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HACCPの製造工程図を作成しよう!現場チェックはなぜ必要か解説【HACCP導入手順4・5】

HACCPの製造工程図を作成しよう!現場チェックはなぜ必要か解説【HACCP導入手順4・5】

HACCP

HACCP導入手順

  • 手順4:フローダイアグラムの作成
  • 手順5:フローダイアグラムの現場確認


HACCPの中で最も重要なのは、食中毒菌汚染や異物混入などのハザード(危害要因)を把握し、分析することです。

そのためには、食品事業者が自社の製品の製造工程を把握する必要があります。

日々製品と向き合っている現場の責任者は、「現場のフローはすべて把握している」と思い込んでしまいがちです。

しかしながら、実際に製造工程図を作成すると気づかなかった部分や見落としが見つかることがあります。

今回はHACCP7原則12手順のうち、手順6のハザード分析する準備段階である手順4~5までの内容を解説します。

この記事を読めば、正確な自社の製造工程図を作成することができ、次ステップのハザード分析をスムーズに進められるでしょう。

HACCPの製造工程図を作成しよう(HACCP導入手順4)

手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

出典:手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

製造工程図とは、原材料を受け入れ、製造し、出荷するまでの流れを時系列で見える化した図のことです。

「フローダイアグラム」とも呼ばれ、現状を把握するために重要な役割を果たします。

できるだけシンプルかつ正確に分かりやすく、製造部門以外のスタッフにも理解できるようなレベルで作るのがポイントです。

製造工程図は、次の手順6【危害要因の分析】をする際の情報源になるため非常に重要なものになります。

HACCP運用の基本にもなるため、正しく作成することに注意しましょう。

また作成の際には現場の見取り図があると作りやすく、用意しておくことをおすすめします。

HACCPの製造工程図に入れておくべき項目

製造工程図はその名の通り、製造の工程を項目として記します。

製造時に使用するすべての原材料、食品に接する包装容器、さらに水・氷・蒸気・空気などの情報も項目として記入する必要があります。

HACCPの製造工程図に入れておくべき項目

  • 製造加工の操作順、相互関係
  • 原材料、加工助剤(食品添加物)、包装資材、ユーティリティ(諸設備)および中間製品が製造工程に入る箇所
  • 外部委託している工程
  • 再加工・再利用が行われている場所
  • 最終製品、中間製品、廃棄物および副産物が出荷・搬出される場所

ここからは、製造工程図の作成手順を詳しくみていきましょう。

1.横軸に原材料や添加物、包装資材を記入する

手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

出典:手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

主となる原材料をもっとも左に配置し、配合する順番に左から右へと記入します。

原材料が多い場合、ある程度はグルーピングしてもかまいません。

たとえば「冷凍煮物用野菜」や「生食用野菜」といった具合です。

ただしその特性や入荷の形態、保管の温度帯が違うものはグルーピングせず、分けて考える必要があります。

包装資材の場合にも、食品に直接触れるものと触れないものは分けて考えましょう。

2.縦軸に作業工程を記入する

手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

出典:手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

縦軸には、各材料の作業工程を記入します。

以下に例として具体的な工程を挙げてみます。

名称 具体的な工程
受入 納入された原材料や包装資材を受け入れる工程。受入時の形態や温度帯などを確認。加工品の場合には製品企画書でアレルゲンの有無を確認。
保管 原材料の保管や製造中に一時寝かせるための保管、出荷前の保管など。保管の際の温度帯を確認。
計量 原料や副原料、水などを混合する前に重さを計る工程。
調合 軽量した原料や副原料などを混ぜる工程
加熱 食材に火を通す工程。加熱といっても何かを溶かすためなら「溶解」や「加温」など名称に設定しておくと、作業の目的が分かりやすい。
冷却 加熱後の食材の粗熱をとる、食中毒菌の増殖温度帯をすみやかに通過させるなど温度を下げる工程。
包装 製品を包装用容器に入れて封をする工程。
金属探知機 製品を金属探知機に通す工程
検品 原材料の一次処理や出荷前の確認など、正常な状態かを確認するための工程
出荷 最終製品が自社から卸先に向けて出荷される工程。基本はお客様に届くまでが自社の責任の範囲。ただしトラブルの際に回収責任者をはっきりさせる必要があるため、どこまでが自社の名義となるかを確認。

名称はそれぞれの事業者によって違うこともあるため、普段使っている名称で記載しましょう。

3.ゾーニングを記入する

ゾーニングとは、製品の安全性を確保するために、工場を衛生レベル毎に区分けすることです。

一般的に食品製造事業所では、次の3つのゾーンに区分けされます。

ゾーン名 ゾーンの詳細 場所
汚染区域 外気に面しているエリア。異物の侵入を防止することが求められる。 入荷検品室、原料保管庫、廃棄物保管庫、下処理室、梱包室など
準清潔区域 微生物などを清潔区域に持ち込まないようにすることが求められる。 仕込み室、調味料調合室、殺菌前の仕掛品保管庫など
清潔区域 最終製品を扱う最も清潔度が高いエリア。衛生管理に細心の注意が必要。 充填室、盛り付け室、包装室、殺菌後の仕掛品保管庫など

製造工程を作成するときには、作業工程をどのゾーンで行うのかも記入しましょう。

4.各工程に番号を振る

手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

出典:手順4:製造工程をフローダイアグラムとして示す | 低コストでの導入とHACCPの導入事例|全国菓子工業組合連合会

作成した製造工程図の各工程に番号を振りましょう。

後に行う危害分析の際に番号順に確認していくためです。

HACCPの製造工程図を現場で確認しよう(HACCP導入手順5)

HACCPの製造工程図を現場で確認しよう(HACCP導入手順5)

製造工程図が出来上がったら、次は現場で実際に確認します。

ポイントは一人だけに任せず、編成した自社内のHACCPチームで確認を行うことです。

一人だけに任せた場合、見逃しや見落としが発生する可能性が高まります。

製造工程図を正しく作成するためにも、チームでの確認が必要です。

確認を行うのは従業員の動きが見える作業中がベストです。

さらにシフトによっては、従業員独自のルールで作業が行われている可能性もあります。

確認を行うのは1日だけでなく、複数日かけて行うようにしましょう。

作成した製造工程図とかけ離れた箇所はないかしっかりと確認し、異なる点を見つけたらチームで確認後、図の修正を行いましょう。

また「手順6」はチーム全員で現場を確認できる良い機会でもあります。

実際に各工程の作業を自分自身で確認し、理解することで、衛生管理の現状や問題点などを知るきっかけになるはずです。

製造工程図と実際の工程を照らしあわせるだけでなく、その他にも気づきはないか意識しておきたいですね。

HACCPの製造工程図は作りっぱなしにしない!

HACCPの製造工程図は作りっぱなしにしない!

「手順4」で作成した製造工程図は、「手順5」で現場で確認する必要があります。

「チームで作成したのならわざわざ現場で確認しなくてもいいのでは?」と思われる方も多いかもしれません。

しかし現場を見ずに作った製造工程図は、抜けている工程が意外とあるケースが多いのです。

「じつはここで冷蔵庫に保管するんだった!」

「ここの作業は機械と手作業のどちらもあった!」

「ここの工程は順番が逆だった!」

など、実際に現場を見た後に修正する必要があるケースは少なくありません。

各部門の責任者は、「現場のフローはすべて把握している」と思い込んでしまいがちです。

しかし、第三者目線で改めて現場フローを見てみると、気づかなかった部分や見落としが見つかることがあります。

フローの確認は、製造者目線になりますが、合わせて原材料がどこを通るのか、原材料になった目線で確認すると新たな気づきを得ることがあります

そのため机上で製造工程図を作成後、現場で必ずチェックし、照らし合わせておきましょう。

またHACCP運用後も製造工程に変更があった際には、その都度修正することも忘れないようにしたいですね。

誤った製造工程図を作成したときのリスク

HACCP導入において、製造工程図を正しく作成することがこんなにも重要視されているのはなぜでしょうか。

それは製造工程図は危害要因分析の情報源となるためです。

製造工程図作成後、「手順6」以降では工程のどんなところにリスクが潜んでいるか、危害要因の分析を行います。

したがって誤った情報や事実の製造工程図では、正しく危害要因を分析できません。

さらに万が一事故やトラブルが発生した際に原因の追及も難しくなってしまいます。

せっかく衛生管理の手法として導入したはずのHACCPが十分に機能せず、もしものリスクに備えられないことにもなりかねません。

そのため製造工程図は念入りに作成する必要があるのです。

まとめ:HACCPはチームが重要!メンバーで役割分担をして製造工程図をよりよいものにしていこう

まとめ:HACCPはチームが重要!メンバーで役割分担をして製造工程図をよりよいものにしていこう

HACCPの運用において、製造工程図はその後の危害要因分析の際に重要な役割を果たします。

正しい製造工程図を作るためにもチームで取り組み、完成後は現場での確認を怠らないようにしましょう。

まとめ

  • 製造工程図は一人に任せきりにせず、チームで作成する
  • 誤った製造工程図では万が一のリスクに備えられないことがある
  • 製造工程図を作成したら現場で必ず見直す

製造工程図はHACCP運用の基本となる図です。万が一のリスクの備えにもなるため、チーム全体でよりよいものを作成できるよう、取り組みたいですね。

この記事は、【Codex 食品衛生の一般原則2020-対訳と解説】を元に作成しております。

食品安全マネジメントシステムの基準となる食品衛生の一般原理とHACCPの基本原理をわかりやすく解説した書籍です。ぜひご覧ください。

ABOUT ME
【記事監修】株式会社エッセンシャルワークス 代表取締役 永山真理
HACCP導入、JFS規格導入などの食品安全、衛生にまつわるコンサルティング、監査業務に10年以上従事。形式的な運用ではなく現場の理解、運用を1番に考えるコンサルティングを大事にしている。

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