リステリアは食中毒菌の1つです。
ノロウイルスや黄色ブドウ球菌と異なり、日本での年間発症数はごくわずかで、発症しても重症化することはまれなので、国内では取り上げられることが少ない食中毒となっています。
しかしながら、リステリアは妊婦や高齢者などハイリスク集団に該当する人が発症すると重症化の恐れがあるため注意が必要です。
諸外国では致死率が高い食中毒菌として注目されています。
今回は、第一回質問コーナーの回答として、リステリア食中毒とは何か、原因食品や食中毒の防止策をご紹介します。
リステリア食中毒とは?
リステリア食中毒とは、リステリア・モノサイトゲネスという細菌によって引き起こされる食中毒です。
リステリア・モノサイトゲネスは、河川や動物の腸管内など大腸菌と同じく私たちの環境下に広く生息します。
食品安全委員会の評価によると、日本でのリステリア食中毒の患者数は年間200人前後と言われています。
日本での年間発症数が少ないため、厚生労働省が毎年集計している「食中毒統計」で、リステリア食中毒は集計対象となっていません。
リステリア食中毒は、健康な成人が感染しても重症化することはほとんどありません。
しかしながら、妊婦、高齢者、免疫力の低下した人などハイリスク集団に該当する人が、リステリア食中毒に感染すると、重症化する恐れがあるため注意が必要です。
海外の統計でも、食品由来のリステリア食中毒の感染率は、年間住民100万人あたり0.1~10人と非常に少なくなっています。
ただし、重症化すると致死率が高いため世界保健機関(WHO)でも注意喚起を行っています。
リステリアの特徴
リステリアには2つの大きな特徴があります。
1つ目が4℃以下の環境下でも増殖できることです。
一般的に食品を冷蔵保存すると、食中毒菌は増えないと思われがちですが、リステリアは低温環境下でも増殖するため安心できません。
2つ目が酸性の環境下や塩分濃度12%以上の環境下でも増殖できることです。
この2つの特徴から通常の食品保存方法では、菌の増殖を完全に排除できない難しさがあります。
ただ、健康な成人がリステリア食中毒を発症するには、多くの菌数が必要です。
そのため食品事業者は、完全な排除ができなくても製造工程内でリステリアをできる限り増やさない対策をすれば問題ありません。
リステリア食中毒の症状
リステリア食中毒の症状は、一般的な細菌性食中毒であらわれる嘔吐や下痢など急性胃腸炎のような症状はあらわれません。
初期症状では、38℃~39℃の高熱や頭痛などの症状があらわれます。
症状の程度によって、次のような症状が見られます。
- 初期症状: 発熱、筋肉痛、悪寒、嘔吐
- 重篤な症状: 髄膜炎、敗血症、呼吸困難
- 妊婦の場合: 流産、早産、胎児感染
妊婦が感染すると、胎児に深刻な影響を与えるリスクが高まるため、注意が必要です。
これらの症状は、感染から数日から数週間後に発症するため、感染源を特定することが困難な場合もあります。
リステリアに気を付けるべき食品
リステリア食中毒のリスクが高い食品とは、喫食前に加熱処理のない調理済食品(RTE食品)で、低温で中・長期間保存する食品です。
チーズなどの乳製品や生ハムなどの食肉加工品が該当します。
日本とアメリカ合衆国ではリステリア食中毒のリスクが高い食品が異なるため、確認しておきましょう。
アメリカで注意喚起されている原因食品
米国食品医薬局(FDA)の調査によると、アメリカのリステリア食中毒の件数は年間1600件、そのうち15%にあたる約260人が死亡しています。
アメリカで発生したリステリア食中毒の主な原因食品は次の通りです。
- 加工肉類:ハムやサラミ、肉を使用したスプレッド(パンやクラッカーに塗る食品)ランチョンミート、デリミート
- 未殺菌乳製品:無殺菌の乳製品
- 加工魚類:スモークサーモン、冷製の魚介類の燻製
ホットドッグは生ハムと異なり一度加熱処理がされている食品です。
しかしながら調理後にリステリア菌が付着し、喫食までの時間が長いとリステリア菌が増殖し食中毒を発症してしまうことがあります。
日本で注意喚起されている原因食品
日本では、リステリア食中毒リスクの高い食品として生野菜や加工肉類、乳製品が挙げられます。
なお、日本で起きたリステリア菌による集団食中毒は、2001年のナチュラルチーズが原因の食中毒事件です。
この食中毒事件での死亡者は出ていません。この食中毒は、チーズの加工途中によるリステリア菌の汚染が原因となっています。
リステリアは食品衛生法で規格基準が定められている
食品衛生法では、2019年12月にリステリア菌の規格基準が定められています。
リステリアの規格基準
- 対象食品:非加熱食肉製品(生ハムなど)・ナチュラルチーズ(ソフト、セミハード)
- 基準値:100cfu/g以下(1gに対しリステリア菌は100個以下)
日本でのリステリアによる集団感染は非常にまれですが、アメリカを含む海外ではナチュラルチーズやハム、コールスローなど、RTE食品が原因による食中毒が多発しているためです。
そのため、規格基準により食品中のリステリア菌の許容量を定めています。
「リステリア菌を完全除去しなくてもよいのか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
リステリア菌は私たちの環境下のいたるところに生息しているため、菌をゼロにするのは不可能に近いです。
そのため、リステリア菌の規格基準を設け、事業者に対し食品中のリステリア菌を増やさない対策をするよう注意喚起しています。
リステリア菌が検出された場合、速やかに製品の回収や廃棄が求められ、消費者の安全を確保するための措置が講じられます。
このように、リステリア菌に対する法律的な規制は、食品業界において非常に重要な役割を果たしています。
リステリア食中毒の予防策
リステリアは、低温下や酸性下でも増殖する強力な菌です。
リステリアは他の食中毒菌のように加熱処理によって、殺菌できます。
しかしながら、リステリア食中毒の原因食品の多くは、加熱処理のないRTE食品や生食のため製造工程内での殺菌は難しいでしょう。
このことからリステリア食中毒のリスクがある食品を扱う事業者の中には、どのようにして食中毒を防ぐか悩んでいるところもあるかもしれません。
ここからは、リステリアを「つけない」、「増やさない」、そして「やっつける」ための具体的な予防策を詳しく解説します。
リステリアをつけない対策
リステリアをつけないためには、調理器具や製造機器の洗浄・殺菌を徹底することが重要です。
リステリアは私たちの生活環境下のいたるところに生息しているため、衛生管理が徹底している製造現場でも意図せず入ってしまうことがあります。
包丁やまな板などの調理器具や食品に触れる製造機器の部品などは、使用後にすぐ洗浄し、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤でしっかりと消毒しましょう。
たとえ加熱処理がある食品であっても安心してはいけません。
調理が済んでから包装するまでの間にリステリアが付着する可能性があります。
リステリアが付着しないよう、調理完了から放送されるまでの衛生管理も徹底しましょう。
そのためには、作業エリアや作業台の定期的な洗浄・殺菌が不可欠です。
使用する調理器具の洗浄・殺菌はすぐにできるものの、使用する機器を洗浄する場合、どこの工程のどの部品を洗浄・殺菌すればよいのか、わからないこともあるでしょう。
このようなときは、原材料目線で考えるのがおすすめです。
自分が原材料になった気分で、製造工程をどのように流れるのかイメージし、どの製造工程でどのような機器の部品に接触するのかを考えるとわかりやすいでしょう。
それらをピックアップしていけば、洗浄・殺菌すべき機器の部品が見えてくるはずです。
リステリアを増やさない対策
リステリアはどんなに気を付けても食品に付着してしまうことがあります。
ただし、リステリアは食品中で大量に増殖しないと食中毒は発症しません。
そのため、食品中にリステリアが付着しても増やさない対策を講じれば食中毒を防げます。
リステリアは、0℃~45℃の温度帯で増殖します。
その中でも30 ~37 ℃の温度帯で最も増殖するため、この温度帯を避けるための対策が必要です。
増殖スピードを抑えるためには、製造工程内で品温をできるだけ上げないようにしましょう。
そのための具体的な対策は次の通りです。
品温をできるだけ上げないようにする
- 食材を洗浄するときは冷水
- 厨房や製造現場の温度は品温が30℃以上にならないよう低めに設定
- 乾燥機から取り出してすぐの調理器具は高温なので十分冷ましてから使用する
- 商品の保管・流通(運送・販売時)の温度も品温が上がらないよう低めに設定
また、作業台や調理器具の品温に気を付けていても、作業者が商品に長く触れていると商品に体温が伝わってしまいます。
また常温下に商品を置く時間が長くなればなるほどリステリアの増殖リスクが高まります。
製造時の作業者の素早い作業も、リステリア食中毒を防ぐのに有効です。
加熱処理以外でリステリアをやっつける対策
リステリア食中毒のリスクが高い食品の多くは、RTE食品や生食など加熱処理の工程がない商品です。
高リスクな食品のリステリアをやっつけるには、加熱以外の処理が必要になります。
具体的には次の通りです。
処理方法 | 詳細 |
---|---|
次亜塩素酸ナトリウム | 生野菜を加工する祭には、適量に薄めた次亜塩素酸ナトリウム溶液に一定時間浸してから洗浄すると殺菌できる |
電解水 | 電解水は水を電気分解しアルカリ性の部分を取り出しているため酸性に強いリステリアを殺菌できる |
紫外線殺菌 | 紫外線によって野菜の表面に付着したリステリアを無害化したり増殖を抑制したりすることができる |
リステリア食中毒を防ぐための検証
リステリア食中毒リスクの高い食品の多くは、RTE食品や生食など加熱処理の工程のない食品です。
加熱処理以外にもリステリアの数を減らしたり、増殖を抑えたりする方法はありますが、その方法を製造工程内に入れたとしてもリステリア食中毒を完全に防ぐことはできません。
そのため、事業者の中には「基本的な対策はやっているけれども、本当にリステリア食中毒を防げるのか」不安に思っている人もいるのではないでしょうか。
ゼロリスクにはならないけど、ゼロリスクを目指し、また検証を行うことで不安を解消することはできます。
ここからは、リステリア食中毒を防ぐための検証方法を解説します。
自社でできる検証
「リステリア食中毒を防止するための対策をしている」といっても、そのやり方が間違っていれば食中毒が発生してしまいます。
自社で実施しているリステリア食中毒対策は適切なのか、確認するためにも定期的な検査をしましょう。
ふき取り検査・ATP検査
調理器具や機器の洗浄・殺菌が十分にできているかどうかは、ふき取り検査やATP検査で確認できます。
洗浄不十分でたんぱく質汚れが残っていないか、確認しましょう。
また、製造工程や製造現場の衛生管理が徹底していても、作業員の作業着やエプロンが汚れていたら汚染のリスクが高まります。
従業員の服装チェックなどもリステリア食中毒を防ぐために必要です。
品温チェック
品温を上げないような対策をしていても、やり方が間違っていたら品温がリステリアが増殖しやすい温度になっている可能性があります。
定期的に品温チェックを行い、調理時や加工時にリステリアが増殖しやすい温度帯にならないか確認しましょう。
特に繁忙期や人員が不足するなどの場合、工程が滞留が発生し、品温が上がるケースが考えられます。
事故はいつもと違う時に違う条件が重ねって発生に繋がることが多いため、通常時と合わせて、滞留が発生しやすい時期やタイミングなどを把握し、その際でも大丈夫かの検証を行います。
また、品温を測るための測定機器に問題があった場合、正確な値がわからず、リステリアが増殖しやすい品温に達してしまう恐れがあります。
品温を測るための測定機器は定期的に校正を行い、正しい値が取れるようにしておきましょう。
第三者機関に依頼して実施する検証
定期的に最終製品を第三者機関が実施する微生物検査に出しましょう。
日々の検証活動としては自社検査でも良いですが、検査員の力量によっても結果が左右されるため、第三者に依頼することにより結果への信頼度は上がります。
第三者機関に微生物検査を依頼し、商品内のリステリアの数をチェックすることにより、リステリア食中毒や他の食中毒の予防策が適切かを数値で確認することができるでしょう。
第三者機関の検査の結果で、商品中のリステリアが基準内に収まっているのであれば過度な心配は必要ありません。
しかしながら、過信はしないようにしましょう。
検証と並行して従業員教育も実施
リステリア食中毒対策の検証も大事ですが、それと並行して定期的な従業員教育も実施しましょう。
商品を製造する従業員にリステリアの知識がなければ、誤った作業方法や衛生管理で商品を製造してしまう恐れがあるためです。
従業員教育をする際には、リステリア食中毒を防ぐための方法や手順をただ説明するのでは不十分です。
「なぜ自社の商品はリステリア食中毒のリスクが高いのか」 「なぜその工程でリスクが高まり注意しなければならないのか」など理由も合わせて解説します。
また注意していても、人は忘れやすい生き物です。
1回だけの解説では不十分なので、定期的に従業員教育を行い、従業員にリステリア食中毒対策の方法を定着させましょう。
まとめ
リステリアは4℃以下の低温下や塩分濃度12%以上の酸性下でも増殖可能な食中毒菌です。
また加熱工程のない生食やRTE食品が原因食品なので、食中毒を予防するにはリステリアを増やさないよう調理器具の消毒や除菌、食品の温度管理が重要になります。
まとめ
- リステリア食中毒を防ぐには適切な温度管理が重要
- リステリアは4℃以上でもゆるやかに増殖するが30℃~37℃で最も増殖するのでその温度帯に近づかない対策が必要
- 妊婦がリステリア食中毒にかかると胎児に重篤な影響が出る
リステリア食中毒の発症菌数は1gあたり100万個と大量なので、健康的な成人が食中毒を起こすのは非常にまれです。
ただしハイリスク集団に該当する人が喫食すると、少ない菌数でもリステリア食中毒を発症するリスクがあるため注意しましょう。
近年では、加熱処理なしでリステリア菌をやっつける工程もありますが、いずれも効果は不確定です。
基本的な食品衛生管理を徹底して、リステリア食中毒を防止しましょう。
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