「HACCPは罰則化されているの?」
「HACCP管理を怠ると今後どんなリスクが生じる?」
2021年6月にHACCPが義務化されてもうすぐ1年が経ちます。
すでに多くの食品事業者がHACCPを導入し、実施しているかと思います。
そこでふと気になるのが「HACCP管理に不備がある場合、罰せられるのか?」ということ。
またHACCP管理を怠った場合、どんなリスクが生じるのかも気になるところです。
そこで今回は、HACCPに罰則化はあるかについてわかりやすく解説します。
HACCP管理を怠ったら罰則化はある?
HACCPの義務化は、2021年6月に施行された「改正食品衛生法」第51条2項に明記されています。
食品衛生法第51条2項
食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組(小規模な営業者(器具又は容器包装を製造する営業者及び食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律第六条第一項に規定する食鳥処理業者を除く。次項において同じ。)その他の政令で定める営業者にあつては、その取り扱う食品の特性に応じた取組)に関すること。
「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」がHACCPにあたります。
ところが食品衛生法には、HACCP管理を違反したときの罰則化は明記されていません。
「それならHACCPを導入しなくても問題ないのでは?」と考えている方もいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。
HACCPを導入しなかったり、管理を怠ったりすると都道府県の条例違反として、指導の対象になる恐れがあります。
都道府県の条例で罰則化される可能性あり
HACCPを導入していなかったり、管理を怠ったりしても食品衛生法違反にはなりません。
しかし食品衛生法第60条では、食品事業者がHACCPを導入していない、またはずさんな管理をしている場合、都道府県知事の権限で罰則を与えてもよいと明記されています。
つまり、HACCP管理を適切に実施しないと都道府県の条例に基づいて、営業停止や罰金などが科される可能性があるのです。
なお、都道府県が定める条例を違反した場合の罰則は、第14条3項で明記されています。
地方自治法第14条3項
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
食品事業者がHACCP管理を怠ったまま営業を続けると、2年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される恐れがあります。
都道府県によって条例が異なるので、食品事業者がHACCP管理を怠っても自治体によっては、罰せられないことがあるかもしれません。
しかし、罰せられなかったとしても、HACCP管理を怠れば指導の対象となるのは間違いありません。
営業許可・更新ができなくなる恐れあり
2021年6月以降に食品事業者が営業許可・更新の申請をする場合、「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理計画」を提出する必要があります。
HACCPに基づいた衛生管理計画書が提出できないと、食品事業者の営業許可・更新の許可が下りません。
また衛生管理計画書を提出しても、食品衛生監視員による立ち入り検査で、食品事業者がHACCP管理が適切でないと判断された場合、指導の対象となります。
指導しても改善が見られなかった場合は、悪質とみなされ営業停止などの罰則がされることもあります。
2022年に営業許可制度が改訂されました。以下の記事で詳しく解説していますので、ご覧ください。
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食品衛生法違反になると罰則の対象
HACCP管理を怠っても、食品衛生法違反にはなりません。
しかしHACCP管理を怠ったことが理由で、食中毒や異物混入などの事故が発生した場合は、食品衛生法違反となり罰則の対象となります。
食品衛生法違反の罰則は厳しく、事故が起きてしまうと3年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科される可能性があります。
また、食品衛生法違反に該当すると、食品衛生法第69条に基づき食中毒事故を起こした食品事業所の名称、経営者の名前が公表されますので覚えておきましょう。
HACCP管理を怠ることによる罰則化はないけど実施しないとデメリットだらけ
HACCP管理を怠ることによる罰則化はありませんが、次のデメリットが生じます。
HACCP管理を怠ることのデメリット
- 企業や飲食店のイメージダウン
- 優秀な従業員が離れていく
- 食品安全を担保する根拠を持った製品が作れない
いずれも企業にとって、大きなダメージになるものばかりです。 1つずつ詳しく見ていきましょう。
デメリット1:企業や飲食店のイメージダウン
HACCP管理を怠っていることが、消費者や取引先に知られてしまうと、「食品衛生の意識が低い企業だ」とみなされイメージダウンにつながります。
企業や飲食店のイメージダウンは、消費者や取引先との信頼を失い、売上を下げる大きな原因となります。
またHACCP管理がずさんだと、食中毒や異物混入のリスクが高まり大変危険です。
食中毒や異物混入などの事故が発生すると、営業停止や被害者の方への損害賠償など企業や飲食店は大きな痛打を負ってしまいます。
小規模事業者であれば、経営を断念せざるを得なくなる状況に陥る可能性もあります。 企業へのイメージダウンだけでなく、事故を未然に防ぐためにもHACCP管理を怠らないようにしましょう。
デメリット2:優秀な従業員が離れていく
食品事業者がHACCP管理を怠ったり、導入しなかったりすると、優秀な従業員は将来のリスク回避のためその企業から離れていきます。
優秀な従業員が離れていくと残るのは、経営者と同じ考えをもつ衛生管理の意識が低い従業員のみとなり、さらに食中毒や異物混入のリスクが高まります。
また優秀な従業員が集まらないと、業務効率も低下するため売上にも影響が出てくるでしょう。
その結果、1人当たりの業務時間が長くなり、労働環境が悪化してしまうという悪循環が発生してしまう恐れもあります。
優秀な従業員を離れさせないよう、HACCP管理を徹底することは、会社の未来を守ることにも繋がります。
デメリット3:食品安全を担保する根拠を持った製品が作れない
HACCP管理を徹底しないと、製造工程のどの箇所で異物混入や食中毒のリスクが高く、何をチェックすべきかというリスク分析ができません。
どの製造工程で何のリスクが伴うか、経営者も従業員もわからないので、チェックもずさんになりがちです。
その結果、異物混入を見落としてしまったり、加熱が十分でなかった商品を取引先や消費者に提供してしまったりする恐れがあります。
「安心・安全な商品を口にできるかどうかは、消費者や取引先の運次第…」というような恐ろしい商品は購入したくないですよね。
このようにHACCP管理がずざんだと、安心・安全な食品を製造しお客様に自信を持って提供することができなくなります。
HACCPで罰則化の対象とならないためにすべきことは?
2022年4月時点で、HACCP管理を怠っても食品衛生法の罰則を受けることはありません。
しかし、食品による食中毒や異物混入の事故がいまだに後を絶たないので将来、罰則化される可能性は十分あります。
HACCPで罰則化の対象とならないためにすべきことは、一刻も早くHACCP管理を徹底させることです。
HACCPは導入時に手間と時間を要しますが、正しい衛生管理計画を作り記録を取ると、次のようなメリットもあります。
HACCP管理を徹底させることによるメリット
- 作業効率が上がる
- 食材の在庫管理によって材料費のムダがなくなる
- 商品の安心・安全が保障され消費者や取引先から信頼を得る
- リスクの高い工程を重点的にチェックできるので、業務の効率化につながる
- 従業員の衛生管理の意識が高まる
その結果、最終的には売上アップにも繋がります。
とはいえ、いま実施しているHACCP管理が適当なものかわからず、悩んでいる経営者の方もいるかと思います。 まずは、こちらの記事を読み、HACCPの知識を高めましょう。
また、HACCP管理でコンサルタントをご検討の方は、こちらまでご連絡ください。
まとめ
「HACCPは罰則化されていないから、実施しなくても大丈夫」という考えは大きな間違いです。
なぜなら、HACCPは食品衛生法では罰則化されていませんが、都道府県の条例により罰則が科される可能性があるからです。
また、HACCPを実施しないと次のデメリットが生じます。
まとめ
- 企業や飲食店のイメージダウン
- 優秀な従業員が離れていく
- 食品安全を担保する根拠を持った製品が作れない
食中毒や異物混入の大きなリスクを回避し、安心・安全な商品を提供するためにも、HACCPを必ず実施しましょう。
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