食物を乾燥させて保存性を高める乾物や干物の歴史は古く、1500年以上とも言われています。
乾物や干物は基本的に食物をそのまま天日や機械で干すだけで作れるのも、長く食されている理由の1つでしょう。
また乾物や干物は保存性を高めるだけでなく、乾燥させる食物によって旨味が増したりビタミンDが増したりするなどの効果もあります。
そこでこの記事では乾物が腐らない理由や乾物と干物の違い、それぞれの保管方法を解説します。
乾物が腐らない理由
乾物が常温でも腐らない理由は、加工段階で食材に含まれる水分を十分に抜いているからです。
食物に含まれる水分を減らすことで、腐敗の原因となる微生物やカビの繁殖を抑えることができます。
食物に含まれる水分は、たんぱく質や糖質と強く結合している「結合水」と束縛されずに自由に動き回る「自由水」の2つに分けられます。
このうち、微生物が増殖に必要とするのは「自由水」のみです。
食物を乾燥させ、保存性を高めるには「自由水」をいかに抜くことが重要になります。
なお、食物の保存性を高める方法は乾燥して水分を抜くだけではありません。
塩や砂糖を使った保存方法もあります。これは、塩と砂糖が「自由水」と結び付きやすい性質を利用した保存方法です。
ただ、塩分濃度や糖度が小さいと「自由水」が食物内に残り腐敗してしまう恐れがあります。
塩や砂糖を使って食物の保存性を高める方法は以下の記事をご覧ください。
水分活性とは
水分活性とは「自由水」が食品に占める割合を示した指標です。
水分活性は水分活性はAw(Water activity)で表し、1.00が自由水が最も多い状態を示します。
水分活性の値が小さくなるにつれて、自由水の割合が減るので食物が腐りにくくなります。
水分活性の高い食品は、鮮魚や精肉、野菜や果物などが該当し、水分活性はAw1.00~0.95と高い値です。
これら食品は、食べ物に含まれる「自由水」の割合が高いため傷みやすくなります。
逆に水分活性の値が低いと、「自由水」の割合が減少するため食物の保存性が高まります。
Aw0.85以下だと、食中毒菌は増殖できません。なぜなら、食中毒細菌の中でも水分活性に強い黄色ブドウ球菌の最低発育の水分活性の値がAw0.86だからです。
水分活性がAw0.85の製品であれば、ひとまず一般的な食中毒の心配はないでしょう。
しかしながら、水分活性の値がAw0.85ではカビの増殖は抑えられません。
水分量をコントロールし、食品を長持ちさせたい場合、水分活性をAw0.70以下に抑えて食物中の「自由水」をしっかり抜く必要があります。
水分活性の値 | 数値以下の水分活性で抑えられる微生物例 | 代表的な食品 |
---|---|---|
1.00~0.95 | - | 生鮮食品(魚・肉・野菜)、卵、パンなど |
0.95~0.91 | 乳酸菌、腸炎ビブリオ、乳酸菌 | 半乾燥肉製品(セミドライソーセージ)中程度熟成チーズ、果汁 |
0.91~0.87 | 酵母 | サラミソーセージ、長期熟成チーズ、シラス干し、塩鮭、スポンジケーキ |
0.87~0.80 | 黄色ブドウ球菌 | 小麦粉、米、豆類、フルーツケーキ、イカの塩辛 |
乾物と干物の違いとは?
乾物と干物はどちらも食物を乾燥させ、食物中の水分を減らし保存性を高めている点は同じです。
これら2つの違いは、常温で保存できるか否かによって分けられます。
乾物は、常温で保存できるまで乾燥させた保存食品のことを言います。
乾物は以下の食品が当てはまるでしょう。
乾物に分類されるもの
- 切干大根
- 干ぴょう
- 乾燥ワカメ
- 出汁昆布
- スルメ
一方、干物は保存性を高めるというよりも、旨味を増すため適度に食品を乾燥させ食物の水分を抜いたものです。
生鮮食品よりも保存性は高いですが、乾物のように常温下で保存すると微生物が繁殖し腐敗してしまいます。
干物は魚介類を使った食品が多いのが特徴です。
乾物や干物を保管するときの注意点
乾物と干物は保管条件の違いにより分けられることがわかりました。
では、具体的にどのように保管すればよいのでしょうか。
ここからは、乾物と干物を保管するときの注意点をご紹介します。
乾物を保管するときの注意点
乾物を保管するときは湿気が入らないよう注意しましょう。
乾物は文字通り食品が乾燥しているため、湿気を吸収しやすいからです。
常温で保存していても、湿気の多い場所で保管してしまうと吸湿し、カビが生えてしまいます。
さらに乾物は、虫が付きやすいので注意が必要です。
乾物は虫にとってごちそうのようなもの。虫の種類によっては、ビニール袋を突き破ってしまう事もあります。
常温下で保存する場合は、そのままではなく食品用保存袋に入れるなど防湿・防虫に努めましょう。
梅雨時期や夏場など湿気が多い季節は、ジップロックに入れても開閉する度に食品に水分がついてしまう恐れがあります。
低温で乾燥した冷蔵庫で保管すると、防湿できさらに虫もつきにくくなるのでおすすめです。
干物を保管するときの注意点
干物は乾物と異なり微生物が使える水分がまだ残っている状態なので、必ず冷蔵保存しましょう。
また干物を冷蔵庫に入れて乾燥し過ぎると触感が悪くなってしまいます。
空気を抜くようにラップで包み、ジップロックに入れておくと安心です。
また干物は冷蔵保存していても、賞味期限は短く3~4日になります。長期保存したい場合は冷凍保存しましょう。
冷凍保存した場合の賞味期限は2~3週間です。冷凍保存した干物を食べるときは、解凍せずそのまま焼くと風味を損なわずにすみます。
新しい乾燥技術フリーズドライとは
フリーズドライとは、凍結させた食品を真空状態に置き、食物中の水分を昇華させて乾燥させる技術のことです。
乾物や干物と同じく保存性を高める食品の1つとして、注目されています。
フリーズドライの技術は元々、食品の分野ではなく、救急医療の分野で輸血用の血液を遠隔地の病院へ運ぶために開発されました。
日本でフリーズドライ食品の参入が始まったのは1960年代で、即席麺を中心に生産規模を広げています。
フリーズドライ食品のメカニズム
フリーズドライは私たちの身近にある物理的現象を利用した乾燥方法です。
水は温度変化によって、【氷(個体)→水(液体)→水蒸気(気体)】へと変化します。
しかし、それは私たちが普段生活している環境での物理的現象です。
これが真空状態になるとこの物理的現象が変わります。
真空状態で気圧が低くなると氷(個体)が水(液体)の状態を経ずに水蒸気に変化する現象が起きるのです。
真空状態での【氷(個体)→水蒸気(気体)】への変化は昇華と呼ばれ、フリーズドライはこの現象を利用して次のように作られます。
フリーズドライ食品のメカニズム
- 凍結:食品を冷凍庫に入れて食品中の水分を凍結させる
- 減圧:凍ったままの食品を乾燥した部屋に入れて、真空ポンプで室内の気圧を下げる
- 乾燥:食品を加熱し食品中の氷となった水分を昇華させる
フリーズドライ食品の特徴
フリーズドライ食品には次のような特徴があります。
- 色・香り・栄養素の変化が少ない
- 水やお湯をかけるだけで元の状態になる
- 長期保存・携行が可能
乾物や干物のように時間をかけて天日干しで乾燥させたり、機械干しにより高温下で乾燥させたりすると熱に弱いビタミンなどの栄養素が損なわれたり、形状が変化したりします。
しかし、フリーズドライは低温で乾燥させるため、素材の香りや色、栄養素などの変化をできるだけ抑えることが可能です。
水を含むと元の状態にすぐ戻るのも特徴の1つで、普段の食生活に活用できるのはもちろんのこと、常温下で長期間保存できるので、災害時の避難食としても注目されています。
まとめ
乾物は乾燥により食物中の水分を抜いているため、常温下でも腐りません。
しかし、食品中の水分が適度に残っている状態の干物は、常温下に置くと微生物が増殖し、腐ってしまいます。
干物は冷蔵庫または冷凍保存して保管するようにしましょう。
まとめ
- 乾物と干物の違いは食品中に含まれる水分量と保存方法
- 乾燥により水分活性をAw0.70以下に抑えると常温下で保存できる
- フリーズドライ食品は真空状態を利用して食物を乾燥させる
また近年は、フリーズドライ食品も注目されています。
フリーズドライ食品は、常温下でも長期保存が可能で、水やお湯を加えるだけで元の形に戻るため、災害向けの食品に多く活用されています。
フリーズドライ食品の商品開発はまだまだ可能性が大きく、今後もさまざまな場所で目にする機会が増えるでしょう。
自社の商品開発するときには、味や食感・品質だけでなく賞味・消費期限をできるだけ長く保つための製造方法も検討してみてはいかがでしょうか。
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