食すと食中毒を起こす恐れがあります。

2000年から2010年の11年間の間に発生した生食によるO157食中毒発生患者数は165名で、そのうち34名が重症化し、うち4名が亡くなっています。

生食による腸管出血性大腸菌O157食中毒 発生件数

出典:ユッケ・焼肉を原因食品とした腸管出血性大腸菌O111による食中毒 | 一般財団法人 東京顕微鏡院

このことを重く見た政府は、2011年に「牛肝臓に係る規格基準設定」を全国に通知し、飲食店に生食用牛肝臓の安全が保障されるまで、提供を禁止するよう通知しました。

ただ、腸管出血性大腸菌O157食中毒はユッケや生食用牛肝臓の喫食のみが原因ではありません。

焼き肉が生焼けであったり、生肉用のトングと焼きあがり用のトングが同じであったりしたことによる二次汚染でもO157食中毒の感染の恐れがあります。

肉類や生鮮品はしっかり加熱調理するのはもちろんのこと、生肉を取り扱った調理器具の洗浄・消毒を徹底し、二次汚染を防ぎましょう。

ペストコントロールを実施する

ペストコントロールの実施は腸管出血性大腸菌O157食中毒を防ぎます。

1996年11月、腸管出血性大腸菌O157食中毒事故が発生した佐賀県内の施設で採取されたイエバエから、食中毒患者と同じ腸管出血性大腸菌O157が検出されました。

また、他の都道府県でも腸管出血性大腸菌O157を保菌したイエバエが発見されています。

今のところ、腸管出血性大腸菌O157の食中毒発生とイエバエの因果関係は不明です。

しかし、イエバエを含む害虫が食中毒菌を保菌し、感染源になる恐れがあることは昔から周知されています。

腸管出血性大腸菌O157を含む食中毒菌を保菌した害虫を事業所や製造所内に入れないよう、ペストコントロールの徹底にも努めましょう。

まとめ

まとめ

大腸菌群や大腸菌と聞くと、つい腸管出血性大腸菌O157をイメージしがちです。

確かに大腸菌群の一つとして腸管出血性大腸菌O157が含まれているかもしれません。

しかし、大腸菌群と腸管出血性大腸菌O157は全く別物です。

まとめ

  1. 腸管出血性大腸菌O157は潜伏期間が長く原因の特定が難しい
  2. 腸管出血性大腸菌O157の症状は重いが食中毒予防の三原則で予防が可能
  3. 腸管出血性大腸菌O157は害虫が保菌している可能性もあるのでペストコントロールも忘れない

腸管出血性大腸菌O157は、発症すると子供やお年寄りが重症化しやすく、死に至ることもあります。

予防策を徹底して、腸管出血性大腸菌O157から自社製品の安全と従業員の健康を守りましょう。

 

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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