パスタやチャーハンなどを調理したまま、常温でそのまま放置していませんか?
「食べるのは数時間後だけど、加熱しているし冷房も効いているし、調理したばかりで冷蔵庫にも入れられないからそのままで大丈夫でしょう!」と軽く思っている人もいるかもしれません。
しかしながら、麺類やご飯類など穀物の調理済み食品を常温のまま長時間置くと、セレウス菌食中毒発症の恐れがあるため大変危険です。
セレウス菌は増殖してしまうと加熱しても失活しにくく、適温に達すると爆発的に増加します。
この記事では、セレウス菌とはなにかその特徴や症状、ウェルッシュ菌との違いについて解説します。
この夏、パスタやご飯類の作り置きを検討している方はぜひご覧ください。
セレウス菌食中毒とは
セレウス菌は、土の中や河川などの自然環境や農産物、水産物等の食料など広く分布している通気性嫌気性菌です。
通気性嫌気性菌とは、酸素があってもなくても活動できる菌のことを言います。
黄色ブドウ球菌やサルモネラ菌などの食中毒菌と同じく、10℃~50℃の間で増殖します。
10℃以下の低温下では、増殖スピードが弱まりますが7℃以下でも増殖することもあるため注意が必要です。
最大の特徴として、ウェルシュ菌やボツリヌス菌と同じく芽胞とよばれる特殊な構造をつくることで、芽胞は悪条件下でも生き続けます。
芽胞は熱に強い
セレウス菌がつくる芽胞は、熱に強く100℃で30分以上加熱しても死滅しません。
セレウス菌の芽胞は、悪条件下では固い殻に追われた休眠状態を維持しますが、28℃~35℃の温度帯になると発芽し増殖します。
そして、増殖時に出す毒素により食中毒の症状があらわれます。
嘔吐型と下痢型がある
セレウス菌食中毒はつくられる毒素の種類によって嘔吐型と下痢型の2種類に大別されます。
日本で発生するセレウス菌食中毒のほとんどは、嘔吐型です。
セレウス菌食中毒の嘔吐型は、食品に付着したセレウス菌が食品内で増殖するときに、芽胞から排出された毒素によって発症します。
一方、下痢型は食品に付着したセレウス菌をそのまま喫食し、腸管内でセレウス菌が増殖するときに産出された毒素により発症します。
セレウス菌食中毒は、嘔吐型・下痢型いずれも人から人への感染はありません。
穀物(ご飯類)で発生しやすい
セレウス菌食中毒の嘔吐型、下痢型でそれぞれ原因食品が異なります。
原因食品 | |
---|---|
嘔吐型 | ご飯類(チャーハン、ピラフなど)や麺類(焼きそば、パスタなど)が多い |
下痢型 | バニラソース、スープ類、プディング、ソーセージ、肉 類、野菜など多種の食品 |
セレウス菌は穀物を好み、調理済のご飯やラーメン、パスタなどの麺類で食中毒が多く発生しています。
その他にも魚介類・肉類・卵類・野菜及びその加工品、乳製品や菓子類が原因食品になった食中毒事例もあります。
セレウス菌とウェルシュ菌の違い
セレウス菌と同じく、芽胞を生成する菌にウェルシュ菌があります。
どちらも芽胞は、熱に強く増殖時に毒素を排出するのは変わりません。ウェルシュ菌 | セレウス菌 | |
---|---|---|
菌の属性 | 偏性嫌気性菌 | 通気性嫌気性菌 |
熱への耐性 | あり | あり |
潜伏期間 | 平均6時間 |
|
生成する毒素 | エンテロトキシン |
|
ウェルシュ菌もセレウス菌の大きな違いは菌の属性です。
ウェルシュ菌もセレウス菌もどちらも嫌気性菌に属しますが、菌の種類が異なります。
ウェルシュ菌は、偏性嫌気性菌であり大気レベルの濃度の酸素に触れると死滅します。
一方、セレウス菌は通性嫌気性菌であり、大気レベルの濃度の酸素に触れても死滅せず、生育することが可能です。
セレウス菌食中毒の症状
セレウス菌食中毒は、嘔吐型と下痢型の2種類にわけられます。
嘔吐型 | 下痢型 | |
---|---|---|
発症菌数 | 1gあたり100万個 | 1gあたり100万個 |
潜伏期間 | 30分~6時間(平均3時間) | 8時間~16時間 |
症状 | 吐き気や嘔吐 | 下痢・腹痛 |
原因食品 | 穀物類(ご飯・麺類) | 肉類・野菜類・乳製品など |
それぞれの特徴を見てみましょう。
嘔吐型のセレウス菌食中毒の特徴
日本で発生するセレウス菌食中毒のほどんとは、嘔吐型です。
発症すると吐き気や嘔吐の症状があらわれ、一部で下痢の症状も出ます。
嘔吐型はご飯や麺類など穀物の加工食品が原因で発症しやすいことがわかっています。
セレウス菌は耕地の土壌に多く分布していることから、米やソバ、豆類などの農産物に付着していることが多いからです。
農産物に付着しているセレウス菌はごくわずかで発症菌数に及びません。
しかし菌とともに芽胞が付着していることがあり、やっかいなことに芽胞は加工時の加熱でも死滅しません。
その結果、調理済のご飯やパスタが危険ゾーンの温度帯に入ったときに、食品中の芽胞が発芽し菌が爆発的に増えてしまうのです。
嘔吐型のセレウス菌食中毒は特別な治療法は不要で、対症療法で治療していきます。
セレウス菌食中毒の事件数と患者数の特徴
直近セレウス菌食中毒の直近5年間の発生状況はどのようになっているのでしょうか。
以下にまとめてみました。
西暦 | 食中毒事件数 | 患者数 | 死亡事故 |
---|---|---|---|
2023年 | 2 | 11 | 0 |
2022年 | 3 | 48 | 0 |
2021年 | 5 | 51 | 0 |
2020年 | 1 | 4 | 0 |
2019年 | 6 | 229 | 0 |
セレウス菌食中毒の事件数、患者数ともにそこまで多くないことが見て取れます。
しかし、これはあくまでも、医療機関にかかって報告があった食中毒事件数です。
セレウス菌食中毒は、健康な人がかかっても軽症であることが多いことから、報告されていないセレウス菌食中毒が多いことが予想されます。
この数はあくまでも目安なので、食中毒対策はきちんととりましょう。
セレウス菌食中毒の発症時期
過去5年間の月毎のセレウス菌食中毒事件数と患者数を集計した結果は次の通りです。
月 | セレウス菌食中毒事件数 | 患者数 |
---|---|---|
1 | - | - |
2 | - | - |
3 | - | - |
4 | - | - |
5 | - | - |
6 | 2 | 36 |
7 | 4 | 94 |
8 | 3 | 34 |
9 | 1 | 4 |
10 | 3 | 19 |
11 | 3 | 56 |
12 | - | - |
セレウス菌は、25℃から35℃の温度帯で増殖しやすくなります。
そのため、夏の期間6月~8月にかけての発症数が多くなっています。
とくに7月はレジャーなどでお弁当を頼んだり、持ち込んだりする機会も多く、調理後から喫食までの時間が長くなりがちです。
そのため、患者数も最も多くなっています。ところが、近年では夏の期間以外もセレウス菌食中毒が発生しやすい状況です。
暖冬傾向であることも1つの要因ですが、コロナ禍によりテイクアウトや宅配向けの商品が増えたことにより季節問わず、セレウス菌食中毒のリスクが高まっています。
セレウス菌食中毒が発生しやすい場所
過去5年間のセレウス菌食中毒の発生件数は17件で,そのうち約60%が飲食店で発生しています。(17件中11件)
次いで製造所(17件中2件)となっており、家庭・給食室・仕出し屋・その他がそれぞれ1件ずつ発生しています。
セレウス菌食中毒は飲食店をはじめ、食事提供量の多い施設での発生が多いのが特徴です。
夏の季節は、飲食店はもちろんのこと仕出し弁当や宅食事業所などでの発生リスクが高まるため注意しましょう。
セレウス菌食中毒の予防方法
セレウス菌食中毒は土壌や河川など自然界に広く生息しているため、持ち込まないようにするのは不可能です。
食中毒を防ぐには、食品中のセレウス菌数をできるだけ減らす対策が有効になります。
ここからは、セレウス菌食中毒の予防方法を3つご紹介します。
調理から喫食までの時間を短くする
調理済のご飯類や麺類の作り置きはできるだけ避け、加熱調理後はすぐに喫食するようにしましょう。
菌が増殖する危険ゾーン温度帯(10℃~50℃)の時間が長ければ長いほど、食中毒のリスクが高まるためです。
セレウス菌が増殖する前に喫食または提供するようにしましょう。
やむを得ず作り置きする場合は、保管時の温度管理を徹底することが大事です。
保管時の温度管理
調理後、すぐに喫食できないときは、常温に放置せず保管時の温度管理を徹底させましょう。
常温に放置してしまうと、あっという間に危険ゾーン温度帯(10℃~50℃)に到達し、セレウス菌が増殖するためです。
保温で保管する場合は、60℃以上を保つようにします。
炊飯ジャーが長時間ご飯を保温できるのは、炊飯ジャー内の温度を60℃以上に保っているためです。
ただ、保温機能に過信してしまうと、劣化により保温機能が悪くなったり、蓋のパッキンの劣化により密閉ができなくなったりして保温温度が60℃を下回ってしまうこともあるため注意が必要です。
また、保温器で調理済食品を保管する場合は、食材をどの位置においても中心温度が60℃以上になるようにしましょう。
たとえば、ビュッフェなど保温し、温かい状態で提供する場合もどれくらいの時間で温度低下があって交換すべきか、検証をしておくと安心です。
小分け保存ですばやく冷却
調理済食品を冷蔵保存する場合は、危険ゾーンの温度帯の時間帯を短縮させるため小分け保存しましょう。
食品を小分けに保管すると、冷気や大気に触れる表面積が増えて食品をすばやく冷却できるためです。
まとめ
ご飯やパスタなど調理済の食品は一度火を通していることから、しばらく常温に置いても食中毒にはならないと思われがちです。
しかし、穀物類にはセレウス菌の芽胞が付着していることがあり、この芽胞は高温加熱しても死滅しません。
またセレウス菌の芽胞は食品中で発芽し、菌を増殖させるときに毒素を排出します。
そのため喫食してすぐに症状があらわれるため、注意が必要です。
まとめ
- セレウス菌食中毒には嘔吐型と下痢型がある
- 日本で発症するセレウス菌食中毒のほとんどが嘔吐型
- 症状が軽い場合は多いが高齢者や乳幼児がかかると脱水症により重症化することもある
セレウス菌食中毒を防ぐには、食品中の菌数を増やさない対策が有効です。
そのためには、調理済の食事はすぐに喫食する、喫食しない場合は、食品の温度管理を徹底するなどの対策をしましょう。セレウス菌食中毒について、感想やご質問があればぜひコメントにお寄せください。
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