サルモネラ菌食中毒や腸炎ビブリオなど、日本で猛威をふるった食中毒は、企業努力と法整備により近年、発症数は年々減少しています。
一方で飲食店で発生しやすいカンピロバクター食中毒は、なかなか減少せず、2021年の細菌性食中毒発症数ワースト1位を記録しました。
この記事では、カンピロバクター食中毒の特徴から予防策、飲食店で発生しやすい理由について解説します。
鶏肉を生や半生で取り扱っている飲食店の方は、この記事でカンピロバクター食中毒の正しい知識を身につけましょう。
飲食店で発生しやすい!カンピロバクター食中毒とは?
カンピロバクターとは、鶏や牛、豚などの家畜、家きん類の腸内に生息している食中毒菌です。
加熱が不十分な食肉(とくに鶏肉)や内臓を喫食することで、食中毒を発症します。
食肉を十分に加熱調理したとしても、生肉を切った後に調理器具を十分に洗浄・消毒しないと二次感染する恐れがあるので注意が必要です。
また、犬や猫などのペットもカンピロバクター菌を保菌している可能性があり、海外では過去に子犬が原因の集団食中毒事故も発生しています。
カンピロバクター食中毒の発症件数
飲食店で発生しやすいカンピロバクター食中毒事故は、新型コロナウイルス感染症拡大による外出自粛により、ここ数年減少傾向にあります。
しかしコロナ禍以前の食中毒事故件数と患者数を見てみると、他の食中毒菌と異なり横這いもしくは微増していることが読み取れます。
過去10年間のカンピロバクター食中毒の事故件数と患者数は次の通りです。
西暦 | 食中毒事故件数 | 患者数 |
2021年 | 154 | 764 |
2020年 | 182 | 901 |
2019年 | 286 | 1937 |
2018年 | 319 | 1995 |
2017年 | 320 | 2315 |
2016年 | 339 | 3272 |
2015年 | 318 | 2089 |
2014年 | 306 | 1893 |
2013年 | 345 | 2206 |
2021年の食中毒統計(厚生労働省)に注目してみると、菌由来の食中毒事故件数の総数は230件。
そのうちカンピロバクター食中毒の件数は154件と全体の67%を占め、ワースト1位となっています。
カンピロバクター食中毒の発生施設
カンピロバクター食中毒事故の発生施設の大部分は飲食店を占めます。
2021年の食中毒統計を見てみると、カンピロバクター食中毒事故の総数154件のうち、106件が飲食店で起きており全体の約70%を占めています。
カンピロバクター食中毒の潜伏期間
カンピロバクター食中毒の潜伏期間は長く、平均で2~5日間です。
なかには喫食してから10日後に発症するケースもあります。
そのため、原因食品が特定しにくいのもカンピロバクター食中毒の特徴の1つです。
カンピロバクター食中毒の症状
カンピロバクター食中毒の主な症状は次の通りです。
カンピロバクター食中毒の症状
- 下痢(しばしば血性となる)
- 腹痛
- 発熱
- 頭痛
- 嘔吐
基本的に他の食中毒の症状と大差なく、3日~6日間続きます。
死亡例や重篤例はほとんどありませんが、乳幼児や高齢者などハイリスク集団が発症すると、重症化する恐れがあります。
また稀にギラン・バレー症候群を発症してしまうことがあると言われています。
カンピロバクター食中毒で発症する恐れのあるギラン・バレー症候群
ギラン・バレー症候群とは、末梢神経に障害を伴い、手足や顔面神経の麻痺、呼吸困難などの症状を起こす病気です。
カンピロバクター食中毒をり患した患者の1~2%の割合で発症します。
「なぜ食中毒から末梢神経系の障害に繋がるのか?」疑問に思う方もいるでしょう。
結論から言いますと、カンピロバクター食中毒の一部の菌株と人の末梢神経組織の構造がよく似ており、免疫物質が誤って末梢神経組織を攻撃してしまうことで発症します。
ギランバレー症候群を発症すると、急速に症状が進み約1ヶ月以内に最も悪化します。
人によっては、意識はあるのに手足だけでなく顔、目、舌が動かせない「閉じ込め状態」の症状になることもあるのです。
また、呼吸筋の抹消神経系に障害を負った場合、一時的に人工呼吸が必要になることもあります。
ギランバレー症候群にかかった患者のうち、約80%は1年以内に後遺症なく回復します。
しかしながら、約20%の患者は1年以上経っても後遺症が残ることもあるので軽視できません。
なぜ?カンピロバクター食中毒が飲食店で発生しやすい理由
カンピロバクター食中毒が飲食店で発生しやすいのは、鶏の刺身やたたきなどの半生または加熱不十分な調理での鶏肉料理の提供、調理器具の洗浄不足での交差汚染での発生が考えられます。
出血性大腸菌O157による死亡事故多発により、2012年以降、ユッケなど牛肉の生食料理の提供は食品衛生法により規制されました。
ユッケなどの代わりに鶏レバーや鳥刺しなどを提供する飲食店が増えたのも原因の1つだと考えられています。
一般的に食中毒は鮮度の悪い食品や温度管理を怠った食品を喫食することで発症します。
しかし、カンピロバクター菌は他の食中毒菌と異なり、新鮮な食肉でも食中毒を発症します。
なぜなら、食肉処理後の鶏肉でカンピロバクター菌が発見される割合が約70%と非常に高いからです。
つまり鮮度の良し悪しに関わらず、鶏肉にはカンピロバクター菌が付着していると言っても過言ではありません。
しかし、一部の飲食店では、「新鮮な鶏肉なら生食で提供しても問題ないだろう」と判断し、加熱用の鶏肉を使った生または半生状態の鶏肉料理を提供しています。
一部の飲食店のカンピロバクター菌に対する甘い認識が、食中毒事故の原因となっているのです。
この状況を踏まえ、厚生労働省や各都道府県の保健所では、飲食店にカンピロバクター食中毒の注意喚起・指導を行っていますが、それでも事故は増え続けています。
要確認!カンピロバクター食中毒の特徴
カンピロバクター菌は、他の食中毒菌と異なる3つの特徴を持ちます。
お客様に聞き取る内容
- 大気に触れると死滅
- 少量の菌数でも発症
- 低温でも生き残りやすい
それでは1つずつ見ていきましょう。
特徴1:大気に触れると死滅
カンピロバクター菌は、酸素が3~15%の環境下で生育、増殖する微好気性菌です。
大気中に含まれる酸素が21%なので、大気に触れると死滅します。
さらに乾燥や熱にも弱いという特徴を持ちます。
特徴2:少量の菌数でも発症
特徴1よりカンピロバクター菌は、鶏生肉の中や動物・人間の腸内など特殊な環境下でしか増殖できません。
しかし、他の細菌性食中毒に比べ、少量菌数でも食中毒を発症するので注意が必要です。
特徴3:低温でも生き残りやすい
カンピロバクター菌は常温よりも低温下で生き残りやすいという特徴があります。
冷蔵庫温度1~10℃で生存期間が延長するので注意が必要です。
しかしながら、常温下に放置してしまうと腐敗が進み、別の食中毒菌が増殖してしまう恐れがあります。
調理直前まで冷蔵庫内で保管しましょう。
カンピロバクター食中毒3つの予防法
カンピロバクター食中毒菌は、急性症状を伴うギラン・バレー症候群になることもある恐ろしい病気です。
しかし、熱や乾燥などの環境の変化に弱いことから、通常の食中毒予防法で防げます。
ここからは、カンピロバクター食中毒の予防法について見ていきましょう。
予防法1:加熱調理を行う
カンピロバクター菌は、中心温度75℃1分間の加熱で死滅します。
鶏肉を調理するときは、加熱調理を行いましょう。
冒頭でも述べましたが、「新鮮な鶏肉は生食できる」という認識は大きな間違いです。
カンピロバクター菌は、食肉処理をした鶏肉の約70%に付着しています。
このことから、生食用専用以外の鶏肉を生または半生で提供しないようにしましょう。
予防法2:調理器具は洗浄後に熱湯殺菌・乾燥
カンピロバクター食中毒は、調理器具の交差汚染で感染拡大することがあります。
生の鶏肉を扱った後の調理器具は、速やかに洗浄し、熱湯殺菌・乾燥をしましょう。
食肉処理用の専門容器や調理器具をあらかじめ作って、他の食材の調理器具と分けておくのも予防策の1つです。
予防法3:調理の変わり目で手を洗浄・消毒
調調理の変わり目で手を洗浄・消毒するのを忘れないようにしましょう。
カンピロバクター食中毒は少量の菌でも発症します。
もし手に菌が付着したまま、調理を続けてしまうと交差汚染でカンピロバクター食中毒の発症リスクが高まります。
生食用食鳥肉の衛生基準が定められている鹿児島県
鹿児島県の食文化である、鶏のたたきは生食用鶏肉として消費者に提供するため、厳しい安全基準が定められています。
飲食店で鶏のたたきを提供する際には、これらの衛生基準を順守した企業から仕入れましょう。
新鮮だからと言って、衛生基準をクリアしていない加熱用鶏肉を鳥刺しやたたきとして提供するのは大変危険です。
新鮮さと菌汚染は別物であると認識し、生食用鶏肉以外の鶏肉は中心部までしっかり加熱調理しましょう。
まとめ
カンピロバクター食中毒は、主に加熱不十分な鶏肉を食すことにより発症します。
症状は他の食中毒菌と大差ありませんが、稀にギラン・バレー症候群と呼ばれる末梢神経に障害が出る病気になる恐れがあることを知っておく必要があります。
まとめ
- カンピロバクター食中毒事故の多くは飲食店で発生している
- カンピロバクター菌は熱・乾燥・酸素に弱い
- 新鮮な鶏肉にもカンピロバクター菌は付着している
2012年以降、腸管大腸菌O157で牛肉の生食提供が国で規制されたことから、代わりに鳥刺しや鶏レバーを提供する飲食店が増えています。
「新鮮ならば食中毒にはならないだろう」という安易な認識で、加熱用の鶏肉を生や半生調理し、提供する飲食店が後を絶たないためカンピロバクター食中毒事故は増加しているのが現状です。
加熱用の鶏肉を生で提供するのは、大変危険です。
安全が保証された食事をお客様に提供するためにも、カンピロバクター食中毒の正しい知識を身に付けましょう。
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