
「溶出試験」と聞いて、「難しそう」「メーカーがやるものでは?」と感じる食品事業者の方も多いかもしれません。
たしかに、溶出試験そのものは容器や器具のメーカーが実施する試験であり、食品事業者が自ら行う必要はありません。
しかし、食品に直接触れる器具・容器包装の安全性を確保する責任は、最終的に食品を提供する事業者にもあります。
食品用でない容器を誤って使用したり、材質や用途を確認せずに使った結果、思わぬトラブルにつながった事例も実際に起きています。
そのため、溶出試験について「知らなかった」では済まされません。
この記事では、食品衛生法で定められている溶出試験の基本的な考え方と、食品事業者が「何を確認すればよいのか」「どこまで対応すれば十分なのか」を、実務目線でわかりやすく解説します。
なぜ?食品衛生法で定められた溶出試験を行う理由
食品用の器具や容器包装の多くは、プラスチックなどの化学物質を原料として作られています。
これらの器具や容器は、食品に直接触れることで、使用状況によっては成分の一部が食品中に溶け出してしまうおそれがあります。
万が一、有害な化学物質が食品に移行した場合、人の健康に影響を及ぼす可能性もあるためこうしたリスクを未然に防ぐために溶出試験が必要です。
こうしたリスクを未然に防ぐために、器具や容器包装から化学物質がどの程度溶け出すのかを確認する試験が「溶出試験」になります。
溶出試験の結果、食品衛生法で定められた規格基準を超える量の化学物質が検出された場合、その器具や容器包装は製造・販売することができません。
溶出試験の対象となるのは、食品用の器具・容器・包装です。
食品事業者が日常的に使用しているテイクアウト容器や調理器具も、こうした基準を満たしたものが流通しています。
また、乳幼児が舐めたり、口に入れたりする可能性のある6歳未満向けのおもちゃについても、安全性を確保する目的で溶出試験が義務付けられています。
このように、溶出試験は主にメーカーが実施する試験ですが、食品を提供する立場である食品事業者にとっても、使用する器具や容器の安全性を理解しておくことが重要です。
食品衛生法における溶出試験の方法
食品衛生法における溶出試験では、食品用の器具や容器包装から、有害な化学物質が溶け出さないかを確認するための試験が行われます。
あわせて、使用されている材料そのものに問題がないかを確認する「材質試験」も実施されます。
| 試験方法 | 内容 |
|---|---|
| 溶出試験 | 器具や包装容器から有害物質が溶け出さないかを確認する |
| 材質試験 | 器具や包装容器に使用されている基材に有害物質が混入していないかを確認する |
溶出試験では、実際の食品は使用せず、食品の性質を再現した「溶媒」を用いて試験を行います。
これは、食品は種類が多く成分も複雑で、分析条件が一定にできないためです。
そのため、食品の代替として性質が一定の溶媒を使用することで、安定した条件で化学物質の溶出量を測定します。
代表的な溶媒は次の通りです。
| 溶媒 | 内容 |
|---|---|
| 4%酢酸 | pH5以下の酸性食品を疑似 |
| 水 | pH5以上の食品を疑似 |
| 20%エタノール | 酒類を疑似 |
| へプタン | 油脂及び脂肪性商品を疑似 |
溶出試験は、以下の手順で実施されます。
溶出試験の手順
- 試験対象となる器具や容器に、適切な溶媒を満たし、一定時間放置する
- 溶媒を採取し、器具や容器から有害物質が溶け出していないかを分析する
なお、使用する溶媒や規制対象となる化学物質は、器具や容器包装の材質や用途によって異なります。
包装容器を使用している食品事業者は何を確認すればよい?
溶出試験は、器具や容器包装のメーカーが実施する試験であり、食品事業者が自ら行う必要はありません。
ただし、食品を提供する立場として、使用する器具や容器の安全性を確認することは重要です。
ここでは、食品事業者が仕入れ時に押さえておくべきポイントを整理します。
包装容器が食品用として販売されているかを確認する
まず確認すべきなのは、その器具や容器が食品用として販売されている製品かどうかです。
雑貨や装飾品など、食品用途を想定していない製品は、溶出試験が行われていない場合があります。
とくに市販品や安価な容器を使用する場合は、「食品用」「食品接触可」といった表示の有無を必ず確認しましょう。
包装容器が溶出試験に適合しているか、情報提供を受ける
溶出試験は、容器や器具の製造業者や輸入業者が、第三者機関に依頼して実施しています。
食品事業者が試験結果を自ら確認することは難しいものの、仕入れ先に対して、溶出試験への適合状況や使用している材料について情報提供を求めることは可能です。
合わせて樹脂製の器具・容器は、2025年6月以降、ポジティブリスト制度に適合しているかどうかの確認が必要です。
使用条件(温度・アルコール・油脂)に注意する
器具や容器包装は、使用条件によって溶出のリスクが高まることがあります。
たとえば、アルコールを含む飲料や高温の料理、油脂の多い食品は、成分が溶け出しやすい条件です。
製品が想定している用途や使用条件を超えた使い方をしていないか、あらためて確認しましょう。
このように、食品事業者が溶出試験を自ら行う必要はありませんが、「食品用かどうか」「試験に適合しているか」「使用条件に合っているか」を確認することが重要です。
また、実際に包装する商品の特性や保存方法の条件(冷凍・冷蔵・真空)なども確認する必要があります。
実際にあったトラブル事例|風呂桶のケース
ここまでの解説を読んで、「溶出試験はメーカーが行うものだし、食品事業者にはあまり関係ないのでは」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、溶出試験や器具・容器包装の安全性についての知識がないままでは、知らず知らずのうちにリスクの高い選択をしてしまうおそれがあります。
実際に、2020年には「風呂桶を食器や酒器の代わりとして飲食店で使用していた事例」がニュースになりました。
本来は入浴用として製造・販売されている風呂桶を、料理を盛り付けたり、お酒を注いだりする目的で使用していたことが判明し、販売元が注意喚起を行ったのです。
驚くことに、こうした使用方法は1店舗にとどまらず、複数の飲食店で確認されていました。
「映え」やインパクトを狙った演出だったのかもしれませんが、風呂桶は食品用として設計された製品ではありません。
そのため、アルコールを含む飲料や高温の料理を入れた場合、容器の成分が溶け出すリスクが高まる可能性も考えられます。
幸い、健康被害の報告はありませんでしたが、使用状況によっては思わぬトラブルにつながっていた可能性も否定できません。
もし飲食店側が、溶出試験や食品用器具・容器包装の安全性について正しく理解していれば、このような事態は防げたはずです。
こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、食品事業者は使用する器具や容器が食品用途として適切かどうかを確認する意識を持つことが重要です。
食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度とは?
2020年6月、改正食品衛生法の施行により、食品用器具・容器包装に「ポジティブリスト制度」が導入されました。
これは、安全性が確認された物質のみを使用できるとする規制の仕組みです。
それまで採用されていた「ネガティブリスト制度」では、規制されていない物質については原則として使用が可能とされていました。
しかし、国際的な制度との整合性や、より高い安全性の確保を目的として、ポジティブリスト制度への移行が進められました。
現在は、合成樹脂(プラスチック)を対象としたポジティブリストが対象です。
ポジティブリスト制度は、「使用できる物質」を定めるルールであり、溶出試験は、その物質が実際の使用条件下で食品に溶け出さないかを確認する試験です。
この2つの仕組みによって、食品用器具・容器包装の安全性が確保されています。
食品事業者は、ポジティブリストに適合した材料が使用され、かつ溶出試験に適合している製品を選ぶことが重要です。
まとめ:食品事業者も食品衛生法で定められた溶出試験について知っておこう
溶出試験そのものは容器包装のメーカーが第三者機関に依頼して実施するため、食品事業者に直接関係するわけではありません。
しかし食品用の容器包装や器具の使用にあたり食品事業者もその安全性を確保するため溶出試験の知識を持って選定する必要があります。
まとめ
- 溶出試験は食品用容器包装や器具を使用の際に溶け出る化学物質を測定する試験
- 食品事業者は溶出試験をクリアした容器包装や器具を使うことを求められている
テイクアウトやデリバリーを含め、食品用の器具や容器を使用する機会が増える中、事業者にはより確実な安全確認が求められています。
安心して口にできる商品を提供するためにも、器具や容器包装の仕入れる際には、溶出試験をクリアしているか必ず確認しましょう。
コメント
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Reply #1 on : 月 12月 23, 2024, 09:38:55 田村 **















Reply #2 on : 水 12月 25, 2024, 13:45:59 easy hygiene