
ノロウイルス食中毒は、集団食中毒につながりやすく、食品事業の経営を揺るがす事態になりかねません。
従業員の体調不良への判断遅れや対応ミスが原因で、営業停止や深刻な風評被害に発展するケースも少なくありません。
ノロウイルスが疑われる従業員が出たとき、「出勤停止は必要か」「商品は廃棄すべきか」など、即断を求められる場面が多くあります。
この記事では、ノロウイルスの特徴をふまえた初動判断の考え方と、発生時・日常の具体的な対応策を、食品事業者向けに整理して解説します。
手洗いの徹底や食品製造工場でのリスク、さらにはHACCPコンサルタントがおすすめするノロウイルス対策グッズも紹介していますので、ぜひご覧ください。
なぜノロウイルスは食品事業者にとって厄介なのか
ノロウイルスは、他の食中毒原因菌と比べても感染力が非常に強く、食品事業者にとって特に対応が難しいウイルスです。
発生すると被害が広がりやすく、現場対応や予防を徹底していても事故につながるケースがあります。
ここでは、なぜノロウイルスが食品事業者にとって厄介な存在なのか、その理由を特徴ごとに解説します。
少量の菌で発症
ノロウイルスは、10~100個程度の菌が体内に入っただけで感染し、発症します。
手指や食品を介して口から体内に入り、潜伏期間が1~2日と短いのも特徴の1つです。
さらにノロウイルスは非常に小さく、1mmの指紋に3万個もはいるほどのサイズしかありません。
手指にノロウイルスが付着すると、なかなか落ちにくいので手洗いの徹底が予防の鍵となります。
二枚貝が多く保持し、人の腸内でのみ増殖する
ノロウイルスは河口付近で養殖された二枚貝(シジミやカキ)が多く保持しています。
しかし二枚貝はノロウイルスを作り出しません。
二枚貝は人が排出した生活用水に含まれている、ノロウイルスを水とともに取り込み一定期間保持するだけです。
ノロウイルスを保持した二枚貝を人が食することで、感染します。
ノロウイルスは人の腸内でのみ増殖し、二枚貝や食品中では増殖しないことがわかっています。また最近のノロウイルス食中毒は、二枚貝を食してからの感染よりも人から人への感染が主流となっています。
人から人への感染は、トイレの後の手洗いや嘔吐物の処理の不備などが主な感染原因となります。
乾燥に強く低温下で生存期間が延びる
ノロウイルスは乾燥に強く、低温下で生存期間が3倍にも伸びます。
20℃の室温下での生存期間は20日間ほどですが、乾燥した5℃の室温下では60日間も生存するのです。
よって、ノロウイルスは、低温下で乾燥しやすい冬季に感染拡大します。
アルコール消毒剤が効きにくい
ノロウイルスにアルコール消毒剤をかけても、塩素剤の100分の1しか効果がないため、感染者の嘔吐物や糞便の処理に向きません。
なぜならノロウイルスに感染した人の嘔吐物の中には10万個、糞便中には1億個ものノロウイルスが含まれており、塩素剤などの強い消毒剤でないと効果が期待できないからです。
だだ少量のノロウイルスに対して、アルコール消毒液は一定の効果があるので、手洗い後の消毒として使用すると良いでしょう。
また、最近では、ノロウイルスに効果的な手洗い洗剤や殺菌剤も市販されているので、流行時期に合わせてそのような商品を活用するのも効果的です。
2025年ノロウイルスの発生件数
2021年~2025年で発生したノロウイルスの件数と患者総数は次の通りです。
| 年別 | ノロウイルス食中毒発生件数 | 患者総数 |
|---|---|---|
| 2025年 | 399件 | 13,122人 |
| 2024年 | 276件 | 8,656人 |
| 2023年 | 163件 | 5,502人 |
| 2022年 | 63件 | 2,175人 |
| 2021年 | 72件 | 4,733人 |
※2024年・2025年は速報値を含む
新型コロナの影響で激減していたノロウイルスですが、社会活動の活発化に伴い、2023年から急激な増加に転じています。
特に2025年は患者数が1万3,000人を超え、2022年の約6倍という危機的な水準に達しました。ひとたび発生すれば、100名規模の集団食中毒に発展するケースも少なくありません。
「コロナ前より増えている」という強い警戒心を持ち、現場の衛生管理を再点検することが、今まさに求められています。
ノロウイルス対応マニュアル1│従業員の健康管理
ノロウイルスが疑われる事案が発生した場合、判断の遅れや対応ミスは被害拡大につながるおそれがあります。
食品工場や飲食店では、「確定してから対応する」のではなく、「疑いの段階でどう判断するか」が重要です。
まずは従業員の健康管理や作業状況を整理し、被害を広げないための初動判断を行いましょう。
従業員に症状が出た場合の初動判断
まず大事なのは「ノロウイルスかどうか確定していなくても、疑いがある時点で動く」ことです。
ノロウイルスは少量のウイルスでも感染が広がりやすく、症状が出てから対応を考えていると、すでに食品や設備を介して二次感染が起きてしまう可能性があるためです。
そのため、調理従事者や製造現場の従業員に次のような症状が見られた場合は、ノロウイルス感染を疑って初動対応を行うことが重要です。
- 突然の嘔吐
- 下痢や腹痛
- 軽い微熱
- 家族にノロウイルス感染者がいる
症状が軽く「本人は元気そう」に見えても、ノロウイルスの場合は症状が出る前後からウイルスを排出している可能性があります。
そのため、無理に業務を続けさせてしまうと集団食中毒のリスクを高めてしまいます。
初動としてまず行うべきことは次の3点です。
- 当該従業員を食品や製品に触れる作業から外す
- 共用していた作業場所・器具・トイレなどを確認する
- 軽い微熱
- 管理者が状況を把握し、今後の判断を整理する
ここで重要なのは、原因の特定よりも「被害を広げない判断」を優先することです。
ノロウイルスに感染した従業員は出勤停止にする
結論から言うと、法律で一律に出勤停止が義務づけられているわけではありませんが、食品事業者では出勤停止の対応を取るべきケースがほとんどです。
インフルエンザや水痘(水ぼうそう)などは、法律により出勤停止の対象となる感染症ですが、ノロウイルスは法律上の出勤停止対象には含まれていません。
しかし、飲食店や食品製造工場など、食品を直接取り扱う事業所では話が別です。
ノロウイルスは非常に感染力が強く、感染した従業員が調理や製造作業に従事することで、大規模な集団食中毒につながるリスクがあります。
そのため、厚生労働省が定める「大量調理施設衛生管理マニュアル」では、食品を扱う事業者に対し、従業員にノロウイルス感染が疑われる場合は出勤停止の措置を取るよう明記しています。
このマニュアルは「法律」ではなく、行政からの「衛生管理の指針」なので、違反したからといって罰則はありません。
しかし、ノロウイルスによる食中毒事故が発生した場合には、行政指導や営業停止、追加徴税などの処分につながる可能性があります。
ノロウイルス対応マニュアル2│感染や嘔吐が発生したときの対策
ノロウイルスが疑われる場合、現場では迅速かつ冷静な対応が求められます。
対応の基本は「持ち込ませない」「広げない」ことです。
人の動きや作業をそのままにしてしまうと、食品や設備を介して感染が拡大するおそれがあります。
ここでは、発生時に現場で取るべき具体的な対応を整理します。
調理従事者に症状が出たら食品に触れさせない
ノロウイルスが疑われる症状(嘔吐・下痢など)が調理従事者に見られた場合、現場で最優先すべき対応は 「食品に触れさせないこと」です。
ノロウイルスは、症状が出る前後からウイルスを排出している可能性があり、本人が元気そうに見えても、食品を介して感染を広げるリスクがあります。
そのため、症状が確認された時点で次の対応を行いましょう。
- 当該従業員をただちに食品・製品に触れる作業から外す
- 加熱後の食品や盛り付け工程への立ち入りを禁止する
- 共有していた作業台・器具・トイレの使用状況を確認する
「少し様子を見る」「軽作業だけなら問題ない」といった対応は、現場内にウイルスを拡散させる原因になりかねません。
人手不足などの事情があっても、その場で対応を誤ると、事業全体を止める事態につながるため、発生時は安全を最優先に判断することが重要です。
清掃・洗浄の徹底
ノロウイルスが疑われる事案が発生した場合、現場では 清掃・洗浄の優先順位を誤らないことが重要です。
発生時にまず対応すべきなのは、人の手が頻繁に触れる場所です。
- 作業台・調理台
- ドアノブ、スイッチ
- 蛇口、カラン
- トイレ周辺
これらの場所は、症状のある人や健康保菌者の手を介してウイルスが付着している可能性が高いため、速やかに対応します。
また清掃・消毒は「洗浄 → 消毒」 の順番を守りましょう。
汚れが残ったまま消毒を行っても、十分な効果は得られません。
発生時の環境消毒にはノロウイルスに有効な消毒剤を使用することが必要です。

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清掃を行う担当者自身が感染しないよう、手袋やマスクを着用し、作業後は手洗いを徹底しましょう。
吐物の処理方法と注意点(発生時)
ノロウイルスの症状の1つに突然の嘔吐があります。
飲食店の厨房や食品事業所内では、従業員の健康管理を徹底しているので、突然誰かが嘔吐するようなことはないかと思います。
ただ、訪れたお客様が突然嘔吐に見舞われることがあるかもしれません。
このようなときに、適切な処理をしないと事業所内や飲食店内にいる全ての人が感染してしまう恐れがあります。
そのような事態が発生しても適正な処理をすることで、担当する人への感染も予防できます。
用意するもの
- 使い捨てマスク
- 手袋
- エプロン
- ペーパータオル
- ビニール袋(2枚以上)
- 5%~6%の次亜塩素酸ナトリウム
!嘔吐物の処理手順
- 嘔吐した感染者を落ち着かせて嘔吐物から離れた場所で休ませる
- 周囲の人を嘔吐物から遠い場所へ誘導
- 手袋・マスク・エプロンを着用。窓を開けて換気を良くする
- 嘔吐物をペーパータオルで覆い、外側から内側に拭き取る。嘔吐物と手袋はビニール袋にすばやく入れて封をする。
- 次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパータオルを嘔吐物が付着した場所に覆って10分間おく
- ペーパータオルを処分し水拭きする
- ペーパータオルをビニール袋に入れて封をする
- 処理をするときに使用した手袋・マスク・エプロンも内側に畳みビニール袋に入れて処分
- 処理後は流水と石けんで2度手洗いをする
嘔吐物処理方法については、東京都が公開している動画で詳しく解説しているのでそちらもご覧ください。
また嘔吐物処理セットは、事業所に2~3セット用意しすぐ取り出せる場所に置いておきましょう。
ノロウイルスに一般的にあるアルコール消毒液は効果が薄いため、ノロウイルスに効果のある消毒液を使用するようにしましょう。
教えて!エッセンシャルさん!よくある質問Q&A
ノロウイルス食中毒について、よくある質問とその回答をエッセンシャルさんの中の人に聞きました!
食品事業に従事している人がノロウイルスに感染したら出勤停止になる?
インフルエンザや水疱瘡など、感染リスクが高い病気は法律により出勤停止の措置をとることが法律で定められています。
しかし、ノロウイルスは法律による出勤停止の対象となっていません。
ただ、飲食店や給食施設など食品を扱う業種では、ノロウイルス感染者が従事することで、大規模な食中毒を引き起こすリスクが高まります。
厚生労働省では、食品を扱う業者の事業主に対して、従業員にノロウイルス感染者が出た場合は、出勤停止の措置をとるよう指導しています。
この指導は法律と同じくらい強制力があり、違反した場合は追加徴税などの罰則を受けることがありますので覚えておきましょう。
製造現場にいる従業員がノロウイルスに感染していることがわかったら、出荷前の商品は破棄すべき?
商品の特性や製造現場にいる従業員がどういう作業に携わっていたかによって、リスクの度合いが変わります。
例えば、商品がそのまま消費者の口に入るのか、それとも加熱調理してから口に入るか、また現場で非加熱の商品や加熱後の商品を素手や不十分な手洗いのまま触れていたかどうかでも重大性の評価が変わります。
もし、そのような事象が起きた場合は、さまざまな角度から食中毒の事故につながる可能性や拡散性を考慮して破棄や回収を検討しましょう。
納品遅れで顧客に迷惑をかけないことなど経営を優先しがちですが、食中毒の事故を起こさないことを1番に考えなければなりません。
まとめ
ノロウイルスは感染力が非常に強く、食品工場や飲食店では、判断の遅れや対応ミスが集団食中毒や事業停止につながるおそれがあります。
重要なのは、「確定してから動く」のではなく、疑いの段階で被害を広げない判断と行動を取ることです。
まとめ
- ノロウイルスは確定を待たず、疑いの段階で判断・対応することが重要
- 発生時は「食品に触れさせない・広げない」現場対応を最優先
- 日常の手洗い・健康管理の徹底が最大の予防策
従業員に症状が出た場合は、食品に触れさせない、出勤停止を検討するなど初動対応を優先しましょう。
商品についても、「出せるかどうか」ではなく、「事故につながる可能性がないか」という視点で判断し、迷った場合は早めに保健所へ相談することが重要です。
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