
「定期的に清掃しているのに、なぜかカビが出る――」
そう感じている食品製造現場の担当者は、少なくないのではないでしょうか。
カビは一度根付くと、目に見えない場所で静かに広がり続けます。放置すれば、製品へのカビ毒混入やリコール、従業員の健康被害、設備の劣化など、企業全体に深刻なダメージをもたらします。
カビ対策で重要なのは、「発生してから除去する」ではなく、「発生させない仕組みをつくる」こと。
本記事では、カビが繁殖するメカニズムや現場の死角、日常・定期それぞれの清掃のポイントから、誰が実施しても同じ結果が出る手順書の整備まで、現場ですぐに役立つ知識をまとめて紹介します。
食品製造現場のカビを放置するリスク
食品製造現場でカビを放置することは、製品の安全性だけでなく、企業の信用や従業員の健康にも関わる深刻なリスクをはらんでいます。
製品への混入・リコールと信用失墜
放置されたカビは胞子を飛ばして拡散し、製品への混入リスクを高めます。
また、カビは成長すると崩れにくい菌糸の塊となるため、「異物」として食品に混入する事例も多く見られます。
やっかいなのは、見た目にカビとわからない場合でも、カビ毒(マイコトキシンなど)が残存している可能性がある点です。「見た目で問題なければ大丈夫」とは言い切れません。
万が一、カビの混入が発覚した場合、該当商品のリコールに発展するケースもあります。
問題が複数の製品に及べば大規模な回収となり、消費者からの信頼を失うだけでなく、ブランドの品位低下にも直結する深刻な事態です。
消費者・従業員への健康被害
食品へのカビ被害は、「カビが付着→増殖→カビ毒産生→喫食→食中毒」という流れで起こります。
カビ毒は熱に強く、加熱調理後も残存するものがあるため、一度産生されると除去が難しいのが特徴です。
さらに、カビが大量発生した環境はアレルゲンや有害物質を発生させ、現場で働く従業員の健康にも深刻な悪影響を及ぼします。
このリスクを防ぐには、2つの視点からの対策が必要です。
- 汚染された原材料の使用
- 製造工程中の二次汚染はないか
今回は、製造工程中に起こる二次汚染の原因と対策について詳しく解説します。
設備の腐食とメンテナンスコストの増加
カビの発生原因となる結露や湿気などの水たまりの状態を放置すると、機械・設備の金属部品のサビや腐食、建物の劣化を引き起こします。
設備の故障や交換が必要となり、結果的に大きなコスト損失につながります。
なぜうちの現場にカビが生えるのか?原因を知らずに対策しても意味がない
「定期的に清掃しているのに、なぜカビが出るのか」――そう感じている方は少なくないのではないでしょうか。
実は、カビが発生する現場には必ず「共通の原因」があります。闇雲に清掃を強化するだけでは、根本的な解決にはなりません。
まずはカビが繁殖するメカニズムを正しく理解することが、効果的な対策への第一歩となります。
カビが「育つ条件」は3つだけ――栄養・水分・温度
カビが繁殖するのは、次の3つの条件が揃ったときです。
- 栄養源(食品残渣・ホコリ)
- 水分(結露・水たまり)
- 温度(カビが好む25~28℃)
とくに見落とされがちなのが「湿度」です。湿度が65%を超えると、カビは胞子を飛ばして急速に繁殖を始めます。
対策の基本は、こうしたカビが繁殖しやすい生育環境を1つずつ断つことです。
製造現場のどのような場所でカビが発生しやすいのかをまず把握することから始めましょう。
「まさかここが?」カビが潜む死角リスト
カビの汚染源は、排水溝といった目立つ場所だけではありません。日常の清掃では見落としがちな「死角」には、次のような場所があります。
- 壁面の結露
- 照明器具の裏側
- 天井やつなぎ目、通気口周り
- 冷蔵庫・冷凍庫ドアのパッキン
- 冷蔵庫・冷凍庫下のドレーンホース
- 機器下、シンク下の奥の床・壁
これらの場所は空気の流れが悪く、水気や湿気が滞留しやすいのが特徴です。そのため、カビが静かに根を張り、増殖する絶好の環境となっています。
また、機器下や冷蔵庫下には「なんでこのようなものが落ちているの?」というような食品残渣が落ちていることがよくあります。
そういったものもカビ発生の原因の1つです。
日常の清掃時には、死角となるこれらの場所にも目を向け、汚れを見つけたらその都度対処するようにしましょう。
カビの防ぎ方
カビの発生場所によって、適切な洗浄方法や予防策は異なります。
共通して言えるのは、カビが一度根付くと次亜塩素酸ナトリウムでも除去しきれなくなるということ。「カビが生えてから対処する」ではなく、「カビが生えない仕組みをつくる」ことが何より重要です。
理想は製造後の除湿管理
環境全体に対して最も効果的な方法は、製造後に室内の湿度を65%以下に3時間保つことです。これが実現できれば、カビの発生を大幅に抑えることができます。
ただし、部屋の規模や製造する商品によっては難易度が高く、業務用除湿機などの設備投資が必要になるケースも少なくありません。
設備投資が難しい場合は「水気を残さない」清掃の仕組みを
除湿設備の導入が難しい場合は、湿気や水分をその場に残さない清掃の仕組みをつくることが現実的な対策です。以下のような取り組みから始めてみましょう。
日常の清掃でできること
毎日の清掃時に湿気や水分をひと拭きするだけでも、カビの発生を大きく抑えられます。清掃後の水切りをしっかりおこない、水たまりができないよう意識することも大切です。
機器下など暗くて見づらい場所は、LED懐中電灯で照らすと汚れやカビの発生を早期に発見できます。
また、冷蔵庫などの脚が低すぎるとブラシが届かず奥まで清掃できないため、日々の清掃がしやすい機器の高さになっているかどうかも、あわせて確認しておきましょう。
業務用除湿機の導入が難しい場合でも、家庭用の大型除湿機を補助的に活用するだけで、湿度管理の効果が期待できます。ただし、除湿機のタンクに水が溜まると、あふれて水たまりの原因になることがあります。排水溝のドレーンホースに接続しておくと、こまめなタンクの水捨て作業も不要になり安心です。
特別な対策よりも、こうした日々の小さな積み重ねこそが、カビの発生を防ぐ何よりの近道です。
定期的なメンテナンスでできること
月に1回は、冷蔵庫・冷凍庫のパッキンを次亜塩素酸ナトリウムでつけ置き洗浄しましょう。黒カビが出てからでは除去が難しくなるため、目に見える汚れがない段階から予防的に実施するのがポイントです。
また、排水溝周りのタイルが劣化・破損すると、隙間に水がたまりカビや害虫の侵入につながります。
隙間が広がらないよう、定期的な状態確認とメンテナンスをおこなってください。
カビの発生は「清掃の怠慢」だけが原因ではない
カビが発生する原因は、清掃不足だけではありません。設備的に清掃がしづらい構造になっていることで、気づかないうちにカビが発生・拡散しているケースもあります。
例えば、機器の高さを調整する、機器を壁からブラシが入る程度離して設置するといった工夫だけでも、日々の清掃が隅々まで行き届くようになり、カビの発生を大きく抑えられることがあります。
「きちんと掃除しているのにカビが出る」と感じたときは、清掃方法だけでなく、設備の配置や動線の見直しも検討してみてください。
カビ対策を「仕組み」に変える――カビを再発させない現場管理
カビ対策は、一度きりの清掃で終わるものではありません。カビを防ぐためには、いかに清掃しやすい環境をつくるかが重要です。
そのための土台となるのが、5Sの徹底と手順書の整備です。「誰でも・毎回・同じように」実行できる仕組みを作ることです。
カビ対策の基本は5S
カビ対策の基本は、5S(整理・整頓・清掃・清潔・習慣)の徹底です。
製造現場に物が多ければ多いほど、清掃が大変になるので、不要な物品や使用頻度が低いものは置く場所を代えるなどして、物理的に清掃しやすい環境を整えましょう。
清掃しやすい環境を整えることで、カビの栄養源となる残渣やホコリの蓄積を、物理的に防ぐことができます。
また、現場での気づきを仕組みに活かすことも重要です。その現場でカビの生えやすいウィークポイントはどこなのかを従業員同士で共有し、常に状態が確認できる仕組みにすることが効果的です。
こうした日々の積み重ねが、衛生管理を高いレベルで維持するための土台となります。
清掃チェックでは○となっているけれども
清掃チェックで「○」がついている場所でも、改めて確認するとカビが生えていた、汚れが残っていたというケースは少なくありません。
チェックリストはあくまで「やった記録」になりがちですが、本来大切なのは清掃をして、きちんと綺麗になったかどうかを記録することです。
また、「綺麗な状態」の基準は人によって異なります。担当者が変わるたびに清掃の質にばらつきが出ないよう、手順書をきちんと整備し、誰がいつ実施しても同じ結果になる仕組みをつくることが重要です。
誰がやっても同じ結果にする|清掃・カビ防止手順書の作成
カビ対策を個人の勘や経験に頼っている限り、担当者が変わるたびに清掃の質にばらつきが生じます。大切なのは、誰が実施しても同じ結果が得られる仕組みをつくることです。
その鍵となるのが、衛生標準作業手順書の作成です。HACCPの基本に基づき、次の5つを詳細に文書化しましょう。
- いつ
- どこで
- 誰が
- 何を
- どのように清掃するか
また、文字だけの手順書よりも、良い状態と悪い状態を並べた画像や、見落としがちな清掃箇所の写真を盛り込むと、現場で迷わず動けます。清掃手順を動画で見せる方法もおすすめです。
文字だけでは伝わりにくいイメージも、映像なら直感的に共有できます。
誰が見ても作業内容を把握できる手順書こそが、安全で衛生的な製品づくりの第一歩です。
まとめ:カビ対策を「仕組み」にして、安全な現場を守ろう
カビは一度発生すると、目に見えないところで静かに広がり続けます。
「清掃しているから大丈夫」という思い込みが、最大の落とし穴となることも少なくありません。
まとめ
- カビが繁殖する条件は「栄養源・水分・温度」の3つ
- 現場のウィークポイントを把握する
- 日々の清掃でカビ発生のリスクを下げる
- 誰が清掃してもカビを防げるような清掃手順書を作る
食品製造現場において、一度根付いてしまったカビを自社の清掃だけで完全に除去し、その状態を維持し続けるのは容易ではありません。
清掃を繰り返しても再発する根深いカビに悩んでいる場合や、現在の洗浄手順が最適かどうか判断に迷う場合は、一人で抱え込まずにプロのコンサルティングを検討しましょう。
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