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感染力の強いノロウイルス食中毒はどう予防する?適切な手洗いを徹底しよう

感染力の強いノロウイルス食中毒はどう予防する?適切な手洗いを徹底しよう

食中毒対策

飲食店衛生管理

ノロウイルスの食中毒事故は1件あたりの患者数が多く、感染力が強いのが特徴です。

そのため、予防方法を誤るとあっという間に感染拡大してしまいます。

ノロウイルス食中毒を防ぐには、適切な手洗いで「持ち込ませない」ようにすることが重要です。

今回はノロウイルスの特徴から予防策、次亜塩素酸を使った消毒液の作り方までわかりやすく解説します。

この記事を読めば、食品を扱う事業所内のノロウイルス感染拡大を予防することができ、感染拡大しやすい冬も安心して経営をすすめられるでしょう。

ノロウイルスの基本情報

ノロウイルスの基本情報

ノロウイルス食中毒は通年で発症する食中毒で、とくに冬に感染拡大しやすくなります。

令和3年の厚生労働省食中毒統計によると、ノロウイルスの患者総数は4,733名。食中毒患者数の約40パーセントを占めています。

これは、他の食中毒原因菌の中でもダントツトップの数値となっています。

参照:食中毒 - 統計資料, 厚生労働省

ノロウイルスの主な症状は次の通りです。

  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 腹痛
  • 微熱

ほとんどの場合軽症で1~2日で回復しますが、乳幼児や高齢者は嘔吐物を吸い込み、肺炎や窒息を起こす恐れがあるので注意が必要です。

ノロウイルスは感染しやすいだけでなく、ワクチンがないため治療は対症療法に限られます。

さらにノロウイルスは不定期に遺伝子が変化するため、過去にかかっても遺伝子の違うウイルスが体内に入ると再び症状が出てしまいます。

ノロウイルスの特徴

ノロウイルスの特徴

ノロウイルスに対抗するには、徹底的な予防策が必要ですが、具体的に何をすればよいのでしょうか。

予防策を講じる前にまずは敵を知るため、ノロウイルスの特徴を見ていきましょう。

少量の菌で発症

ノロウイルスは、10~100個程度の菌が体内に入っただけで感染し、発症します。

手指や食品を介して口から体内に入り、潜伏期間が1~2日と短いのも特徴の1つです。

さらにノロウイルスは非常に小さく、1mmの指紋に3万個もはいるほどのサイズしかありません。

手指にノロウイルスが付着すると、なかなか落ちにくいので手洗いの徹底が予防の鍵となります。

二枚貝が多く保持し、人の腸内でのみ増殖する

ノロウイルスは河口付近で養殖された二枚貝(シジミやカキ)が多く保持しています。

しかし二枚貝はノロウイルスを作り出しません。

人が排出した生活用水に含まれている、ノロウイルスを水とともに取り込み一定期間保持します。

ノロウイルスを保持した二枚貝を人が食することで、感染するのです。

ノロウイルスは人の腸内でのみ増殖し、二枚貝や食品中では増殖しないことがわかっています。

また最近のノロウイルス食中毒は、二枚貝を食してからの感染よりも人から人への感染が主流となっています。

乾燥に強く低温下で生存期間が延びる

ノロウイルスは乾燥に強く、低温下で生存期間が3倍にも伸びます。

20℃の室温下での生存期間は20日間ほどですが、乾燥した5℃の室温下では60日間も生存するのです。

よって、ノロウイルスは、低温下で乾燥しやすい冬季に感染拡大します。

アルコール消毒剤が効きにくい

ノロウイルスにアルコール消毒剤をかけても、塩素剤の100分の1しか効果がないため、感染者の嘔吐物や糞便の処理に向きません。

なぜならノロウイルスに感染した人の嘔吐物の中には10万個、糞便中には1億個ものノロウイルスが含まれており、塩素剤などの強い消毒剤でないと効果が期待できないからです。

だだ少量のノロウイルスに対して、アルコール消毒液は一定の効果があるので、手洗い後の消毒として使用すると良いでしょう。

また、最近では、ノロウイルスに効果的な手洗い洗剤や殺菌剤も市販されているので、流行時期に合わせてそのような商品を活用するのも効果的です。

ノロウイルス食中毒の予防!事前の対策で冬季の営業も安心

ノロウイルスは、感染力が強く少量の菌でも発症してしまいます。そのため、食中毒三原則のなかでも「つけない」対策が非常に重要です。

!食中毒三原則

  • つけない
  • 増やさない
  • やっつける

さらに感染者が調理した食品からもノロウイルス食中毒に感染してしまうので、食中毒三原則の+αである「持ち込ませない」対策も必要になります。

ノロウイルス食中毒の具体的な予防方法は次の通りです。

ノロウイルス食中毒の予防方法

  • 手洗いの徹底
  • 調理従事者の健康管理の徹底
  • 調理器具の消毒・除菌
  • 加熱調理をおこなう
  • 嘔吐物の処理方法を確認・訓練

それでは1つずつ見ていきましょう。

手洗いの徹底(つけない)

ノロウイルスの予防で最も重要なのが、こまめな手洗いです。

飲食店や事業所では次のタイミングで手を洗うよう従業員に徹底させましょう。

手を洗うタイミング

  • トイレの後
  • 工場、厨房に入る前
  • 作業の切り替え時
  • 盛り付けなど手で食材を触る作業の前

また水洗いでささっと手の汚れを洗い流すだけでは、ノロウイルス食中毒は予防できません。

なぜならノロウイルスは非常に小さく、手のしわの間や爪の間に入り込んでしまうからです。

以下の手洗い手順を見ながら石けんを使って入念に洗いましょう。

手洗い手順マニュアル

手洗い後は、紙ナプキンでしっかりと水気を拭き取り、ノロウイルスとともに新型コロナウイルス感染症予防のため、アルコール消毒液で手指を消毒します。

調理従事者の健康管理を徹底(もちこませない)

ノロウイルスを持ち込ませないよう、調理従事者の健康管理を徹底しましょう。

なぜなら、感染した調理従事者が食品に触れると、食品がノロウイルスに汚染され、喫食した人が感染してしまうからです。

発生しているノロウイルス食中毒事故の多くがこのパターンとなっています。

飲食店や製造業でノロウイルス食中毒が発生してしまうと、お客様に健康被害が出るだけでなく、保健所から指導を受けたり風評被害でお客様が離れたりと経営が立ち行かなくなる可能性があります。

経営者は従業員が体調の申告を正直に言い合えるよう、従業員とのコミュニケーションをとりましょう。

体調不良の従業員がいたら、すぐに休ませる体制を整えておくことも大事です。

ただ怖いのは従業員の中に、ノロウイルスに感染しているのに症状が出ない「健康保菌者」がいる可能性があることです。

この場合、従業員の体調チェックではわからないので、冒頭で紹介した手洗いの徹底が重要になります。

清掃・洗浄のポイント(もちこませない)

ノロウイルスは厨房や工場内だけでなく、飲食店の場合はお客様が持ち込むケースもあります。

そのため、厨房や工場ないでどんなに気を付けていても、持ち込んでしまう可能性があるのです。

外からのノロウイルスを持ち込ませないようにするには、こまめな清掃・洗浄が有効です。

たとえば、次の場所はお客様および従業員がよく触れる場所なので、念入りに清掃・洗浄しましょう。

  • 食事をするテーブル、椅子
  • ドアノブ
  • コンセント
  • スイッチ
  • カラン
  • 決済端末など

また、ノロウイルスは保菌者の便から感染することもあるので、お客様用のトイレもできる限り頻回に清掃することをおすすめします。

加熱調理を行う(やっつける)

ノロウイルスは感染力は強いですが、他の食中毒と同じく加熱調理で殺菌することができます。

85℃~90℃で90秒以上加熱しましょう。

とくに二枚貝はノロウイルスを保持している可能性が高いので中心部までしっかり火を入れます。

そのほか、85℃~90℃で加熱すると食品の品質を保てない場合は、加熱時間を長めにするなどの対応が必要です。

嘔吐物の処理方法を確認し、訓練をする(もちこませない)

ノロウイルスの症状の1つに突然の嘔吐があります。

飲食店の厨房や食品事業所内では、従業員の健康管理を徹底しているので、突然誰かが嘔吐するようなことはないかと思います。

ただ、訪れたお客様が突然嘔吐に見舞われることがあるかもしれません。

このようなときに、適切な処理をしないと事業所内や飲食店内にいる全ての人が感染してしまう恐れがあります。

そのような事態が発生しても適正な処理をすることで、担当する人への感染も予防できます。

用意するもの

  • 使い捨てマスク
  • 手袋
  • エプロン
  • ペーパータオル
  • ビニール袋(2枚以上)
  • 5%~6%の次亜塩素酸ナトリウム

!嘔吐物の処理手順

  1. 嘔吐した感染者を落ち着かせて嘔吐物から離れた場所で休ませる
  2. 周囲の人を嘔吐物から遠い場所へ誘導
  3. 手袋・マスク・エプロンを着用。窓を開けて換気を良くする
  4. 嘔吐物をペーパータオルで覆い、外側から内側に拭き取る。嘔吐物と手袋はビニール袋にすばやく入れて封をする。
  5. 次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパータオルを嘔吐物が付着した場所に覆って10分間おく
  6. ペーパータオルを処分し水拭きする
  7. ペーパータオルをビニール袋に入れて封をする
  8. 処理をするときに使用した手袋・マスク・エプロンも内側に畳みビニール袋に入れて処分
  9. 処理後は流水と石けんで2度手洗いをする

嘔吐物処理方法については、東京都が公開している動画で詳しく解説しているのでそちらもご覧ください。

また嘔吐物処理セットは、事業所に2~3セット用意しすぐ取り出せる場所に置いておきましょう。

職場に常備!塩素消毒液の作り方

職場に常備!塩素消毒液の作り方

ノロウイルスの予防には、入念な手洗いが必要です。

しかし手洗いしても、ノロウイルスが付着したドアノブや手すりなどに触れてしまうと感染してしまう恐れがあります。

ノロウイルスの予防を徹底するのであれば、調理器具を含め不特定多数の人が触れるものに消毒をすべきです。

先ほども言いましたが、ノロウイルスにアルコール消毒液は効果が薄いので、次亜塩素酸ナトリウムまたは家庭用の塩素系漂白剤を薄めた消毒液を作り置きしておきましょう。

消毒液は使用用途に合わせて濃度を変えるとより効果的です。

また、作り置きを保管する際は薬品名と濃度、使用期限を明記して間違って使用しないような場所に保管をすることも大切です。

使用用途消毒液の濃度
嘔吐物の処理、トイレの便器の消毒 水3Lあたり消毒液25ml(1000ppm)
調理器具、食器、カーテン、テーブルの消毒 水3Lあたり5ml(200ppm)

濃度が高すぎると手すりや床などを傷めたりする恐れがあるので適正量を守ってください。

また嘔吐物に塩素系漂白剤を直接かけると有毒ガスが発生する恐れがあるので大変危険です。

使用上の注意をよく読んでから使用しましょう。

まとめ

冬に流行しやすいノロウイルス食中毒は非常に感染力が強く、少量のウイルスであっという間に発症してしまいます。

症状が出れば休むこともできますが、怖いのは症状が出ない「健康保菌者」からの持ち込みです。

また、もし食品を扱う事業所でノロウイルスが発生してしまったら、食品を介して感染拡大してしまう恐れがあります。

まとめ

  1. ノロウイルス感染予防の基本は適切な手洗い
  2. 従業員が健康報告できる体制づくりでノロウイルスを持ち込ませない
  3. 万が一を想定して嘔吐物処理方法の周知徹底をする

ノロウイルス予防で最も重要なのは、適切な手洗いをこまめに行うことです。

従業員が手洗い手順をいつでも確認できるよう、手洗い場にポスターを掲示し、ノロウイルスを持ち込まないようにしましょう。

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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