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感染力の強いノロウイルス食中毒はどう予防する?適切な手洗いを徹底しよう

感染力の強いノロウイルス食中毒はどう予防する?適切な手洗いを徹底しよう

食中毒対策

飲食店衛生管理

ノロウイルス食中毒は、集団食中毒につながりやすく、食品事業の経営を揺るがす事態になる可能性があります。

製造した商品からノロウイルスが検出され、集団食中毒が起きてしまうと、消費者の健康に大きな影響を与えるだけでなく、営業停止や風評被害などで会社経営が傾いてしまうこともあるからです。

感染力が非常に強く、被害が拡大するリスクのあるノロウイルスに対して、どのようにして予防すればよいのかと頭を悩ませている事業者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、ノロウイルスの特徴や感染拡大事例、そして最も重要な予防策について詳しく解説いたします。

手洗いの徹底や食品製造工場でのリスク、さらにはHACCPコンサルタントがおすすめするノロウイルス対策グッズも紹介していますので、ぜひご覧ください。

ノロウイルスとは?

ノロウイルス食中毒は通年で発症する食中毒で、とくに冬に感染拡大しやすくなります。

令和4年の厚生労働省食中毒統計によると、ノロウイルスの患者総数は2,175名。細菌食中毒患者数の約40パーセントを占めています。

またノロウイルス食中毒は感染力が強く、令和4年では発生件数63件に対し患者数が2175人と、発生件数1件あたりの患者数が多いのも特徴の1つです。

これは、他の食中毒原因菌の中でもダントツトップの数値となっています。

参照:食中毒 - 統計資料, 厚生労働省

ノロウイルス食中毒の症状

ノロウイルス食中毒の主な症状は次の通りです。

  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 腹痛
  • 微熱

ほとんどの場合軽症で1~2日で回復しますが、乳幼児や高齢者は嘔吐物を吸い込み、肺炎や窒息を起こす恐れがあるので注意が必要です。

ノロウイルスは感染しやすいだけでなく、ワクチンがないため治療は対症療法に限られます。

またノロウイルスはウイルスを排出しなければ症状が治まらないため、下痢止めも使えません。

ノロウイルスの特徴

ノロウイルスに対抗するには、徹底的な予防策が必要ですが、具体的に何をすればよいのでしょうか。

予防策を講じる前にまずは、ノロウイルスの特徴を見ていきましょう。

少量の菌で発症

ノロウイルスは、10~100個程度の菌が体内に入っただけで感染し、発症します。

手指や食品を介して口から体内に入り、潜伏期間が1~2日と短いのも特徴の1つです。

さらにノロウイルスは非常に小さく、1mmの指紋に3万個もはいるほどのサイズしかありません。

手指にノロウイルスが付着すると、なかなか落ちにくいので手洗いの徹底が予防の鍵となります。

二枚貝が多く保持し、人の腸内でのみ増殖する

ノロウイルスは河口付近で養殖された二枚貝(シジミやカキ)が多く保持しています。

しかし二枚貝はノロウイルスを作り出しません。

二枚貝は人が排出した生活用水に含まれている、ノロウイルスを水とともに取り込み一定期間保持するだけです。

ノロウイルスを保持した二枚貝を人が食することで、感染します。

ノロウイルスは人の腸内でのみ増殖し、二枚貝や食品中では増殖しないことがわかっています。

また最近のノロウイルス食中毒は、二枚貝を食してからの感染よりも人から人への感染が主流となっています。

人から人への感染は、トイレの後の手洗いや嘔吐物の処理の不備などが主な感染原因となります。

乾燥に強く低温下で生存期間が延びる

ノロウイルスは乾燥に強く、低温下で生存期間が3倍にも伸びます。

20℃の室温下での生存期間は20日間ほどですが、乾燥した5℃の室温下では60日間も生存するのです。

よって、ノロウイルスは、低温下で乾燥しやすい冬季に感染拡大します。

アルコール消毒剤が効きにくい

ノロウイルスにアルコール消毒剤をかけても、塩素剤の100分の1しか効果がないため、感染者の嘔吐物や糞便の処理に向きません。

なぜならノロウイルスに感染した人の嘔吐物の中には10万個、糞便中には1億個ものノロウイルスが含まれており、塩素剤などの強い消毒剤でないと効果が期待できないからです。

だだ少量のノロウイルスに対して、アルコール消毒液は一定の効果があるので、手洗い後の消毒として使用すると良いでしょう。

また、最近では、ノロウイルスに効果的な手洗い洗剤や殺菌剤も市販されているので、流行時期に合わせてそのような商品を活用するのも効果的です。

食品製造工場でのノロウイルスリスク

食品を扱う製造工場は、高い衛生管理が求められる場所です。

ノロウイルスの感染拡大は食品の安全性はもちろんのこと、従業員の健康や業務にも影響を及ぼします。

ノロウイルスの恐ろしいところは、少量の菌でも感染拡大してしまうことです。

従業員に感染者がいたら、工場の共有スペースや調理器具を介して瞬く間に広がってしまいます。

そしてやっかいなのが従業員の中に、ノロウイルスに感染しているのに症状が出ない「健康保菌者」がいる可能性があることです。

健康保菌者は本人だけでなく周りも感染者だと気づかないため、知らず知らずの内に感染を広げてしまう恐れがあります。

自分自身がノロウイルスを持っているかもしれないと意識しながら手洗いなどの対策をする必要があります。

食品製造工場でのノロウイルス感染拡大事例

食品製造工場で発生したノロウイルス感染拡大事例は、数多くあります。

今回は、その中でもとくにインパクトが大きかった、東京都で発生した刻みのりが原因のノロウイルス食中毒事故を見てみましょう。

刻みのりによる食中毒事故は、2017年1月~2月にかけて複数の自治体の学校や事業所等で発生し、患者数は2,000人にもなりました。

この食中毒事故で驚くべきことは、1件あたりの患者数の多さだけではありません。

ノロウイルスの原因となった原因食品が、長期保存が可能で食中毒になりにくいとされている乾物の海苔であることです。

誰もが想像できなかった、海苔が原因のノロウイルス感染拡大から、当時マスコミでも大きく報道されました。

感染拡大の原因は、ノロウイルスの感染が疑われる症状があった従業員の1人が素手で海苔を取り扱ったからです。

たった1人のずさんな衛生管理が大規模な食中毒事故を発生させてしまったのです。

幸い亡くなった方はいないものの、ノロウイルスに感染した患者の中には幼稚園児も含まれていました。

乳幼児はノロウイルス食中毒から脱水症状に陥るリスクが高いため、場合によっては命にかかわることもあります。

この事件から、非加熱でそのまま喫食する食品、加熱後に手で触れる作業のある食品の場合、手洗いや手袋の着用の徹底が重要であることがわかります。

また、ノロウイルス食中毒に対する従業員教育も重要です。

ノロウイルス食中毒の予防!事前の対策で冬季の営業も安心

ノロウイルスは、感染力が強く少量の菌でも発症してしまいます。そのため、食中毒三原則のなかでも「つけない」対策が非常に重要です。

!食中毒三原則

  • つけない
  • 増やさない
  • やっつける

感染者が調理した食品からもノロウイルス食中毒に感染してしまうので、食中毒三原則の+αである「持ち込ませない」対策も必要になります。

ノロウイルス食中毒の具体的な予防方法は次の通りです。

ノロウイルス食中毒の予防方法

  • 手洗いの徹底
  • 調理従事者の健康管理の徹底
  • 調理器具の消毒・除菌
  • 加熱調理をおこなう
  • 嘔吐物の処理方法を確認・訓練

それでは1つずつ見ていきましょう。

洗いの徹底(つけない)

ノロウイルスの予防で最も重要なのが、こまめな手洗いです。

飲食店や事業所では次のタイミングで手を洗うよう従業員に徹底させましょう。

手を洗うタイミング

  • トイレの後
  • 工場、厨房に入る前
  • 作業の切り替え時
  • 盛り付けなど手で食材を触る作業の前

また水洗いでささっと手の汚れを洗い流すだけでは、ノロウイルス食中毒は予防できません。

なぜならノロウイルスは非常に小さく、手のしわの間や爪の間に入り込んでしまうからです。

手洗い後は、紙ナプキンでしっかりと水気を拭き取り、ノロウイルスとともに新型コロナウイルス感染症予防のため、アルコール消毒液で手指を消毒します。

ノロウイルスに効果的なハンドソープ(イソジンウォッシュ)も販売されているため、流行時期だけハンドソープを切り替えるなどの対応も予防策の1つとなるでしょう。

手洗い後は、紙ナプキンでしっかりと水気を拭き取り、アルコール消毒液で手指を消毒します。

手洗いの手順は以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。

調理従事者の健康管理を徹底(もちこませない)

ノロウイルスを持ち込ませないよう、調理従事者の健康管理を徹底しましょう。

なぜなら、感染した調理従事者が食品に触れると、食品がノロウイルスに汚染され、喫食した人が感染してしまうからです。

発生しているノロウイルス食中毒事故の多くがこのパターンとなっています。

飲食店や製造業でノロウイルス食中毒が発生してしまうと、お客様に健康被害が出るだけでなく、保健所から指導を受けたり風評被害でお客様が離れたりと経営が立ち行かなくなる可能性があります。

経営者は従業員が体調の申告を正直に言い合えるよう、従業員とのコミュニケーションをとりましょう。

体調不良の従業員がいたら、すぐに休ませる体制を整えておくことも大事です。

ただ怖いのは従業員の中に、ノロウイルスに感染しているのに症状が出ない「健康保菌者」がいる可能性があることです。

とくに従業員本人が元気でも家族にノロウイルス感染者がいる場合、健康保菌者である可能性が高まります。

この場合、従業員の体調チェックではわからないので、冒頭で紹介した手洗いの徹底が重要になります。

清掃・洗浄のポイント(もちこませない)

ノロウイルスは厨房や工場内だけでなく、飲食店の場合はお客様が持ち込むケースもあります。

そのため、厨房や工場ないでどんなに気を付けていても、持ち込んでしまう可能性があるのです。

外からのノロウイルスを持ち込ませないようにするには、こまめな清掃・洗浄が有効です。

たとえば、次の場所はお客様および従業員がよく触れる場所なので、念入りに清掃・洗浄しましょう。

  • 食事をするテーブル、椅子
  • ドアノブ
  • コンセント
  • スイッチ
  • カラン
  • 決済端末など

また、ノロウイルスは保菌者の便から感染することもあるので、お客様用のトイレもできる限り頻回に清掃しましょう。

洗浄後の消毒は、ふき取りだけでノロウイルスや他の菌を除菌できる「ノロVウェットシート バケツタイプ」がおすすめです。

トイレに設置する手指の消毒液にも、ノロウイルスに効果があるものを選ぶのをおすすめします。

加熱調理を行う(やっつける)

ノロウイルスは感染力は強いですが、他の食中毒と同じく加熱調理で殺菌することができます。

中心温度85℃~90℃で90秒以上加熱しましょう。

とくに二枚貝はノロウイルスを保持している可能性が高いので中心部までしっかり火を入れます。

そのほか、85℃~90℃で加熱すると食品の品質を保てない場合は、加熱時間を長めにするなどの対応が必要です。

嘔吐物の処理方法を確認し、訓練をする(もちこませない)

ノロウイルスの症状の1つに突然の嘔吐があります。

飲食店の厨房や食品事業所内では、従業員の健康管理を徹底しているので、突然誰かが嘔吐するようなことはないかと思います。

ただ、訪れたお客様が突然嘔吐に見舞われることがあるかもしれません。

このようなときに、適切な処理をしないと事業所内や飲食店内にいる全ての人が感染してしまう恐れがあります。

そのような事態が発生しても適正な処理をすることで、担当する人への感染も予防できます。

用意するもの

  • 使い捨てマスク
  • 手袋
  • エプロン
  • ペーパータオル
  • ビニール袋(2枚以上)
  • 5%~6%の次亜塩素酸ナトリウム

!嘔吐物の処理手順

  1. 嘔吐した感染者を落ち着かせて嘔吐物から離れた場所で休ませる
  2. 周囲の人を嘔吐物から遠い場所へ誘導
  3. 手袋・マスク・エプロンを着用。窓を開けて換気を良くする
  4. 嘔吐物をペーパータオルで覆い、外側から内側に拭き取る。嘔吐物と手袋はビニール袋にすばやく入れて封をする。
  5. 次亜塩素酸ナトリウムに浸したペーパータオルを嘔吐物が付着した場所に覆って10分間おく
  6. ペーパータオルを処分し水拭きする
  7. ペーパータオルをビニール袋に入れて封をする
  8. 処理をするときに使用した手袋・マスク・エプロンも内側に畳みビニール袋に入れて処分
  9. 処理後は流水と石けんで2度手洗いをする

嘔吐物処理方法については、東京都が公開している動画で詳しく解説しているのでそちらもご覧ください。

また嘔吐物処理セットは、事業所に2~3セット用意しすぐ取り出せる場所に置いておきましょう。

ノロウイルスに一般的にあるアルコール消毒液は効果が薄いため、ノロウイルスに効果のある消毒液を使用するようにしましょう。

教えて!エッセンシャルさん!よくある質問Q&A

ノロウイルス食中毒について、よくある質問とその回答をエッセンシャルさんの中の人に聞きました!

食品事業に従事している人がノロウイルスに感染したら出勤停止になる?

インフルエンザや水疱瘡など、感染リスクが高い病気は法律により出勤停止の措置をとることが法律で定められています。

しかし、ノロウイルスは法律による出勤停止の対象となっていません。

ただ、飲食店や給食施設など食品を扱う業種では、ノロウイルス感染者が従事することで、大規模な食中毒を引き起こすリスクが高まります。

厚生労働省では、食品を扱う業者の事業主に対して、従業員にノロウイルス感染者が出た場合は、出勤停止の措置をとるよう指導しています。

この指導は法律と同じくらい強制力があり、違反した場合は追加徴税などの罰則を受けることがありますので覚えておきましょう。

製造現場にいる従業員がノロウイルスに感染していることがわかったら、出荷前の商品は破棄すべき?

商品の特性や製造現場にいる従業員がどういう作業に携わっていたかによって、リスクの度合いが変わります。

例えば、商品がそのまま消費者の口に入るのか、それとも加熱調理してから口に入るか、また現場で非加熱の商品や加熱後の商品を素手や不十分な手洗いのまま触れていたかどうかでも重大性の評価が変わります。

もし、そのような事象が起きた場合は、さまざまな角度から食中毒の事故につながる可能性や拡散性を考慮して破棄や回収を検討しましょう。

納品遅れで顧客に迷惑をかけないことなど経営を優先しがちですが、食中毒の事故を起こさないことを1番に考えなければなりません。

まとめ

冬に流行しやすいノロウイルス食中毒は非常に感染力が強く、少量のウイルスであっという間に発症してしまいます。

症状が出れば休むこともできますが、怖いのは症状が出ない「健康保菌者」からの持ち込みです。

また、もし食品を扱う事業所でノロウイルスが発生してしまったら、食品を介して感染拡大してしまう恐れがあります。

まとめ

  1. ノロウイルス感染予防の基本は適切な手洗い
  2. 従業員が健康報告できる体制づくりでノロウイルスを持ち込ませない
  3. 万が一を想定して嘔吐物処理方法の周知徹底をする

ノロウイルス予防で最も重要なのは、適切な手洗いをこまめに行うことです。

従業員が手洗い手順をいつでも確認できるよう、手洗い場にポスターを掲示し、ノロウイルスを持ち込まないようにしましょう。

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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