新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛から、テイクアウトの需要が高まっています。
テイクアウトで欠かせないのが、食器の代わりとなるプラスチック製の器具・容器包装です。
食品に直接触れるプラスチック製の器具や容器包装は、調味料や温度によって有害物質が出ないよう安全が保証されたものを選ばなければなりません。
飲食店は、テイクアウトを安全に行うためにも食品衛生法の溶出試験の基準を通過した器具や容器包装を仕入れましょう。
今回は、食品衛生法の溶出試験は何か、安全なプラスチック製の器具や包装容器を仕入れるために飲食店がすべきことについて解説します。
なぜ?食品衛生法で定められた溶出試験を行う理由
食品用の器具や包装容器のほとんどは化学物質で構成されたプラスチックなどで作られています。
それらは 食品に触れることで化学物質が溶け出し、場合によっては人の健康を損なうなどのおそれ があります。
そのようなリスクを引き起こさないためにも、器具や包装容器から化学物質がどの程度溶け出すのかを測定するのが溶出試験です。
試験後、食品衛生法で定められた規格基準よりも化学物質が多く溶け出すことが判明した場合は製造や販売できません。
対象となるのは食品用の器具や容器、包装です。
また、乳幼児が舐めたり、飲み込んだりする可能性のある6歳未満を対象としたおもちゃも溶出試験を行う必要があります。
食品衛生法における溶出試験の方法
サルモネラ菌の発生が危害要因である場合を例にして、管理基準を決めるプロセスを解説しましょう。
試験方法 | 内容 |
---|---|
溶出試験 | 器具や包装容器から有害物質が溶け出さないかを確認する |
材質試験 | 器具や包装容器に使用されている基材に有害物質が混入していないかを確認する |
溶出試験では、食品の代わりとなる溶媒を試験対象となる器具や包装容器に付着し、有害物質の検出がないかを確認します。
容器に直接触れる食品を使わないのは、種類が多くさまざまな成分から構成されているからです。
さまざまな成分が検出されることから、分析方法が複雑になり限界範囲が広くなってしまうため、食品の代替として溶媒が使用されます。
代表的な溶媒は次の通りです。
溶媒 | 内容 |
---|---|
4%酢酸 | pH5以下の酸性食品を疑似 |
水 | pH5以上の食品を疑似 |
20%エタノール | 酒類を疑似 |
へプタン | 油脂及び脂肪性商品を疑似 |
溶出試験の手順をご紹介します。
溶出試験の手順
- 試験対象となる器具や容器に上記の溶媒(いずれか1つ)を満たし、一定時間放置
- 器具や包装容器から有害物質が検出されていないか溶媒を採取し分析
溶出試験では、器具や包装容器の材質により使用される溶媒や規制されている有害物質が異なります。
食品事業者が溶出試験について知っておくべき理由|実際にあったトラブル事例
ここまでの解説で、溶出試験は食品事業者にあまり関係ないと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし溶出試験にまつわる知識がないと、 食品用でない容器包装や器具の食品への使用で、発生するリスクを知らないまま食品事業に従事してしまう ことになります。
万が一、人体に有害な化学物質が溶け出し、お客様の口に入ってしまったら……と考えると非常に恐ろしいですよね。
実際にこういったリスクを知らないまま、トラブルを引き起こしてしまったケースはあります。
2020年に「風呂桶を食器や酒器代わりとして飲食店で提供し、販売元が注意喚起を行った」という出来事がニュースとして流れ、記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは入浴の際に使われるべき風呂桶を、飲食店で料理を盛ったり、お酒を入れたりしていた事例が発覚し、風呂桶の販売元がそういった不適切な使用をやめるよう呼びかけたというものです。
驚くべきことに、風呂桶を食器や酒器として提供した飲食店は1店舗ではなく、数十店舗にものぼっています。
飲食店側は「映え」やインパクトを狙って使用したのかもしれませんが、もちろん風呂桶は食品用に作られたものではなく、場合によっては何らかの化学物質が料理やお酒に溶け出す可能性があります。
もし飲食店側に溶出試験や容器包装や器具の安全性についての正しい知識があれば、このような事態には発展しなかったはずです。
幸い被害の報告はありませんでしたが、お酒に含まれるアルコールや熱い料理などは、容器の成分が溶出するのを促すため、万が一のリスクもあったと考えられます。
こういった事態を招かないためにも、飲食店など食品事業者は食品の容器包装、器具の安全性について正しく知っておきましょう。
食品用器具・容器包装のポジティブリストとは?
2020年6月、改正食品衛生法の施行によって、食品用器具・容器包装に 「ポジティブリスト制度」が導入 されました。
ポジティブリスト制度とは「安全性が確認された物質のみ使用できる」という規制のしくみです。
以前は「ネガティブリスト制度」が採用され、「規制されていない物質の他は自由に使用できる」と規制されていました。
しかしより国際的な整合性の確保を見据え、より安全性が高く合理的なポジティブリスト制度の導入となった次第です。
まずは 合成樹脂(プラスチック)のポジティブリストを先行して導入 しています。
将来的にはペットボトルや缶などその他の素材も対象となり、それまではこれまでの制度に沿って規制されます。
また、合成樹脂はポジティブリスト制度が導入されましたが、引き続きこれまでの規制も適用されるため、実際にはこれまでの制度にポジティブリスト制度が追加された形となりました。
参照:食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について|厚生労働省
食品事業者は溶出試験をクリアしている容器を選ぶべき
最近はテイクアウト需要の高まりから、持ち帰り用の容器や包装をこれまで以上に利用している飲食店は増えているのではないでしょうか。
業者から仕入れるだけでなく、100円ショップなど市販の物を利用しているケースもあるかもしれません。
市販のラッピングアイテムや容器などは必ずしも食品用とは限りません。食品以外の物を入れることを想定している場合もあります。
そのため、 購入の際は必ず食品衛生法の溶出試験に適合した商品かどうかを確認 するようにしましょう。
また、ポジティブリスト制度化にともない、企業間で情報提供もできるようになりました。
容器包装や器具の製造業者に、材料や使用している物質がポジティブリストに適合しているか確認し、溶出試験の結果などの情報を共有してもらうことが可能です。
テイクアウト商品の安全性を高めるためにも、食品事業者は容器包装や器具の製造業者に、SDS(安全データシート)の提出を求めるとよいでしょう。
SDS(安全データシート)とは?食品事業で化学物質による事故を防ぐための活用方法を解説
SDS(安全データシート)についてご存じでしょうか?今回は化学物質を含む製品を扱う際に確認しておくべきSDSについて詳しく解説します。...
まとめ:食品事業者も食品衛生法で定められた溶出試験について知っておこう
溶出試験そのものは容器包装のメーカーが第三者機関に依頼して実施するため、食品事業者に直接関係するわけではありません。
しかし食品用の容器包装や器具の使用にあたり食品事業者もその安全性を確保するため溶出試験の知識を得ておく必要があります。
まとめ
- 溶出試験は食品用容器包装や器具を使用の際に溶け出る化学物質を測定する試験
- 食品事業者は溶出試験をクリアした容器包装や器具を使うべき
新型コロナウイルス感染拡大により飲食店ではテイクアウト用の容器や包装を使う機会がグッと増えました。
安心して口にできる商品を提供するためにも、器具や容器包装の仕入れる際には、溶出試験をクリアしているか必ず確認しましょう。
テイクアウトをするときには、容器だけでなく食中毒にも十分気を付ける必要があります。テイクアウトの食中毒対策については以下の記事をご覧ください。
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