HACCPの管理基準の設定とは?モニタリング方法や不適合品が出た時の対応もチェック【HACCP導入手順8~10】
HACCP導入手順8~10
- それぞれのCCPに妥当性を確認したCLを設定する
- それぞれのCCPにモニタリング方法を設定する
- 改善措置を設定する
HACCP導入手順8では、導入手順7で設定した重要管理点(CCP)を適切にコントロールするための管理基準(CL)とモニタリング方法の設定作業を行います。
どのようにCLの設定や、モニタリングをしたらよいか分からない事業者の方も多いのではないでしょうか。
また、モニタリングによって不適合製品が発生してしまった場合、どのように対処すればよいのか迷ってしまうこともあるでしょう。
今回はCLの設定方法から、モニタリング方法の決め方、不適合製品の扱いについて分かりやすく解説します。
各CCPに妥当性が確認された管理基準(CL)の設定
管理基準(CL)とは、Critical Limitの頭文字をとった言葉です。 手順7で設定した重要管理点(CCP)が管理されているかを判断する指標を指します。
CLを設定することで、安全性が確保された製品とそうでない製品を区分けすることができます。
つまりCLに達していない場合、その製品の安全性は確保できていないこととになるのです。
温度や時間、pHの数値などがCLとして設定されることが多く、手順7で設定した各CCPごとに設定されます。
重要管理点(Critical Control Point:CCP)
特に厳重に管理する必要があり、かつ、危害の発生を防止するために、食品中の危害要因を予防もしくは除去、またはそれを許容できるレベルに低減するために必須な段階。必須管理点ともいう
管理基準は1つとは限らず、たとえば温度と時間など複数の管理基準が必要となる場合もあるため注意しましょう。
また、色やにおいなど官能的パラメータが管理基準となる場合もあります。
管理基準(CL)を設定するときの2つの条件
管理基準を設定する際には2つの条件があり、どちらも満たす必要があります。
!管理基準(CL)を設定するときの条件
- 危害要因が確実に予防・除去されていることを確認できる指標であること、かつ科学的根拠で立証された値である
- 可能な限りリアルタイムで判断できる値であること
まずは「危害要因が確実に予防や除去、またはリスクの発生しない許容範囲まで低減されていることを確認できること」が挙げられます。
たとえば「危害要因が食中毒菌であれば、確実に菌を死滅させられる温度で加熱殺菌すべき」などです。
注意したいのが、このときCLの値は科学的根拠によって立証されたものでなければならないという点です。
科学的根拠によって立証された値とは国や公的機関で公表されている値や、自社での実験データに基づいた値のことを言います。
「この程度の温度で死滅するだろう」などの食品事業者の自己判断でCLを設定するのはNGです。
もう1つの条件は「可能な限りリアルタイムで判断できる値であること」という点です。
異変はすぐに見つけなければ、安全性に問題のある製品がそのまま出荷されるおそれがあります。
したがって、温度や時間などリアルタイムで確認・判断できる値を管理基準に設定しましょう。
これらの条件を満たす管理基準を設定できなかった場合、危害要因を正しくコントロールできません。
安全性に問題のある製品が消費者の口に入り、食中毒などの事故が発生するリスクが高まります。
管理基準(CL)設定の具体例
サルモネラ菌の発生が危害要因である場合を例にして、管理基準を決めるプロセスを解説しましょう。
サルモネラ菌は75℃以上1分間の加熱で死滅するという科学的根拠があり、今回これがCCPとなります。
そこで「中心温度75度以上で1分間の加熱」を管理基準(CL)と設定できればよいのですが、中心温度が基準を満たしているかどうかを常に確認するのは難しく、現実的ではありません。
よってこのケースでは、「食品の中心温度が75℃以上を保てる製造条件」を管理基準(CL)として設定します。
一例として、食品の中心温度が75℃以上を保てる製造条件の管理基準(CL)は以下のようなプロセスで導くことが可能です。
管理基準(CL)を導くプロセス
- 工場内の実験で食品の表面温度と中心温度の関係性を調査
- 食品の表面温度が90℃以上になった場合、中心温度が75℃を維持できる
- 食品の表面温度が90℃になるためのオーブンの設定温度を検証
- 設定温度を180℃以上で10分間加熱したときに表面温度が90℃になる
これらの結果、「オーブンの設定温度が180℃で10分以上加熱する」という製造条件を商品の管理基準(CL)として設定することができました。
HACCPのモニタリング方法を決めよう!モニタリング方法の決め方は?(手順9)
手順9では、手順8で設定した管理基準(CL)のモニタリングシステムの設定を行います。
モニタリングとは製品が管理基準を満たしているか、常に確認して判断することです。
管理基準を正しく定めたとしても、常に達成されていなければ安全性は確保できません。
したがってモニタリングはCLのチェック機構として重要な役目を果たします。
とはいえ、商品の中心温度をひとつひとつ測るなど、現場に過剰な負担となる方法は現実的ではありません。
できるだけ簡単かつ、現実的な方法でモニタリングを行うことがポイントです。
モニタリングの具体例
ではモニタリング方法はどのように決定すればよいのでしょうか。具体例を挙げて解説しましょう。
危害要因はサルモネラ菌とし、除去するための管理基準(CL)は「食品を75℃以上で1分間加熱」という製造条件、製造工程は棚に設置されたオーブンを使用して加熱だと仮定します。
オーブンは棚の場所によって温度の上がり具合にばらつきがあり、棚のもっとも低い位置に設置されたオーブンの温度が上がりにくい性質があります。
したがって、最も低い棚のオーブンの温度が75℃以上あるかどうかをモニタリングすればOKです。
オーブンの温度を管理基準(CL)に設定した場合、モニタリングの頻度は製造条件にもよりますが、1~3時間に1回が目安です。
現場スタッフの負担が大きくならない程度にモニタリングの頻度を設定しましょう。
モニタリング後、担当者は実施した活動の結果と時間を忘れずに記録します。
HACCPのモニタリングで不適合品が出たときの処置(手順10)
モニタリングの結果、CLを達成しない不適合品が出た場合はどのように対処すればよいのでしょうか。
CLを逸脱した製品をモニタリングによって早く見つけ出し、排除できるしくみを作っておくことがHACCPシステムの大きな特徴です。
まず行うべきは不適合品の処置。さらになぜ不適合品が発生したのか原因を究明し、再発防止策を講じます。
実際に管理基準から逸脱した製品が発生してから対処の方法を決めるのではなく、迅速に対応するためにもあらかじめ定めておくようにしましょう。これが手順10にあたります。
一次不適合品の処置
管理基準を達成しない製品(一時不適合品)が発生したら、対処として3つの方法があります。
1.手直しする
もう一度同じ作業を繰り返すことで管理基準を達成し、元の工程に戻して対処する方法です
たとえば管理基準が75℃と設定されていたものの、温度を測定したら74℃だった場合、再度加熱することで元の工程に戻せます。
また、金属探知機で検査したときに、ブザーが鳴った場合、3回ほど試してみてブザーが鳴るか確認します。
このとき1回でも鳴った場合は廃棄となりますが、ならなければ製造ラインに戻す対応がとられることもあります。
2.他の商品に使う
管理基準はクリアできないものの、他の商品へ転用して対処する方法です。
たとえば生ものとして使うはずだった野菜の保存温度が管理基準よりも1℃高かった場合、加熱調理する別の製品の原材料として使うことができます。
3.廃棄する
手直しもできない、他の商品にも使えないのであれば、品質を保つために廃棄して対処します。
原因究明と再発防止策
不適合品が発生したら、原因究明と再発防止策を講じる必要があります。
あらかじめ原因を想定しておき、その対処方法を事前に決めておくことが重要です。
たとえば工程に無理があった場合、現場の担当者と工場長など責任者とで工程を見直す、人為的ミスであれば担当者とその上司などに話を聞き、改善策を検討するといった具合です。
改善策を検討する際には、外部の専門家を呼び改善策のアドバイスを受けることもあります。
まとめ:安全な食品を出荷するため適切なCLの設定とモニタリングをしよう
安心で安全な製品を出荷し、消費者に届けるためには適切な管理基準を設定し、監視・遵守する必要があります。
よいこととはいえませんが、管理基準を達成できない製品が発生した場合についてもあらかじめ予測しておき、その対処についても決めておきましょう。
まとめ
- 管理基準は2つの条件を守り適切に設定する
- 管理基準が守れているかきちんとモニタリングし、CLから逸脱した製品の対処も決めておく
正しい管理基準とモニタリングの方法を確立し、万が一の際にも迅速に対応できるよう、備えておきたいですね。
この記事は、【Codex 食品衛生の一般原則2020-対訳と解説】を元に作成しております。
食品安全マネジメントシステムの基準となる食品衛生の一般原理とHACCPの基本原理をわかりやすく解説した書籍です。ぜひご覧ください。
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