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ATP検査とは?メリット・デメリットや検査時の注意点を確認

ATP検査とは?メリット・デメリットや検査時の注意点を確認

食中毒対策

食中毒衛生管理

一見キレイに見える製造現場でも、意外と洗い残しや食材残渣があることがあります。

しかしながら、目に見えない汚れは製造現場のスタッフも管理者も見落としてしまいがちです。

これら目に見えない汚れを放置してしまうと、食中毒事故のリスクが高まるため大変危険です。

製造現場の衛生管理をチェックする方法はさまざまですが、今回は目に見えない汚れを手軽に誰でも検査できるATP検査をご紹介します。

ATP検査とは

ATP(アデノシン三リン酸)とは、植物、動物および微生物など有機物の細胞内に含まれるエネルギー分子の一種です。

ATP検査では、検査対象物に有機物(生物または生物の痕跡)がどれくらいあるのか、ATPの量を使って測る検査方法です。

ATP検査により調理場や調理器具、食器などの洗浄や清掃がきちんとされているかを誰でも簡単に計測することができます。

ATP検査では、検査対象物に付着しているたんぱく質の残量を数値化します。

ATP検査の数値が高いと、汚染度が高いと言えますがこれは必ずしも食中毒菌が多いということではありません。

ATP検査では菌に含まれるATPだけでなく、食中毒菌の栄養分となる食材残渣に含まれるATPも含まれているからです。

細菌検査のように、コストや時間がかからず、手軽にできる洗浄度検査として多くの企業や保健所で活用されています。

なぜ?ATP検査をする理由

ATPは植物、動物および微生物など生き物の細胞内に含まれています。

検査対象物にATPがある場合、そこに生き物もしくは生き物に由来した何かが存在するという意味を持ちます。

たとえば洗浄済の調理器具や製造機器のATP検査で高い数値が出た場合、洗い残しや食材の残渣などがあると言えるでしょう。

もしその調理器具や製造機器を再洗浄せずそのまま使用した場合、食中毒事故のリスクが高まるため大変危険です。

検査対象物のATPの数値が高かったら、再洗浄をするのはもちろんのこと、目に見えない食品残渣や洗い残しを防ぐため、洗浄方法の見直しをする必要があります。

また、ATP検査は食品製造の現場で次のような効果が期待できます。

アレルゲンの交差接触防止

ATP検査では、食品アレルギーのアレルゲンの特定はできません。

しかし目に見えない食品残渣や洗い残しを数値化できるので、検査対象物のアレルゲンの交差接触を未然に防げます。

製造現場の衛生意識を高める効果

ATP検査では検査対象物に存在するATP量約10秒で数値化されます。

そのため現場でATP検査を行い、その場でスタッフに数値を提示することで、洗浄不足をすぐに指摘することが可能です。

また、ATP検査は誰でもすぐに実施することができ、結果が数値で表示されます。

ATP残量の多さが指摘された調理器具や製造機器を継続的に検査することで、衛生管理の改善が数値でわかるので、スタッフの衛生意識の向上に繋がるでしょう。

逆に、ATPの数値が高くなっていくと洗浄不足やスタッフの衛生意識の低下が露呈されるため、食中毒事故になる前にスタッフの指導や洗浄方法の改善ができます。

調理器具や製造機器の清掃方法の見直し

ATP検査の結果、毎日洗浄しているはずの調理器具や製造機器の数値が高かったということもあるかもしれません。

この場合、今の洗浄方法では、目に見えない汚れを落としきれないので、洗浄方法を見直す必要があるでしょう。

ATP検査では、洗浄方法を見直した結果を数値でわかりやすく表示されます。

洗浄方法により、ATPの残量が減れば見直した後の洗浄方法は適切と言えるでしょう。

また洗浄方法を変更した後もATP残量が変わらなかった場合は、汚れを落としきれなかったことになるので、新たな方法を探す必要があります。

ATP検査の手順方法

ATP検査は4ステップで誰でも簡単に実施することができます。

ATP検査の手順方法

  1. 洗浄度を確認したい調理器具や機器に水道水で濡らしたサンプリング綿棒を満遍なく擦りつける
  2. サンプリング綿棒を試薬の入ったATP検査キットに入れる。試薬が綿棒に浸るよう軽く振る
  3. ATP検査キットををATP測定器に入れる
  4. ATP測定器の数値を確認する

検査対象物のATP残量を適切に計るため、サンプリング綿棒に手を触れないよう十分注意しましょう。

手に付着しているATPが検出され、正確な値が測定できません。

また、ATP検査が終わったら測定器から素早くATP検査キットを取り出します。

ATP検査に使用した試薬が測定器に入り込み、故障の原因になることがあるので注意が必要です。

ATPはどうやって測定されるの?

ATPの測定は、ホタルの発光時に起きる酵素反応を応用しています。

ATPはルシフェラーゼと呼ばれる酵素と反応するとAMPに変化します。

ATPからAMPに化学変化する際に、エネルギーを放出し発光するのです。

ATPの量が多ければ光が強くなり、ATPの量が少なければ光が弱くなります。

ATP測定器では、ATPがAMPに変化するときに発光する光の量を検出し、数値化しています。

ATP検査を行うタイミング

ATP検査を行うタイミングは、何を図りたいかによって変わります。

衛生度の高さが求められる箇所や場所の衛生管理が適切かどうかの検証であれば、一定期間毎日行う必要があるでしょう。

保健所の立ち入り検査前に抜き打ちでチェックすることもあるかもしれません。

そのほかにも、製造現場や厨房に以下のような変化や気づきがあった場合は積極的にATP検査をすることをおすすめします。

  1. 衛生管理担当者が替わった
  2. 洗浄剤や器具などに変更があった
  3. 原材料、または原材料納入業者が替わった
  4. 器具が老朽した、あるいは疲弊した
  5. 製品が変わった
  6. 工程あるいはラインが変更された
  7. 環境が変化した(例えば、季節、天候など)
  8. 自信過剰なところがあった
  9. 手抜きや悪習などを見過ごしていた
引用:NITTA モニタリング製品サイト|ATPふき取り検査 Q&A 集

ATP検査に掛かる費用

ATP検査に掛かるツールと費用の相場は次の通りです。

ATP検査に掛かるツールと費用の相場

  • ATPの本体:100,000円~150,000円
  • 試薬(ルミテスター):49,000円~12,000円(1回あたり490円~120円)
  • 校正にかかる費用(メーカーに提出しておこなう):メーカーによる見積り

ATP測定器のメーカーにもよりますが、本体の価格は10万円前後と高額です。

試薬は40本~100本まとめて販売されており、1回あたり120円~となっています。

1回あたり100円前後なのでそこまでコストはかかりませんが、ATP検査は一定期間、継続して数値を計測することも少なくありません。

ATP検査の頻度や検査対象物が多くなればなるほど、使用する試薬の数が増えるためコストがかかります。

ATP検査をするときの注意点

ATP検査では、同じ箇所や検査対象物の検査を継続的に行い洗浄方法やスタッフの衛生管理の取り組みの検証を行うこともあります。

継続的に検査を行い、検証する際にはいつも同じ手順・条件でふき取りを実施しましょう。

たとえばまな板の清浄度を検証するときに、1日目は端から端まで丁寧にふき取り検査をしたけれども、2日目以降は真ん中しかふき取りをしなかったとなると正確な検証ができません。

また、ATP検査はどの測定器をつかってもほぼ同じ手順でできますが、試薬の保管方法やATP測定器の操作などはメーカーにより異なります。

ATP検査でできる限り正しい数値を測定するためにも、使用前には説明書をしっかりと読み込みましょう。

ATP検査のメリット・デメリット

メリット

  • 数値で変化がわかる→継続的な検証に向いている(現在と過去の検証など)
  • すぐに結果出る
  • 現場の衛生意識の向上につながる

デメリット

  • 本体が高価である
  • 頻度が高かったり、検証する箇所が多かったりするとコストがかかる

ATP検査のメリットは、検査対象物の汚れの程度が数値ですぐにわかることです。

すぐその場で検査し、製造現場のスタッフに指摘することが可能なので、現場の衛生意識の工場につながります。

また、ATP検査は継続的な検証にも向いています。

同じ箇所や検査対象物を継続的に検査することで、清浄度の変化を数値で確認できます。

ATP検査の数値が徐々に下がれば、現場の衛生管理が徹底されていることの証明になるでしょう。

ATP検査の数値が徐々に上がれば現場の衛生管理が疎かになっていることを現場に指摘する資料にもなります。

一方、ATP検査のデメリットはコストがかかることです。

まずATP測定器の本体価格は10万円前後します。

小規模事業者の中には、複数回使用するのかわからないのに高価な本体を購入するのをためらう方もいるかもしれません。

またATP検査には測定器のほかにも試薬が必要です。

1回あたり120円~と安価に思えますが、検査対象物や検査箇所、検査頻度によっては複数回試薬を使うこともあるため、検査をすればするほどコストがかかるのが難点です。

でも、ご安心ください。各自治体の保健所やメーカーの中には、ATPを期間限定で無償貸出しているところもあります。

ATP検査をしたいけれども、ATP本体の使い心地を確認したい事業者は、まずATP本体を借りて使用感を試し、購入するか検討してみてはいかがでしょうか。

なお、試薬は自己負担なのでご注意ください。

まとめ

ATP検査は誰でも手軽に製造現場の汚れ具合を数値で測定できる検査です。

製造現場の抜き打ち清浄度チェックに使用できるのはもちろんのこと、洗浄方法を変えるときの検証やアレルゲンの交差接触防止などにも役立ちます。

まとめ

  • ATPは有機物に存在するエネルギー分子
  • ATP量を測定することで目に見えない洗い残しや食材残渣をチェックできる
  • ATP検査は誰でも手軽に検査できる

ATP検査は手軽にできる検査ですが、測定機器の価格が10万円前後と高額でありさらに検査対象物や検査頻度が多いと試薬のコストもかかります。

ATP検査の測定機器は、各自治体の保健所でレンタルできることもあるので、コストが気になる方は、まず借りてみるのもよいでしょう。

また、日々の製造現場の洗浄度をチェックする検査方法の1つにたんぱく質残量が試薬の変化でわかるSWAB-Pro(スワブプロ)があります。

こちらもぜひご活用ください。

ATP検査やスワブプロをぜひ、製造現場の衛生管理にお役立てください!

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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